第27話  破滅のモヒカンVSマタニティ

「ふぅ、昨日の女はなかなか良かったではないか…」


先日信者の女と不貞朝チュンを迎えたこの中年はヤクキメ・フーリン枢機卿。

高価なワインを片手に上機嫌な朝を迎えたその傍らには下卑た笑いをする不潔を絵に書いた様な奴隷商のサディス・ゲドーと、2m50cmはあろう巨体と不気味な半分の仮面を付けた男こと処刑人ガイオン・バラクージャが居た。


ガイオンのそばには信者の女が薬物と前日の狂乱により、糸の切れた壊れた人形のように横たわっている。


「フェッフェッフェ、いつもありがとうございやす。またこんな上物を」


「ふっ、かまわん。そこの女は適当に処理しておけサディス。……おいおい、まだ遊び足りないかガイオン」


「お、おで…もっとあぞびだいよナルシスさまぁ」


「ククク、お盛んな奴だ。よろしい、まだまだいくらでも信者はいるのだ。そうだ、今度は年端のいかない少女を壊すのも面白い。母娘で弄ぶのも一興かな…ククク……」


このヤクキメ枢機卿という男は自らの立場を利用して色に狂った権力者である。

以前は『マタニティ』の女構成員を教育という建前で毒牙にかけていたが、現在の権力を手に入れてからは一般人にも毒牙にかける。

生かすと不味い女は薬物で壊した後に奴隷として売りさばくのがいつもの手口だ。

次は誰かにしようかと卑猥な目で信者を舐め回すように眺めていた時、一組の母娘が目についた。


母親の名はオシヨワ・カワイーソン(29)、娘の名はサチウス・カワイーソン(11)と部下から聞いた。

美しく、そして子爵家の母娘という由緒正しい血筋がよりヤクキメを興奮させた。

話によるとサチウスという娘が来年に洗礼式を迎えるため、有名なこのイースト領の教会に来たという。

カワイーソン領の教会はそれほど悪いところ無かったことも仇になって母娘は枢機卿に狙われる形となってしまった。


カワイーソン母娘は護衛とともに教会に訪れているとサチウスとオシヨワはワキヤックについて会話している。


「そう、とても立派に育っていたのねワキヤックくん」


「そうなんですお母様、久しぶり会ったワキヤック様のより磨かれた筋肉にうっとりしてしまいました。ああこの人が将来の旦那様になるんだと考えただけで、全身が熱くなってワキヤック様を閉じ込めてしまいたいほど愛しくなりました」


「程々にね。そろそろ枢機卿様と謁見ができるわ。お父様に感謝いたしましょう」


「枢機卿様に祝福していただいてワキヤック様を束縛できるようなスキルを女神様から授からなくちゃ!あぁ待っててね私のワキヤック……」


早速僧侶の方に枢機卿の私室へ案内させると、


「これはこれはカワイーソン子爵夫人様よくぞ遠くから参られました」


「ヤクキメ枢機卿、今回のご面談誠に感謝致します。では早速祝福の儀をお願いいたします」


「せっかくですのでそちらの茶菓子なども頂いて少しゆっくりされてから行いましょう。道中お疲れでしょう、ごゆっくりなされよ」


「ではお言葉に甘えて…サチウス、いただきましょうか」


「はい、お母様」


茶菓子にだされたスコーンは上品な味でとても口当たりがよかったのだが―――


「―――う゛」

「うん……」


母娘二人して眠ってしまった。


「……眠ったか…サディス」


「フェっフェっ、わたくしの睡眠薬はよく効きますでしょう?さて、護衛のなかにそれなりに器量の良い女騎士が何人か居ましたが…」


「よぉし、その女たちはお前たちにくれてやろう!」


「さっすが〜、ヤクキメ様は話が理解るッ!」


そんなやり取りがありつつ、ヤクキメは秘密の地下室へ女構成員に運ばせるのだった。




―――イースト領、教会地下。『ヤ◯部屋』―――


「うん…ここは?」


オシヨワ夫人が目を覚ますと、薄暗い部屋の中には酸っぱいような嫌な匂いが立ち込めている。

オシヨワ夫人がソレを目にした瞬間身の毛がよだつ。

一部の方々が夜の行為に嗜むようないかがわしい道具の数々がずらりと並んでいたからだ。

そして下着姿のサチウスの姿と自分の姿を確認して悟ってしまう。

「教会には気を付けなさい」という夫の言葉をあまり意識しなかった教徒である自分の愚かさに。


「どうです夫人、この部屋は?気に入りましたか?」


もう既に真っ裸で女構成員を侍らす下卑た顔つきの男が舐め回すような目で夫人を見つめる。


「ヤクキメ殿!!これはどういう事か!?」


「いいねいいね!やはり貴族の女は教養があるからそそるねぇ〜(じゅるり)」


「ひっ―――」


「これからあなた達には私と一緒に天国に行ってもらいましょう。そうですね〜最初は娘が私に食べられるところをじっくりみていただきましょうか?ククク」


「この…ケダモノ!!」


「ククク―――キャハーーハッハ!!女神なんか信じてる馬鹿を私がどう使ってもいいに決まってるだろ!やはり馬鹿なのか?さてさて、夫人は『母性の雫』をご存知か?」


「―――まさか!?あなたはどこまで!?聖職者として恥ずかしくないのですか!!」


「いいねいいね!知ってるのか、クヒヒヒヒ」


『母性の雫』とは女性の性感帯と感情を高める即効性の麻薬である。

一度でも使ってしまうと極度の依存性から抜け出せなくなると当時に正常な思考ができなるなる薬物だ。


「これをあなたにも後から使いましょう…まずは…」


にちゃりとサチウスを見る枢機卿、


「まさか…嘘、やめて!その娘には手を出さないで!何でもするから!何でも受け入れるからーーー!!」


「もう最高かよ夫人、でも正常なまま娘が壊れるのを見てこそ母娘丼のよさってもんだろ〜?」


最悪の発想で笑い、サチウスの体に触れる。


「うん……ここは…!?お母様?これは…どういうことです枢機卿様」


「サチウス嬢、早速だが母親がひどい目に合わせたくなくばコレを飲んでもらおうか?」


「ひっ!?」


枢機卿の方を見たサチウスはおぞましい男の裸の目をそらす。

そして白い粉薬を押し付けられる。


「いいからさっさと飲めよクソガキ!いいことしてやるからよ!!」


「駄目!飲んじゃ駄目!!サチウス―――なんで魔法が使えないの!?」


「無駄だ、この部屋には魔封じのお香が満ちている。大魔導士でも無い限りこの部屋で魔法を使うのは無理だぜぇ」


「うう、なんで、サチウス…駄目……」


「お母様…うぅ……ワキヤック様……」


ズシィイイン


地下室にも響き渡る揺れがその場の全員に伝わる。


「ち…なんだよこんな時に、興が冷めるだろ!おいそこの女、上に伝え―――」


ズシィイイイイン


「さっきから何が」


ドゴオオオオオン!!


凄まじい爆音とともに血だらけのガイオンが地下室の壁をぶち破り、顔を出した。


「「ギャアアアアアア!!??」」


突然の状況に悲鳴をあげるヤクキメ、サチウス、オシヨワの三人。


「ガイオン!?何が会ったというのだ!」


「い゛い゛い゛い゛!!ごわい!モヒカンごわい!」


「モヒカン?何のことだ?」


「お母様!」


「サチウス、これは本格的に結婚の話を考えないといけないわね…それはそうと【アイスソード】」


オシヨワの周りに氷剣が発生する。

とくに母娘が縛られていなかったことと、壁が崩れた事で魔法が使えたのだ。


「よくもやってくれたわね!!私はコレでも王都魔導学院を首席で卒業してるのよ!」


「枢機卿様、お逃げください」


「クソがぁ!?覚えとけよアマ!!」


真っ裸で息子を揺らしながら地下室から飛び出して外を見たヤクキメはこの世の終わりのような教会の惨状と建物の上に居た魔力の塊に目が行く。

周囲はあまりの魔力濃度に空間は湾曲し、そのおぞましいナニかはモヒカンから稲妻を放ち、ドラゴンのように火を吹いている。


「なんだありゃ……」


人の形をしたおぞましいモヒカン。

これからそれと戦わなくてはいけないなどと、この時のヤクキメには考える暇もなかった。

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