第17話 武術大会とワキヤック

「ミリーナちゃん!近すぎませんか?」


「ワキヤック殿に私の匂いをマーキングしているのだいいだろう?」


「なっななな!?駄目ですーーー私の旦那様ですーーー」


「フフ、サチウスは可愛いな。ペロ」


「ひゃっ!?(///)」


「私はワキヤック殿も好きだが、サチウスも好きだよ」


「ひゃうん…もう、ミリーナちゃんったら…」


「なにコレ?」


ワキヤックがボウギャック領でナムチとの戦闘で壊した領地を修復していると、どこからか現れるサチウスとミリーナに飽き飽きしている。

ふたりとも美少女なので悪くはないのだが、醜い豚を見る目で唾を吐きつけられる方が嬉しい。


そこへガンスと先日領主を引き継だワンパクも来る。


「モテモテがんすねワッキー。ぼくちんもあやかりたいがんす」


「っくっそ!お前ばっかり…やいワキヤック!俺と―――」


「フンッ」


「ごぼもっ」


反射的にラリアットを決めるワキヤックだが、


「くあっ!やられてばっかじゃねぇぞ!」


「(受け身がとれたな。なかなか才能があるなこいつ)そら!!」


「はばんっ」


耳ビンタ。

三半規管が揺れて今度は落ちたワンパク。


「やりすぎじゃないがんす?」


「大丈夫でしょ、男の子だし」


そういう問題なんだ?とガンスが頭をかしげているとそこに金髪の美少年執事がやってくる。


「ワキヤック様、こちらにおいででしたか?」


「おう、アル。なんか用か?」


「実は今アーノルド辺境伯様がいらっしゃっていて、ぜひワキヤック様に合いたいとおっしゃっていて」


「えー?俺なんかやっちゃったの?やだねぇ、行きたくないよぅ。ちょろまかせねぇかな?」


「無理でしょう」


「へいへい、行きますよ。やっぱウラガネーのおっさん生かしたの怒ってんのかね…」


アルに連れられてワキヤックは『魔神の尻尾』が使ったとされる地下のアジトに踏み入れる。




「おーよく来てくれたな、座りたまえ」


「押忍」


アーノルドの一言で席につくワキヤック。


「最近ボウギャック領で復興の手伝いをしてくれているようだね。感謝するよ」


「押忍、カマセー領精鋭部隊『モヒカンズ』の協力あってこそです。スラムの子供の教育機関〈ドウジョー〉の派遣、ヤク中を無理やり牢屋にぶち込んでヤク抜きさせたり、浮浪者や犯罪者を取り締まって最低限の治安は戻したと思います、押忍」


「『モヒカンズ』か!面白そうだな、今度紹介してくれ。それはそうとウラガネーの一件はヘンドリックから聞いた。死を偽装して領民を騙すのは助かったが、私の意見をないがしろにするのはいかがなものかな?私は国王陛下からこの西の辺境を預かっているのだが?」


「…押忍、さーせん……」


「まぁ子供のやることに免じて許してやらんでもない(偽の生首を晒せて死を偽造する子供がいるかどうかは別だが)」


「マ!?」


「実はな、娘の護衛を頼みたい」


「ドリル嬢の事っすね!任せてください」


「そうそう、私の可愛いドリル姫を守ってほしい。来週の行事に武技大会という行事があってな。そこで他の辺境の貴族たちや中央のお偉方が集まってくる。良からぬことをする輩もいる…頼めるかな?」


「お任せください!ワキヤック・カマセー、全力でお守りします!押忍!あ、アルも来るか?」


「あっ―――申し訳ありません、その日はピザの新作発表日でして…」


「そっか、お前ピザ好きだもんな〜」


「ワキヤック、そこの執事は強いのか?」


「ええ、カマセー兵の厳しい鍛錬にもついてくるし、もともとダンスか何かやっていて体幹が強いから武器術も安定してるし、その辺の騎士じゃ足元にも及びませんよ!」


「ほう、そうか……」


「?」


複雑な表情をするアーノルドの意図は解らなかったが、武技大会という行事でドリル嬢ことリリシア・ウエストの護衛を引き受けたワキヤック。


前世、鎌瀬犬彦の頃は似たような交流会という他流との交流の場があった。

合気、居合道、沖縄空手から中国拳法まで様々な交流があって、一流の技を堪能し充実した。

合気の合気上げ、居合道の逆手抜き、沖縄空手のてぃー、中国拳法の勁。

自分の武道の道幅を広げてくれたありがたい時間だった。

この世界独特の新たな戦術が見つかるかもとひっそり期待するワキヤック。





―――武術大会当日 ウエスト領―――


ウエスト領、西の辺境最大の都市。

王都のある中央からも近く交通の路も開かれている。

華やかな最新の建物と古くからある歴史的建造物が混在する王都にも引けを取らない大都市。

そのウエスト領の中央広場で本日武術大会が行われる。


武術大会は12歳〜18歳までの少年少女が対象で、武器有りのトーナメント。

飛び道具と魔法や魔力の仕様は禁止。


ウエスト領のご令嬢リリシアは開催地なので責務として試合を観戦しなくてはいけないという王都中央からの暗黙のルールがある。

コレを逆らうと謀反だとうるさいので渋々引き受けている。


リリシアの両サイドにはヘンドリック将軍と精鋭緑石騎士団。

ワキヤック率いる精鋭『モヒカンズ』、見た目は蛮族と変わりない。


「ワキヤック、相変わらず本当に気持ち悪い髪型ね?」


「ありがとうございます!!」


「褒めてないわよ!?見なさい各国から奇異の目でみられてるから!」


「気持ちいいっす!」


「はぁ〜、ヘンドリック様、何か言ってください」


「実力は確かです。ご辛抱を」


頭を抱えるリリシアの元に、これまた銀髪のドリル令嬢が顔を見せる。


「あらあらあら、野蛮なお連れ様だこと。リリシア様にぴったりではありませんか?」


「まあまあまあ、貧相な口の聞き方はシャーロット様ではございませんか?貧相な体の方は貧相な言葉しかできませんのね、お可哀想…」


目があった瞬間バッチバチに食って掛かる少女の名はシャーロット・ノース、北の辺境のご令嬢。

その背後にいる茶髪の青年は…


「あれ……ワキヤック?ワキヤックじゃないか?お前西の貴族だったのかよ!」


「ん、ランメルト?あんた冒険者じゃなかったのか?」


「ちょっと!この野蛮な筋肉アンタの知り合いなの!?」


「シャーロット嬢、こちらはワキヤック。俺の命の恩人さ」


【黄玉の加護】ランメルト・トパーズとワキヤックは魔の森で出会っていた。

冒険者として名を馳せていたトパーズは、いち早く魔の森が開拓されたことを知りすぐさま挑戦しに向かった。

しかし想像を超える魔獣達に苦戦をし、パーティーが打開されこれまでかと思った時にカマセー兵団率いるワキヤックに助けられた。


「そんで、仲良くなったってわけ。俺もサイラスもこんなところに来たくはなかったんだけど親父たちの要望でさ、令嬢の護衛ってわけだぜ。はっきり言って退屈なだけかと思ったがワキヤックがいるなら来たかいがあったぜ!」


「あの魔導士のサイラスさんも来てるのか?あの人武芸なんてできんの?」


「いいや、ヘンドリックのおっさんもそうだけど、俺達さ『輝石の騎士』って呼ばれる王国でも結構強い騎士の血筋なんだ。まぁそのせいで今回みたいな行事では令嬢のお守りなんてさせられてるわけだけど」


「ちょっと!サイラス・サファイヤなんかと仲良くしないでよ!アンタのせいでわたくしが舐められでもしたら許さないんだからね!それとそこのモヒカンともね!」


「へいへい、まぁ〜よろしくな」


「うっす」


ワキヤックとランメルトは握手をしてから別れた。


「わ、ワキヤック!あんた、ランメルト様とサイラス様と仲いいの?」


「へ?魔の森で10日間一緒に過ごしただけっすよ。仲は良いっすね、ふたりとも気前のいいにーちゃんだったし」


「へぇ〜、ランメルト様はともかくあの気が難しいサイラスと仲がいいのはやるじゃない!見直したわ!殴ってあげる♡」


「なっ!?わ、ワンッ!!ゴブッ!ヌギャ!はっはっはっグッ!ふぅーーーくぅ〜ん♡」


「(な、ワキヤックくんの扱い慣れてるな。しかしアーノルド様はこれで良いのか?ミリーナもこんな風になろうとしているのか…)」


遠目でリリシアを見ていた一部の民衆はサッと目を逸らし武術大会が始まろうとしていた。


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