第31話 王都観光とワキヤック

王都『ホウオウ』。


かつて世界を支配していた魔神ガランスサタンを倒した女神パーマディーテと四神。

セイリュウ、ゲンブ、ビャッコ、ホウオウ。

四神の一柱、そのホウオウが治めたとされる歴史的な王国首都。

人族を中心とした歴史的建造物と最新の魔法技術や凄腕冒険者などが自然に集まってくる、もっとも栄えた都市である。

現在はカマセー領のほうが活気も魔道具も充実しているのだが、中世ヨーロッパ!というモダンな風景はワキヤックは嫌いではない。


「くっそ!お父上様に言いつけてやるからな!覚悟しておけモヒカンとアルベルト!!」


「生きて王都を出れると思わないことね!」


と散々喚いた挙げ句、回りくどく第三者に任せる宣言をしたヒステリー親子とさよならバイバイした後は腕を鎖で巻き付けられたまま王都を観光するワキヤックとお供のアル。

その移動は早馬並の早さなので、王国騎士団はついて行くのにやっとである。


「おーいアル、この玩具さイレギュラちゃんに買って帰るぞ」


「コチラの魔導書、マーリン姉さんに買ってってもいいですか?」


「お!!すげぇ立派なにんにく?王都のど真ん中で…?買いだぜ!」


「ワキヤック様!このあたりでも将棋流行してますよ〜。カイシュウさん(『モヒカンズ』の商人)やりますねぇ」


「へぇ〜ウルフの変種をペットとして売ってるのか〜そう言えばポチ(バイオキメイラ)雑食だけといい餌買ってやろっかな?」


「ここのにんにく専門店、5年前にはなかったですよ!行ってみます?」


「よし、行こうぜ!いいですよね騎士団の皆さん、俺のおごりですから」


「あー、もう好きにしちゃってください…」


バーンズと騎士達はゼェゼェと息を切らしていた。

いつの間にか鎧を脱ぎ、全力で追いかけてこの始末である。

バーンズの娘、ヘラルダ・レッドハンドは先に王城に行き、事の顛末を報告しに言っていた。




「はいどうぞ〜」


「「うっひょ〜↑!!」」


ウエイターが運んできたのは、厚さ4センチのガーリックオークステーキ(鉄板のまま出てきてまだジュージューいってる)、ペペロンチーノ、ガーリックサラダ、ガーリックライスという見ただけで胸焼けしそうな凄まじいにんにく臭漂う、ニンニクのための料理たち。


「あっれ?美味そう!いただきまーす!ガッガッガッ……もちゅもちゅ…、う、うめー!!」


「あー、もう外で出歩けなくなるような強烈なガーリック!!手が止まらない―――あっ!ガーリックピザってのはどうでしょうワキヤック様!!」


育ち盛りの子供二人、ものすごい勢いで食べ進める。

もちろんワキヤックは鎖で腕が動かせないので、犬みたいに口で食べている。

周りの騎士達もワキヤックのおごりということで遠慮なく食べてまくっている。

一口食べると感動の言葉を呟いていたり大きく頷いたりしてる。

あまりの気持ちいい食べっぷりに厨房の中からシェフらしきちょび髭のおじさんがでてきた。


「どうです騎士団長様?美味しいでしょうガーリック」


「いやぁ〜絶品ですな!恥ずかしながら今日始めて口にしますが、これ程美味しい食事は王都広しと言えど珍しいでしょう―――っへ!?ガーリック公爵様ではございませんか!?」


「はっはっは!かしこまらくても良い、たまにこうして自ら手腕を振るっているのだ!なかなかに美味かっただろう?とある筋から素晴らしいレシピをいくつも入手してね。つい嬉しくなって店まで出してしまったのだよ!」


ガタイのいいちょび髭シェフもといサードフィール・ガーリック公爵は一礼した。

ワキアックが会ったことのある中央貴族は横柄な奴しかいなかったので、つい会釈してしまう。


「ガーリック公爵、とても美味かったっす!俺はワキヤック・カマセー、そっちは従者のアル」


「どうも、アルです。先日ミシュラム様とご一緒させて頂いた者です」


「おおお!ミシュラム様には感謝をお伝え下さい!あの方が教えてくださったガーリックレシピのおかげで、より公爵家は繁栄するでしょう!アルベ―――アル殿もご紹介いただき、ありがとうございました」


「いえいえ、仲介を承っただけですので…そういえばニュウご令嬢はお元気ですか?」


「ええ!それはそれはレシピの数々を娘も気に入ってしまいまして、お茶会に出してしまうほどですよ!」


「おいおい、お茶会は流石に不味いだろ…ってこの人あるの知り合いか?」


「ええと、王都で生活していた頃にとても良くしてもらったんですよ。中央貴族の中でもこの方は信頼していいですよ」


お茶会にガーリックは…と思ったが、話を聞くと意外と好評で重度のリピーターもいたとか。

それってどこのジロリ……


「そうだ、もしかしたら近いうちに凄いニンニク料理が完成するかも知れねぇ」


「むむ!君は武術大会の時のワキヤック・カマセーくんだね。私もあそこにいたよ。いやはや、魔力だけで空間を湾曲するなんて初めて見たよ、凄かったね〜それよりその料理について詳しく教えてくれるかな!?」


ワキヤックにものすごい圧で話を聞こうとするガーリック公爵。

本当に好きなのが伝わってくるので、例のラーメンについてやんわり説明する。

そして、ガーリック公爵の言葉に魚の骨が引っかかったかのような、気分の優れない男、騎士団長バーンズ。


「(いま、空間が湾曲したと言っていたか?本当にこのモヒカンは人なのか?ちゃんと法王様のところにお連れできるのだろうか…)」




食事を終えてガーリック公爵と再会を約束したワキヤックはバーンズに言われ、ぼちぼち王都の教会に向かうというバーンズに連れられて中央に向かう途中、


「おー!何だありゃ?」


全長5メートルはあるだろう、巨大なリボルバーのような装置が高々と高台に設置されている。


「あぁ、あれが【ハルマゲドン】ですよ。王都の防衛の要で【ホウオウ】という、先程ヤバ味噌の体が炎になったあのスキルを持ってないと発動しない特殊なアーティファクトなんですよ」


「へぇ〜、ドワーフの棟梁とうりょうが好きそうなフォルムだよな〜。こっそり持ってけないかな?」


「大きいんでこっそりは無理ですけど、ワキヤック様の処刑が終わったらちょっと寄ってみますか?」


「お、そうだな」


「(こいつらとんでもないこと話してないか?)」


と、ここで南の方から怒鳴り声が聞こえてきた。

バーンズがそちらへ急行すると何やら貴族らしき令嬢と、平民の子供との間にトラブルが合ったようだ。


「イライザ・ヒール公爵令嬢と知っての狼藉ですこと?」


「お許しください!まだ小さな子供です、どうかお慈悲を!!」


「駄目に決まってるでしょう?わたくしイザベラ叔母様に呼ばれてるの?あなた達愚民が通路に飛び出た時点で死ぬことは決まっているのですわ?衛兵、殺しなさい!」


「「ハッ!」」


一般市民と幼い子供を何の躊躇もなく斬りかかるイライザ公爵令嬢の衛兵。

流石に殺されちゃうので子供との間に割って入るワキヤック。 

ワキヤックの頭に当たると「パキン」と音を立てて衛兵の剣が折れた。


「な、何者です!?名を名乗りなさい!」


「ワキヤックで〜す。罪人としてしょっ引かれてま〜す。って、まだいるのかそこな親子、早く逃げんしゃい」


「こ、このご恩は忘れません―――」


そそくさと逃げたのを見届けると、イライザとかいう令嬢に目線を戻す。


「このわたくしに楯突いてタダで済むと思わないことね!」


「具体的にいいますと?」


「具体的に?そーね…あなたには地下コロシアムの見せ物になってもらおうかしら?」


「地下コロシアム!?行きたい行きたい!」


「え?」


「バーンズさん、どうせ法王とか言う人の裁判って午後からなんでしょ?ちょっと寄り道してもいいよな?」


「王命ですよ王命!ちょっといい加減にしなさいな!!」


「バーンズ騎士団長、わたくしから国王陛下に言伝を伝えておきます、本人がこう言っているんですいいではありませんの?」


「イライザ様、しかし…10歳の子供にコロシアムなど…」


「わたくしの言葉が、聞けなくて?」


「……解りました、おまかせします」


「よっしゃ!行ったろかい」


「いやはや、退屈しませんねぇ〜」


「うむ、そこの執事精々主が生き残ることを祈るがいい―――はえっ!?ある、アルベルト王子!?アルベルト王子なんで!?」






イライザに連れられて、薄暗い地下の…王都最大の賭け事、コロシアムへ成り行きで行くことになってしまった。

表に出ることの出来ない犯罪者や狂人がひしめく殺し合いの場。

腕に鎖を巻いたまま、ワキヤックはコロシアムに出場する。

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