第35話 新兵器とワキヤック
ワキヤック処刑から2日が過ぎようとしていた。
クソデカリボルバー装置を持ってようやくチキン領まで戻ってきた。
「ワキヤック様〜!?これまたでっかいの?持ってきましたね〜。どうぞお通りください」
「うっす、ご苦労さん!」
チキン領の門番もすっかり顔見知り。
挨拶してリボルバーの装置を背負ったままイバリンに挨拶しに屋敷に行くと、
「ワキヤァッッックきょーーー!!おっおっおっ!?本物だぁ〜(うっとり)。見ろガンス!私の目の前にあのアーティファクト【ハルマゲドン】があるぞぉ↑」
「う、うつくしいガンス。このフォルム、この重量感…なんだかときめくがんす〜」
「まぁまぁ…大きいわね〜。あらあら、ワキヤックちゃん久しぶりねぇ〜」
「オンワ夫人、お久しぶりです」
オンワ・チキン夫人。
ガンスの母親でワキヤックとは顔見知り。
ちょくちょく遊びに来るワキヤックやドワーフの
チキン家はニワトリの畜産のお蔭か、卵を使ったお菓子が有名である。
「わたくし、パウンドケーキをたくさん作り過ぎてしまったの?ワキヤックくんも食べてくかしら?」
「いただきやす!」
いつもの客室に案内されると、早速ここまでの経緯をイバリンとガンス達に話した。
「ククク……流石はワキヤック卿だ!想像を超える事を難なくやってのける!処刑を退けた!?【ハルマゲドン】を奪取!?その【ハルマゲドン】が我が研究所にあるとは―――んひぃ↑!!愉悦ぅ!!!」
あの威厳があったイバリンの姿はもはやなく、子供のように魔道具と戯れる男と成り下がった。
しかし、おかげで家族仲が円満になって現在オンワ夫人のお腹には第二子が居るらしい。
よく見るとちょっとお腹がふっくらしている。
「ああイバリンさん、棟梁も呼んでくれよ?【ハルマゲドン】は棟梁のお土産なんだからな?」
「う、うむ」
しかし、カマセー領より魔道具研究所の施設は遥かにいいためチキン領に持ってきたと言うわけである。
とここで、ワキヤックは何かに思い出した。
「おーっと忘れてた。イバリンさんにはコレを持ってきたんだっけ」
そう言ってアルにアイサインを送ると、執事のアルはクソデカ電話機を持ってくる。
「えっと、これはヤクキメっていう枢機卿から拝借したんだけど、これもアーティファクトっいう―――」
「これはかつての勇者がもたらした伝説のアーティファクトの一つ【テレフォン】ですよ!?遥か遠くの者と連絡が取れるという伝説のアーティファクトなんですよ!?まさか…この【テレフォン】を…無償で?」
「うん」
「うっひょーーー!!ワキヤックだいちゅきぃ!(小並感)」
早速【テレフォン】を持ってガンスと共に研究所に向かうイバリン。
「あら〜、あなた達パウンドケーキはいいの〜?」
「すまんがそれどころではないんだ!後で食べる!」
「こんな面白そうなもの研究できるなんて一刻も無駄にしたくないがんす」
「あらあら〜男の子ねぇ〜。アルちゃんは食べる?」
「いただきます!夫人のお菓子が食べれるなんてラッキーです!」
「まぁまぁ嬉しいわ!じゃあチーズケーキも追加しちゃう」
「フォー!!」
アルとワキヤックは夫人の絶品菓子を食べていると外で何やら五月蝿い。
窓から覗くとそこにはサングラスにひげもじゃのハーレーの様な電動バイクに乗ったドワーフの棟梁がそこに居た。
「おい!あんまりじゃねぇかよ心の友よ!こんな面白そうなモンあるなんて聞いてねぇぞ!」
「すまんすまん!先程ワキヤック卿にお預かりしたばっかりなのだ。貴様にもあの立派なフォルムのアレがあるぞ?」
「アレって…うお!?何じゃこら?…俺の神経にムラムラきやがるこの美しい兵器は一体……おぅ、!ボス、久しぶりじゃ!」
「おう棟梁。呼んでもないのに来たじゃん?」
「〈自動馬車〉の新しいコンセプトを持ってきたんだぜ。なんでもハゲヤック様がよ、もうすぐあのいいけすかねぇ中央とやり合うらしくってよ。〈自動馬車〉を兵器に転用しようって話が出てよ…そしたらこんな面白そうなモンがあってよ〜」
「だってコレ(ハルマゲドン)うちに置くよりチキン領に置いたほうが研究進むだろ?」
「う〜む、それはそうじゃが…」
「ええい!こんな所で話してるより、一刻も早く俺は【ハルマゲドン】も【テレフォン】もいじりたい―――分析したいんだよ!!理解るだろアドム!」
棟梁の名前、アドム・アッケラカン。
「むぅ、それはそうじゃ!ではボス!ありがたくもらっておくからのう!!」
自分より身長の高いモヒカンの頭をガシガシ触る棟梁。
「喜んでくれて良かったぜ。その兵器さ、アルしか動かせないみたいだから手伝ってやれよ?」
「はい、チーズケーキ分は手伝いますよ(もちゅもちゅ)」
「しかし、このリボルバーと電話と車…”戦車”でも作ろうってかねぇ?」
そのワキヤックのつぶやきを見逃さないガンス。
「’センシャ’とは何がんすワキヤック氏?」
「ん、〈戦車〉ってのは…」
強固な装甲の〈自動馬車〉の事で、頭部に【ハルマゲドン】のような銃口が付いていて、車内に【テレフォン】のような装置をつけて戦場でお互いに連絡できればいいんじゃない?の様な適当なことを話すワキヤックだったが…
「なるほど…素晴らしい!」
「革命がんすワキヤック氏!」
「こりゃあ大仕事になんぞ!ガハハハ!」
マジに捉える3人の技術者。
ちなみにガンスもここ2年イバリン手伝いで魔道具をいじってるので、大人顔負けのの技術者になっている。
何やら話が一段落した所でオンワ夫人のお菓子を食べに戻る。
お菓子を食べた後はアルと二人でようやくカマセー領への帰路につく。
何やら色々あって、しっかり帰省するのは久しぶりな気がする。
――――――――――――
「で、できた!」
ワキヤック達が帰省して幾日。
ほぼほぼ徹夜のような生活をしていたイバリンと棟梁。
彼ら二人の前には戦車の様な兵器が出来上がっていた。
ワキヤックの言った通り、ドラゴンの鱗で作った強固な装甲。
【ハルマゲドン】を分析した結果王家の【ホウオウ】が無くてもエネルギー砲を放てるルーン機構を開発、引き金一つでドラゴンの腹部を貫通させるレーザーキャノンを確立。
ぶっとい銃口を頭身に装着。
通常のタイヤではなくキャタピラを採用。
車体の中央心臓部には超巨大なS級魔獣の魔石(魔の森産)をガツンと乗っけることで超重量の機体にも関わらず最高時速60kmを可能ととした。
さらに【テレフォン】のルーン機構を参考にした無線を採用。
半径10kmまで通話が可能。
「お〜遂に完成したな…心の友イバリン。こいつぁ今後多くの人々を蹂躙する悪魔の兵器じゃ。今後幾多の命を奪うじゃろう。儂らは歴史的犯罪者として歴史に刻まれるかもしれんのう!ガハハハ!!」
「どれほどの被害があったとしても技術の歩みを進めたものとして名を残すなら本望。友よ、今夜は乾杯といこう。自慢のビンテージワインを開けよう」
「ガハハハハ!!ようドワーフを理解しとる!」
朝日が差し込むとともにガンスが二人に嬉々として走って来た。
「遂に…遂に完成したガンス!名前は?名前は何ていうがんす?」
目をキラキラして問いかけるガンスにイバリンは一息入れて答える。
「地上戦略兵器【ガランス】」
「ブフォ!?魔神の名前でがんす?教会から恨みをかいそうがんすね〜」
「だろう、はっきりお前らが敵だと示したくてな。それに…この兵器はきっと多くの人の命を奪う。危ないという意味のある名前にしたかったのだ。さて、早速アーノルド辺境伯様に連絡だ!リンダ!」
「はい、イバリン様」
以前イシャーンというエルフにこき使われていたダークエルフのリンダ。
その類まれなる魔力と聡明な思考を買われ現在チキン家の密偵として雇われている。
「玄武国の魔導を収めるものならば知らないものは居ない、あの伝説の老賢者ミシュラム様から直々に教わった【フライ】でこれから書く書状をアーノルド様に届けよ!」
「ハッ!」
「頑張るがんす!路銀渡しておくがんすよ」
「―――!こんなに?ありがとう存じますガンス様。ではこれにて―――」
魔神ガランスサタンの名を拝借した兵器【ガランス】。
もうすぐ起きる中央・王都との激突。
そこに投入されるこの兵器はどれだけの被害を出すのか、イバリンは既に良心の呵責と研究者としての探究心に悩まされることになる。
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