第26話 鮮魚!海の幸とワキヤック
東の辺境、ここサバヨーム領を超えるとついに『マタニティ』の本部がある東の辺境の首都イーストに到着する。
しかしこのサバヨーム領、何と領地の半分は海に面してる漁業の領地なのだ。
夜。
辺りは日が沈み、女領主ゴマ・サバヨーム(34独身)これから自分の屋敷でディナーというところで西の辺境の元締めであるイースト家の娘であるオリヴィアが唐突に訪ねて来たのだ。
急いで門まで出迎えに行くと謎のモヒカン軍団の中心にちょこんと人形のような可愛らしい女の子がこちらに手をふっている。
「オリヴィア様!?どうなさったんですかこんなや夜に?武術大会からお帰りで…ちなみにその方達は?」
「私の護衛をしてもらってます。領地に戻り、『マタニティ』の皆さまを一掃します」
「えっ!?遂にですか?でもこんな少人数じゃ…」
そんな会話をしている間に海の方から「ザバーン!!」という巨大な音が鳴り響く―――
「な、なんだ!?この時間帯に海の魔獣か!?」
その海から出てきた巨大な化け物を見てゴマは青ざめる。
全長10メートルにも及ぶA級魔獣の怪獣…シーサーペントである。
最近どこかより現れたシーサーペントは海の魚介類を荒らし、漁船を襲いかなりの被害が出ていた。
冒険者に多額の賞金をかけて手配したのだが、健闘もなく敗退。
今も悠々と海を泳いでいる…はずだったのだが?
そこには首に巨大な穴が空いた息絶え絶えのシーサーペント。
もう一つ海から這い出たモヒカンの化け物―――ではなくワキヤックだった。
海の中でも【魔装】で強化したモヒカンは崩れることはない。
「ういー!いい運動になったぜ〜。おーい、ミシュランばーちゃん!」
「はーい」
空中からフヨフヨ降りてきた老婆のエルフを見てゴマはギョッとした。
「(【フライ】!?難易度Sの浮遊魔法…平然と使ってる…)」
ゴマから顔見されても無関心なミシュラムは渋い顔をした。
「我が主様、お伝えしにくいのですが…このシーサーペントは肉質がゴムのようにグニグニとしていて美味しく無いんですよ…」
「やっぱりうなぎだな…酒蒸しすれば臭みも食感も良くなるから…日本酒はもう出来てたよな?」
「サカムシ―――おおお!?またしても大いなる食の知識を!?すぐさまやってみます」
モヒカンエルフのばあちゃんとモヒカンのまだ子供だろうか?海からトビウオのように先ほど飛び出してきた少年が船団の船を軽々と砕く海の猛獣に噛まれて平然としている分厚いシーサーペントの表皮を手刀でバターのように切っている。
ゴマは最早ツッコミが間に合わない状態になっていたが、横のオリヴィアの声で我に返る。
「あの?ゴマおば…お姉ちゃん、あの魔物は勝手に狩ってしまってよかったでしょうか?」
「それはもう助かりますけど…あのモヒカン少年?は何者ですか?」
「カマセー領の令息であられるワキヤック様です!!魔の森でシルバードラゴンと戦闘中に颯爽とと助けていただきました…(ポッ)」
オリヴィアの見た目は人形のように可愛らしい見た目小学生の可愛い女の子なのだが、実力は王都魔導学院で首席を担うほどであり、同年代の輝石の騎士達とパーティーを組んでヒーラーとして活躍しているとゴマは聞いていた。
しかし世界でも有数の死の領域で有名な魔の森であまつさえ伝説のシルバードラゴンと聞いてさすがに冗談ではないかと思ってしまうが、この少女は嘘をつけるほど器用な子ではないとゴマは知っていた。
実際、目の前でシーサーペントを手刀で切っているのだから相当な実力だと推測する。
「その、ワキヤックくんは解ったけど、他のモヒカンだったり、あそこに居る美少年やら黄石の騎士まで連れて…何するつもりなんですか?」
「『マタニティ』を壊滅させます(満面の美少女スマイル)」
「え、マ!?逆にそれだとこの人数で大丈夫なんですか?私で解ってるだけでも向こうの構成員は数千人単位だわよ?しかも法皇直轄の手練れは輝石の騎士でも厳しい実力よ。確かに『マタニティ』がいなくなれば教会連中は萎縮するから私達辺境の貴族はみんな嬉しいけど…」
教会が辺境の貴族に幅を効かせるのが許されるのは『マタニティ』という武力組織があるからであり、もう一つ中央貴族と繋がっていて辺境貴族の威権を削ぐ狙いもある。
いくつかの悪行が見て見無振りをされているのはそういう裏事情もある。
故に『マタニティ』を壊滅できれば辺境にとって、特に搾取されている東の辺境にとってこれ以上無いくらいメリットしか無いが、連中は王国最強の武力である王都騎士団と均衡する実力だと言われている。
ここにいるモヒカン達は精々10人くらい、小隊で国家に立ち向かうぐらいの実力差はあるはずだ。
「大丈夫です!ワキヤック様さえいればどうにでもなります(フンス)!」
「そうかしら?兎にも角にもあなたのお父様であるマウンテン様には事前に説明しなさいよ」
「は〜い」
などと話しているといつの間にか夜だと言うのに物凄い人並みが出来ている。
そして何とも食欲をそそる独得の香りが辺りに広がっていることに気づく。
人混みを避けて人だかりの中央にゴマが向かうと、そこにはシーサーペントを蒲焼にしている老婆エルフが領民に配っている。
「うっめー!」「これがシーサーペントって本当かよ!!」「口当たりがとってもいいのね〜」
「シーサーペントって泥臭くて身も食べにくかったはず…じゃなくて!コラコラコラ!勝手に路上で許可なく配ったら駄目でしょう!私は領主のゴマです。ギルドの許可を売るも配るもギルドで許可を得てからにしなさい!」
「あらら〜ごめんなさいね〜。でもシーサーペントが腐らせてもね〜」
「はぁ〜、私が許可を取ってきてやる。代わりに安くてもいいから金を取りなさい。その半額を私に収めるように」
「ありがとねぇ〜」
モヒカンでボンテージの老婆エルフだったのでもっとヒャッハーな性格をしてると思いきや、喋ってみると温和でびっくりした。
ギルドに向かう前にゴマは一串頂いた。
どういう加工をしたかわからないが、身がふっくらしていて独得の甘辛のタレがシーサーペントの上質な油を引き立てていた。
「(これ!?本当にあのシーサーペント!?美味すぎじゃん。後でレシピ聞こうかしら…)」
一方ワキヤックは漁師たちに胴上げされていた。
10年ぶりの海に興奮したワキヤックが勝手に遊泳していたら襲われて返り討ちにしただけだったのだが……
シーサーペントを結果的に討伐したことによって漁師たちからバチクソ感謝された。
「「わっしょい、わっしょい、わっしょい」」
最後の胴上げで思いっきり上空に上がったのでバク宙3回転着地で拍手喝采。
「ういーどもっす!どもっす!…俺達宿を探してんだけど、どっかいいとこない?」
「うちに来いよ!歓迎するぜ!」
「はん、そんなケチンボよりアタイのとこに来な!」
「そんなことより、この味付けはどうなってるんだ!?」
シーサーペントを討伐したおかげでかなりの好印象。
このまま漁師たちが寝床を提供してくれたのでありがたく好意を受けることにしたワキヤック一行。
いつの間にか振る舞われていた酒のせいでどんちゃん騒ぎになって忙しなく夜は過ぎていく……
深夜、ここに不審な影が約30人。
黒装束に身を包む怪しい連中、『マタニティ』の精鋭が漁師のご厚意に預かった宿泊宿に来ている。
なぜ情報がバレたかと言うと……
「貴様がテッポだな?」
「ハッ」
ワキヤックが寝てる間はテッポ・ウダーマの〈奴隷契約〉は機能しないのだ。
その時間帯を狙ってテッポが裏切った(?)という事だ。
「さて、『マタニティ』の枢機卿から「あのモヒカン小僧をぶち殺して来い!!」とのお言葉だ。子供を始末するのは好まないが…やむえん」
ハンドサインとテッポの手引きによりいざ突入というところで、
「なんじゃ?こんな夜分遅うに…ワイらの安眠邪魔しおってからに〜」
ふあああと欠伸をした大柄モヒカンの狼男が欠伸をしながら侵入者達に問う。
「汚らわしい!ヒトモドキめッ!!」
「おーおー、元気がいいのう。しかしな近所迷惑だぞ深夜に声を上げおって…」
「その首もらい受ける」
テッポ瞬きをした瞬間、『マタニティ』の上司構成員の首が消えていた。
目を先程の獣人に向けるとその上司の首を持っていた。
すると胴体の方から血が湧き出し、重力に従って倒れた。
先程もまで強気だった『マタニティ』の構成員が青ざめて距離を取る。
この一瞬で格付けが済んでしまった。
「何者だ…貴様?」
「冥土の土産で教えたろう。ワキヤック坊の右腕、『モヒカンズ』のバルバロイじゃ」
狼男が残忍な笑みを浮かべた瞬間、その鋭いキバが伸びた手刀で30も居た構成員全員が血を吹き出して倒れた。
10秒も経っていない、一人残ったテッポがへたりと腰を抜かした。
「おうにーちゃん、ごくろーさん」
テッポの肩にポンと触れるとバルバロイはそのまま寝床に消えてゆく。
残されたテッポは自分が所属している『マタニティ』の最悪の事態が頭によぎり震え上がった。
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