第18話 武術大会とワキヤック②

試合がどんどん開始される。

中央の大きな舞台の上で四カ所に別れ各自戦っていく。

そんな戦いを見てついつい欠伸をするワキヤック。

なぜなら、


「(スキルゴリ押しの戦い)」


スキルを使用すると本人の意思とは別に動くことが度々ある。

使っているのではなく使われている状態。

すると動きがギクシャクして、隙も多いし動きが大袈裟で退屈なのだ。


「欠伸をしない!あなたはわたくしの護衛ですのよ!」


「押忍!さーせんした」


ビシッと立ち直るワキヤックの目にふと気になる少女が目につく。

弱々しく部隊の上を走り回っているが攻撃は全て紙一重でかわしている。

何より気になるのが、攻撃を見てもいないのに避けていること。

まるで事前に攻撃を知っているかのような立ち回り…


「ヘンドリック様、あの少女の事を知ってますか?」


「あの少女がどうかしたか?」


「動きが不気味じゃありませんか?実力を隠しているような…あの立ち回り、もし意図して行っていれば只者じゃありません」


「そうかな?」


「万が一暗殺ギルドや政敵の可能性もあります。『モヒカンズ』諜報兵ガラワル!」


「ハッ」


「あの女を見張ってくれ」


「御意」


黒いモヤがガラワルと呼ばれた男を包むと次の瞬間消えていた。


「あれ程の使い手どこでみつけたのかいワキヤックくん?」


「元はカマセー領のスラム街で幅を効かせいていた『魔神の尻尾』の一員だった奴ですよ」


「……え?」



――――――――――――




「(ひいいい!?リアルだとこんなに怖いの!?でも大丈夫、クールタイム1.3秒―――これで決める) 【斬撃】!」


逃げ回っていた少女が突如立ち止まると強力な切り落とし。

相手選手は木刀とはいえ強力な一撃を喰らってダウンする。


「勝者 メアリス・ホアンロン」


黒髪ロングの少女が手を叩いて喜んだ。

メアリスは北の辺境の地出身の平民の娘。


「メアリスギリギリだったなぁ〜」


「仕方ないでしょ!サポートスキルの強化を優先してやってたんだから!そういうキーリはどうだったのよ!」


「俺は楽勝だったぜ!まぁゲームの知識を駆使してレベリングに明け暮れたからな」


キーリ・ホアンロンはメアリスの双子の兄。

黒髪短髪の爽やかな少年。

今年12歳でスキルを洗礼で得たばかりの少年だが、彼も平民でありながらこの武術大会に参加し一回戦を勝ち上がっている。


「ねぇ、これからさ…オープニングにあった襲撃イベント始まるわよね?」


「あーわりぃ、俺さ…オープニングはいつも飛ばしてたから本編が始まる―――3年後からじゃねぇとわかんねぇwww」


「ふざけないでよ!」


「謝るから〜教えてよ


「いい!これから悪魔のリーダーディアブロが放った強力な手下たちが襲いに来るの!私達がうまく立ち回らないと世界を救う者として扱われなくなっちゃうのよ!そしたら本編もクソもないわよ!!」


「そんな馬鹿な!?女神様だってこっちに転生する前に俺達が世界を救ってくれって言ってたじゃねぇか!っまぁゲーマー知識でもう中盤並みに強くなってるから余裕だよ余裕」


「……うまくいくといいいけど…」




そんなこんなでトーナメントは着々と進む。

メアリスは2回戦敗退、キーリは勝ち進んで準決勝まできていた。


「お、おかしい?なんで襲撃がないの?」


「よー、楽勝だったぜ」


メアリスは焦っていた。

何故なら準決勝の前に襲撃イベントがゲームでは起きているはずだから。


「別にいいじゃん。そしたら俺が優勝して目立ってやれば世界を救うものに選ばれるだろ?」


「あのねぇ、悪魔っていう脅威がなかったら世界を救うものなんていらないじゃない!」


「なんで?悪魔の脅威はいずれ魔神の復活に直結するだろ?」


「悪魔の脅威が無かったら魔神がなんだって騒がないでしょ?そもそも悪魔が魔神の復活のために動いてるなんてしってるキャラはエルフの老賢者達だけよ」


「じゃあ…ゲームが始まらないじゃん!!どうすんだよ!」


「知らないわよ!」


何やら兄弟喧嘩をしているところに対戦相手が挨拶に来る。


「ガッハッハッハ!俺はガラワルってんだ、よろしく頼むぜぇ?」


大柄でモヒカンのいかにも柄が悪い。

よくあるテンプレじゃん、とキーリはほくそ笑む。


「へっいいぜ、相手になってやる。俺の名前はキーリ・ホアンロン、この世界の主人公様だ!」


――――――――――――


「な、なんで!?」


この世界は女神に与えられるスキルは一つ限り。

しかしこのキーリはいくつものスキルを使用した。

圧倒的なポテンシャルで試合は一方的に終わる…はずだった。

しかし、この柄悪いモヒカンが強すぎる。


「おいおい、どうしたどうした?」


「ふざけるな!くっそ!【身体強化】【剛腕】【縮地】うおおおお!!【深淵煉獄斬】!!!!」


刹那の速さでモヒカン男に斬りかかるキーリ。

木刀は漆黒の炎を纏い、思い切り振り落とす。

だが―――


「ごゔぁ!」


あっさりカウンターで殴られてしまった。


「オラァ!」


叩き落とされて地面にぶつかる。


「ぐあっ…ふざけんな…お前、お前も転生者だろ!どんなチート使ってんだよ!?」


「テンセイシャ?新しい食いもんか?」


「くそっふざけやがって正々堂々戦えよ!チート使ってんじゃねぇ!?俺はレベル36だぞ!?この世界を救う主人公だぞ!?この世界の全員、俺の引き立て役なんだぞ!?わかってのかぁ!!!!クソクソクソクソクソォーーー!!」


「?打ちどころが悪かった?ならば…一気に決めてやろう!【魔装】!」


魔力を纏うと木刀を正眼につける。


「生活魔法熟練度がMAXかつレベルが40以上じゃないと使えない【魔装】!?なんでお前なんかがぁ?やめ…やめろっ!!」


「〈車切り〉!」


剣を大きく振り回して大袈裟に一刀を振り落とす〈車切り〉。

一撃で相手の木刀は真っ二つに切れてしまい勝負は決まった…のだが、


「魔力利用のため反則としガラワル負け、よってキーリの勝利とする」


「「オオオオオオオオオ!!」」


「アーコレハウッカリシテシマッタ。ガハハハ負けちまった……」


握手をしようと手を差し出すガラワルであったが。


「馬鹿にしやがってぇ!!クソクソクソォ!!」


癇癪かんしゃくを起こしたキーリは握手を払ってどこかへ行ってしまった。





「(ちょっと、何やってんのよあいつ!感じワル!…それにしてもあのモヒカンは何者かしら?【魔装】を使ってたってことはたぶん転生者で間違い無いでしょうけど…あんなモヒカン集団、ゲームで見たこと無いのよね。もしかしてあいつらが今回イベントが発生しないのと関係あるのかしら?)」


と考えにふけってキーリを探すメアリス。

そこへ一回戦の相手が仲間を連れてやって来た。


「へへへ…さっきはよくも俺様をコケにしやがったなぁ?」


「な、なによアンタ達?」


「おい、なかなかの器量じゃねぇかいいね〜げへへへ」

「ヒヒヒ、三人に勝てるわけないだろ」


メアリスが辺りを見渡すと、ちょうど物陰になっており人目が無い。


「しまった―――」


「さて、どうしてやろうか?(にちゃあ)」


下卑た男たちがメアリスとの距離を詰める。

そこに


「お―――おぼぼぼぼぼ」


突然水球が男の顔を包んだ時、キーリと男たちに割って入る美青年。

青の短髪をなびかせ黒いローブを翻す。

長身のアイドルのような甘いマスクと鋭い眼光が特徴的な青い瞳の男。


「誰だテメェ…」


「(うそ、うそうそ!私の推しの一人…あぁ本物…)」


「僕は青石の騎士…サイラス・サファイア」


「な、なんだと!?ほ、本物か!―――くそ、覚えとけよーーー!!」


一目散に逃げ出す男たち。

尻もちをついたメアリスに無言で手を差し伸べるサイラス。


「あ、ありがとうございます(そうそう、信頼度がなくてもやさしいのよ〜尊い…)」


「一人か?」


「は、はい。連れがどこかに行ってしまって…」


「サイラス、送ってさしあげましょう」


「御意」


「(あぁ!オリヴィア・イースト!お人形みたいでかわいい〜。4大令嬢イベントはいつもこの子から攻略したわよね〜。おまけでサイラスも仲間になるし)」


オリヴィア・イースト。

ジト目青髪ロングの身長の低い美少女。


「早くワキヤック様に会いたい」


「同感です、命の恩人であるワキヤック卿」


…ワキヤック?脇役?

『四神の扉』というゲームは数千時間続けても飽きない超ボリュームのフリーシナリオが人気のゲームなのだが、本編に関係のないモブほど名前と設定が雑なのだ。

西の辺境イベントで言えば、教会や『魔神の尻尾』から裏金をもらって、悪魔とともに王国の脅威となるウラガネーや、悪魔によってオープニングで滅ばされいる不幸で可愛そう(フコウデ・カワイーソン子爵)などがそれだ。

ワキヤック…そういうキャラだと思うのだが、


「あの〜そのワキヤック様って凄い方なんですか〜?」


「そうなんです(フンス)!ワキヤック様は強くてカッコいい方なのです!私とランメルト、サイラス、エレナ(・ルビー)という四人で冒険者をしているのですが、魔の森というところで魔獣に惨敗してしまって死ぬ寸前だったのです…」


「(そりゃあそうでしょう!?レベル90以上推奨の裏ダンジョンだもの。初期レベル20〜30のキャラじゃどうあがいても勝てないってば)」


「そこに颯爽さっそうと現れたのがワキヤック様なんです。みなぎる筋肉、魔物を粉砕する剛腕、モヒカンから放たれる雷鳴…」


「え!?この世界のモヒカンって雷鳴が出るの!?」


メアリスが驚愕している横でサイラスが揚々と語る。


「肉弾戦だけでなく魔法も超一流だった…あの日からあの強烈な魔法が目に焼き付いて離れない…」


「(サイラス様って信頼度が上がると蕩けそうな笑顔を見せるのよね。今目の前の表情みたいな…)あの、魔の森って危険な所だった気がしますけど、どうしてわざわざそんなところに?」


「よく聞いてくださいました!なんと、ワキヤック様が魔の森の奥地に拠点をお造りになられたのです。いままで難航した魔獣素材の回収や食料問題が劇的に変わりましたので、今冒険者の間では最高にホットなスポットなのですよ!」


「(えええええ!?そんなのゲームにない!知らない!)」


ワキヤックという人物は転生者っぽいのだが、魔の森に拠点を造るような強さを持つ人物なので迂闊に近づくのは危険だと考えたメアリス。

今後近づかないように気をつけようと思った時には既にワキヤックから目を付けられているとは考えが及ばなかったメアリスであった。

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