第33話 王都教会とワキヤック

「ワキヤック、『マタニティ』を壊滅させる手助けをしてくれないか?」


バーンズが所要で席を外したとき、何故かワキヤック達についてきたアルビオンが裏路地にてワキヤックに話を持ちかける。


「僕はアルビオン・イノセンス。『マタニティ』の構成員だが、あの組織には恨みしか無いのだ。お礼は僕に出来ることだったら何でもする!」


「ん、今何でもするって言ったよね?じゃあ窓際行ってシ―――じゃなくて、『マタニティ』の本部とヤクキメとかいうおっさんだったらもう無いよ?まぁ口答じゃ信じられないと思うから自分で調べてみて?『マタニティ』なんでしょ?」


「え!?そう?うん?」


「じゃ、俺教会に呼ばれてるんで。」


「ちょ?ちょちょちょ!?それって『マタニティ』の関係ではないのか?裁判なんて口だけで、冤罪をかけられて処刑されるのが奴らのやり口だぞ!行くのをやめろ!」


「残念だが、私も同意見だ」


後ろに現れたのはバーンズ騎士団長。

アルビオンは「しまった!?」という顔。


「君を生かすつもりはないだろう。私が君を逃がしたとしても命までは取られん。だから逃げたければ逃げたほうがいい。追いはしない」


「騎士団長…」


アルビオンは見直したぜ、と言う感じを出していた。

だがワキヤックは言う。


「俺を処刑って言うけど何をするんですかね?ギロチン?魔法?それとも処刑人?俺はさ、はっきり言ってやれるもんならやってみろって感じなんよ」


「「?」」


「まぁワキヤック様ってドラゴンに噛まれても無傷ですもんね。あ、信じられないと思いますから信じなくてもいいですよ」


さも当然のようにあり得ない話をするワキヤックとアル。

バーンズとアルビオンは先程のガーランドタイガーとの戦いを見てるので、信じられないとは言えない。


「そうか?ならば俺はもう止めん、それとアルビオンと言ったか?君のことも見てないことにする」


「感謝致します、騎士団長殿」


そう言って一礼すると、【潜伏】というスキルでその場から忽然こつぜんと消えた。

そして、ついに王都にある教会の本部にワキヤック達は足を踏み入れる。





外観からクソほど金がかかっていた。

キンキラキン、建物全てが金。

金・金・金、聖職者として恥ずかしくないのか?

中に入るとこれまた偉そうな司祭と、宝石だらけで香水グワッグワなシスターが蔑むように上から見てくる。

すると趣味の悪い宝石やらネックレスなどをジャラジャラした、服装が高そうなM字ハゲが出てきた。


「よくいらっしゃいました騎士団長。私は枢機卿シヨーク・エラソーです。…ふむ、そのモヒカンが我が友、ヤクキメを殺した罪人は?」


「いや、まだ死んでないですけどね」


「罪人が口を挟むな!ふむ、ではこちらで身柄を受け取りましょう。ではそちらの執事よ、帰ってワキヤックの身柄は協会本部にあることをハゲヤック・カマセーに伝えると良い…?」


とここで美少年執事の顔を覗き込むシヨーク枢機卿。


「あ、アルベルト王子!?よくぞ生きておいで―――」


「では、ワキヤック専属執事が言伝、確かに承りました。バーンズ騎士団長行きましょうか。ワキヤック様、処刑の時にまた来ますね〜」


「ほーい」


すらすらと外に出ていくアルとバーンズ。

二人が居なくなると顎で部下に命令を出し、あれよあれよと牢屋にぶち込まれるワキヤックであった。





―――王城―――


ワキヤックと別れた後、アルはバーンズに無理やり連れられて、王城の私室に無理やり連れてこられた。

中に入るとそこには国王フリード・ホウオウとアルの母であるマリアだった。

バーンズをひとに睨みするとため息を吐いて話す。


「私はカマセー領の執事アルです。何か御用でしょうか陛下。」


「その様な他人行儀はよろしい、お前にマリアが会いたがっていたのだぞ」


「あぁ!アルベルトよくぞ生きて…?」


母の妹であるマーリンを護衛に回してくれた事に感謝はしている、だがそれだけなのだ。

このマリアという女を見てもそれ以外の感情はわかない。

王城で過ごした十年で両腕で数えることの出来る回数しか会ったことがないし、毒を飲んで生死をさまよった時に近くに居てくれたのは乳母のメイドだった。

もっともそのメイドも10歳の誕生日に自分の代わりになって毒殺されてしまったのだが…。

そこで、この女とこの男に対する感情が無くなってしまった。


「アルベルト?どうしたのですか?母に甘えていいのですよ?」


「はぁ、そう言われましても…数えるほどしか会ったことありませんし?」


「それは…イザベラ様の手前、あなたに会うことは出来ませんでした。でもこれからは―――」


「これから、などというものはありますか?私はワキヤック様の処刑が終わり次第カマセー領に帰ります。あなたと過ごすなんて考えた事などありませんよ?」


「アルベルト……なんてこと…」


「アルベルト!!貴様、心配するマリアになんてことを!騎士団長、すこし反省を促しなさい!」


「ハッ!申し訳ありませんがアルベルト様―――」


アルをバーンズが掴もうとするとその手を絡め上げ〈四方投げ〉、その技の中でバーンズの腰の剣を抜き取り倒れたとともに首に当てる。

あまりの早業に驚く一同。


「子供のしつけに騎士団長を使いますか?自分で出来ませんか?そんなだからロバートのヤバ味噌はあんな増長したんじゃないんですか?」


「―――その減らず口!黙らせてやろう!!【ホウオウ】」


そう言うと、フリードの体が炎と化す。

強引に掴もうとアルに手を伸ばすのだが、炎と化した体を

アルもまた、炎と化している。


「なるほど、【ホウオウ】同士だとこうなるのか、ほいっ」


フリードの顎を肘で打ち抜くと、しっかりと脳が揺れ【ホウオウ】の解除とともに膝を付く。


背中に持っていた棍を取り出すと、今度はフリードの喉元につける。


「貴方がたが中央でのうのうと生きている間、私は…辺境の人達は魔獣と戦い、野盗を討伐し、税金を中央に収める。えっと、貴方がたはその税で何をしてました?パーティー?コロシアム?はぁあああ(クソデカため息)」


アルは父親であるフリードを蹴り上げる。

隣りにいたマリアは顔面蒼白、バーンズはアルベルトに光明を見た。


「はっきりいいますね。貴方のような無能が頂点に立っている限り、割りを食うのは末端の人間なんですよ!!あなた達はいしずえになるかシロアリになるか、よく考えてください。では失礼致します」


一礼をして私室を後にするアルベルト。




――――――――――――


「ククク、カーハッハッハ!まさか世から鷹が生まれるとは…」


「陛下、何卒!何卒!アルベルトに寛容な処置を…」


「よいよい、世は怒ってはない。…マリアよ、世は知っての通り凡人しゃ。自分のことで精一杯、息子に何かを言えるような器でではない。せめてすこしでもイザベラから離そうとしたが、ここまで化けるとは…バーンズよ!」


「ハッ!」


「宰相にクーデターを辺境に促すならもっとうまくやれと、より教会に注意せよと言ってこい!」


「―――は!?陛下ご存知だったのですか!?」


「世は何も知らん、無知な為政者なり」


「ハッ!」


「陛下……」


先程まで死んだ魚のような目をしていたフリードが、まるで子供に戻ったかのように目をキラキラしていた。


「世を含めてシロアリを中央に留めなくては…楽しくなってきたぞ!」


アルベルトは知らない。

父親、フリードの方が自分より中央貴族を嫌っていることを。

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