第34話 王宮裁判とワキヤック
―――王宮裁判所―――
司法の頂点であり、平等を謳う教会の私欲のための施設。
ワキヤックを中心にして、前方には一番偉そうな頑固そうなジジイ、たしかアルは法王とか言っていただろうか?
その控えに、ワキヤックをすぐに教会の牢屋にぶち込んだシヨーク枢機卿が居る。
その後ろに国王、ワキヤックから見て右側にイザベラ第一王妃とロバート第一王子。
左側にはマリア第ニ王女とアルベルト第二王子。
アルベルトは執事姿で、こちらに手を振っている。
観覧席にはイライザ公爵令嬢、サードフィール公爵とニュウ公爵令嬢のガーリック家親子、ウィリアムと呼ばれていたシブメン宰相、他にも地下コロシアムに居た顔が何人もいて、更に全く知らない貴族も居る。
「静粛に…今から罪人、ワキヤック・カマセーの罪を明らかにする」
そこからは裁判長代わりの法王デュボア・フランシスによるありがたーい話を聞く羽目になった。
イースト領を任せられていたヤクキメ枢機卿の今までの功績と突如ワキヤックが教会で傭兵を雇って暴れて、教会を破壊したという話を淡々と長々と、まるで夏休み明けの校長の話くらい意味のない話をされた。
『マタニティ』の事に触れず、さらにヤクキメの婦女暴行、着服、横流、薬物乱用などには一切触れなかった。
まぁ当たり前といえば当たり前。
途中から立ちながら眠ってしまったワキヤック。
「―――よって、罪人ワキヤックに死刑を言い渡す」
トントン拍子で話が進み、当たり前のようにワキヤックに反論の余地を与えなかった。
そもそも寝てたのだが。
イザベラとロバートが勝ち誇った笑みをこぼし、アルベルトもニタニタしている。
アルベルトがニタニタしているのを興味津々で覗くフリードと、どうにかアルベルトと会話がしたいマリアが目に入った。
と、ここで思いもよらぬ人物が裁判室に駆け込んできた。
白い法衣に身を包んだ美しい白髪の少女と、教団騎士の服を着た白髪の青年である。
「お待ち下さい!私は『聖女』レベッカ・ホーリークロスです。隣りにいるのは兄のライナスです。『聖女』として神言致します、このワキヤック・カマセーを罰してはいけません!大いなる災があるとパーマディーテ様から神託がありました!そもそも皆さんには見えないでしょうがこれ程の〈神力〉を放つ人物を処刑なんてどうかしてます!」
白髪の美少女は『聖女』と言うらしい。
ワキヤックは天井のシワを数え始めた。
「我らが聖女よ!こやつのまるで悪魔のような所業、わしの話を聞いてなかったのか?生かしてはおけぬ」
「わっかりました糞ハゲ!一応聖女として仕事をしたまでだっつうの!おにぃ、帰ろ」
「お、おう(すんげぇキレてる…)」
嵐のように現れ嵐のように去った聖女の兄弟が去った後、まるで最初から決まっていたようにワキヤックは中央広場の処刑台に連れて行かれた。
―――中央広場 処刑台―――
処刑台、いわゆるギロチン。
特殊な頑丈な切れ味抜群の刃が不気味に光る。
人の死に様を一目見ようと領民や貴族たちがわらわら居て、処刑台に上がるワキヤックを見つめる。
当の本人はスルスルと階段を上がり、自分から処刑台に首を差し出す。
コレには処刑人も苦笑い。
「クックック、アーハッハ!あのモヒカンもうすぐ死ぬなアルベルト!」
「ん?そうですねー」
「はんっ気取ってんじゃねぇ!お前もいずれああなるのにな〜」
「?、ええと、仮にも第二王子に対してそういう発言は品格を落としてるとご理解無いのですかヤバ味噌様?」
「ロバート様だ!!二度とその名で呼ぶな愚弟め!」
「かしこまりヤバ味噌!」
「ぐがぁあああああ!!」
「あぁロバートちゃん、落ち着いて?ママが付いてるわ?」
「静かにせよ、処刑が始まる」
フリードの一言で黙る一同。
処刑台の方ではシブメンの宰相、ウィリアム・リードがワキヤックに話しかける。
「君を助けることが出来ずにすまない…なにか言い残すことはあるか?」
「別にないっすよ?」
「そうか、私やこの場にいる者たちを是非恨んでくれ!その無念、私は忘れることはない」
憤怒に顔を歪めるウィリアム。
ちょくちょく中央貴族にもいい人は居るようだ。
「宰相様。お離れください」
処刑人が大きな斧を持ち上げると、ギロチンを支えているロープを切ってしまった。
誰もが次の瞬間、ワキヤックの首が落ちたと考えていた。
―――ガキン!!
鉄と鉄が衝突したような金属音がしたと思うとギロチンの刃が割れていた。
ワキヤックの【魔装】した首には勝てなかった。
状況を飲み込めず沈黙が流れる中、アルベルト王子はゲラゲラ笑っている。
「何をしている処刑人、その斧で首を落とせ!!【魔装】には【魔装】じゃ!」
ジジイとは思えない大声で直接処刑人に命令する。
「ふぅ〜、あのジジイ嫌な仕事させやがって…坊主、恨んでくれていいからな。【魔装】―――〈切り落とし〉!」
―――ガキン!!
デジャブ。
コレには処刑人は笑うしか無く、法王に向かって両手をあげる。
お手上げ、という意味。
「な、な、な、なぁーーーーんで!?…魔法、そうじゃ魔法だ!大魔導士を呼べ!【集団魔法】を撃たせろーーー!!」
「ハッ!すぐに準備させます!」
教会の連中が慌ただしく何かやってる間、ワキヤックは処刑人にアドバイスする。
「なぁ処刑人のおっさん?おっさんの【魔装】だけど、全体じゃなくて一箇所に集中したほうがいいんじゃない?ほら【魔装】、俺の右足みたいに…」
「ウオッ!?マジで右足だけに【魔装】が集中してやがる?すげぇ!」
と言ったような感じで、なんか仲良くなっていた。
そのうちにザ・魔法使いという風貌のヒゲモジャ三角帽子ジジイとその助手らしき魔法使いがワラワラワキヤックの周りを囲い出した。
何かヤバそうな雰囲気だったので、ワキヤックは処刑人に逃げるように促し、処刑人はスタコラと処刑台から逃げる。
「ほっほっほ!随分と余裕のある少年じゃのう。故に惜しい、この様な所で将来を担う若者をわしの手で滅せねばならぬとな…わしは王国魔導師団・大魔導士サムディ・ステップじゃ。せめて冥土の土産にするが良い…」
ロッドを構える魔導士達。
十人で同じ魔法を備える。
魔力が集中し、大気が乱れ、上空に暗雲が発生する。
「皆の衆、準備は良いか?」
「「御意!」」
「「「〈集団魔法〉―――【ゴットブレス】」」」
上空から超密度の魔力の真空がワキヤック向けて降り注ぐ。
ギイイイイイイイイイン
甲高い音とともに塵と化す処刑台。
舞台もギロチンの刃も原型を留めず砂のようになっていた。
そして無傷で真っ裸のワキヤックが股間を手でかくしていた。
鎖も塵と化していた
大魔導士サムディは俯き、ため息を一つ入れて法王に向けて両手を上げる(デジャブ)。
「ぐにいいいいいい!!誰でもいいからそのモヒカンを殺せぇ!!殺した者に賞金白金貨10枚をくれてやるーーー!!」
「「「うおぉおおおお!!」」」
そこからは騎士、有名冒険者、犯罪者、『マタニティ』生き残り、『魔神の尻尾』、亜人やエルフの流れ者など、金に目を奪われた者たち何千人もワキヤックに武器を、魔法を、スキルを叩きつける。
ワキヤックは股間を手で隠しつつ、仁王立ち。
――――――――――――
何時間が過ぎただろうか?
日が真上に行った処刑は、既に落ちようとしている。
何千と横たわる人混みの中で、誰かから奪った服を着て反撃を一切せず仁王立ちしたままのワキヤックが塵とかした舞台の中心に立っていた。
「ば…化物……」
既に座っている法王が絶望の表情で呟きそのままぶっ倒れる。
血糖値が上がりすぎたのだろう。
なおワキヤック、5時間近く様々な人物からの猛攻に耐え無傷で、今もピンピンしている。
周りを見渡して、誰も来ない事をワキヤックが確認するとアルにハンドサインを送る。
傍観席で一人元気なアルベルトが頷くと、6m近い高さから飛び降り、ワキヤックの下へ合流する。
「処刑はどうでした?」
「うん、まぁまぁ楽しかったよ。んじゃあ、お土産勝手帰るかカマセー領に…」
もう誰も処刑などする者は居ない。
この日、王都は『破滅のモヒカン』一人に敗北したと領民や貴族たちが一気に噂を広めた。
妹のイレギュラや『モヒカンズ』のためにあれだけの出来事があったにも関わらず、堂々と様々なお土産を買っての帰り道。
「む?」
ふとワキヤックの目に巨大なリボルバーの装置が目に入る。
「なぁ、アル?」
「……もらっちゃいます?」
「もらっちゃうか!処刑の迷惑料として!」
ワキヤックはひとっ飛びで10mの高台に乗り移り、そのリボルバー兵器の根本を手刀で一刀両断。
そのまま背負って飛び降りると周囲を揺るがす揺れと、着地の際に足元が陥没した。
「よし!
「押忍!ワキヤック様!」
二人は走って夜道を帰って行った。
その後国王の元に守りの要、古代兵器【ハルバゲドン】が『破滅のモヒカン』に盗まれたという報告を聞いて、流石の国王フリードも爆笑。
この日より、既に王都は破滅の兆しが見え始めていた。
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