第19話 武術大会とワキヤック③
「決勝戦!西キーリ・ホアンロン!東イシャーン・バズム…始め!」
「(畜生、準決勝は相手がチートだっただけだ…俺は強えんだ。目の前の奴にも解らせてやる…)」
ターバンを巻いている長身白い肌のイシャーン。
下段に構えるとすり足で距離を詰める。
「【身体強化】始めっから全力でいくぜ【深淵煉獄斬】!!」
決勝を拝見するワキヤックにある疑問が生まれた。
「魔力は感じられないけど…あの木刀の周りをメラメラ燃えてる黒炎はいいんすかヘンドリック様?」
「あれはスキルだから問題ない」
なんだか納得いかないというワキヤックのところへ仰々しい一団が訪れる。
東の辺境の令嬢オリヴィア・イーストと護衛の青石サイラス・サファイア。
南の辺境の令嬢ジャンヌ・サウスと護衛の赤石エレナ・ルビーが到着。
ジャンヌ・サウスはド派手なドレス、ド派手な髪型のなんか凄い令嬢である。
辺境の4大貴族の中では鳳凰という四神を王国で祀っているのだが、その四神と関係があるとやらで一番格式が高い。
エレナ・ルビーは今年17歳のボーイッシュな少女。
赤髪短髪の勝ち気な少女で同年代では一番の剣術が巧い。
「お久しぶりねリリシア、シャーロット。また美しくなったわ」
「「光栄です、ジャンヌお姉様!」」
「ウフフ、そんなに固くならなくてもいいのよ?あら、そこの立派なモヒカンはワキヤックくんね?エレナから聞いているわ」
「押忍、ワキヤックです」
「今年で10の少年だと聞いていたけど…凄いガタイね。これからもエレナと仲良くしてね」
「うっす」
「うっすワキヤッくん!久しぶりっす!」
「エレナさんも輝石の騎士とかいうなんか凄いやつだったんすね」
「あーごめんね〜冒険者の時は言わないお約束だから。しっかし、リリシア様の部下だったなんて不思議だよ。ワキヤッくんは誰かの下につく感じじゃなかったからね」
「え?エレナ様にも面識があるの!?これって輝石の騎士全員と
「ギャイン!!ありがとうございます!」
「「(いきなり殴られて喜んでる…)」」
唐突のリリシアの右フックに感謝を述べるワキヤック。
リリシアは父の密命で今後のクーデターのために輝石の騎士と他の辺境令嬢たちと親睦を深めるように言われていたのだが、ワキヤックのファインプレーによって気分がいいのだ。
「ワキヤック様は…殴られたほうが嬉しいのね!フン!フン!」
「お嬢様、無理はなされないよう」
ちっこい令嬢オリヴィアが右フックを一生懸命練習していたのでサイラスが諌める。
北のドリル令嬢シャーロットはドン引きしていたが、ド派手おっぱい令嬢のジャンヌは好印象と言った表情をしていた。
そんな大貴族御一行の後ろにこっそりとついてきた少女、メアリス・ホアンロンは戸惑っていた。
「(なんか、偉いところに来てしまった…でもゲームでよく知ってるキャラが動いてるのエモいわ!)」
などと見入っているとモヒカンに背後を取られた。
「メアリス・ホアンロンだな!?なぜここにいる?」
ワキヤックが背後から喉元に手刀を突きつけて質問する。
「えっ!ごめんさない!オリヴィア様についてきただけですけど!?」
「ん?なんだオリヴィア様の連れだったのか。俺はてっきりど教会の構成員だとおもったぜ。あーガラワルに警戒解除っと」
なにやらハンドサインを送っているワキヤックにメアリスは問いかける。
「ちょっ!?なんで私が構成員だと思ったんんですか?」
「一回戦にアンタはまるでどういう攻撃が来るか解っているようなそぶりと、チグハグな立ち回りがどうにも奇妙だったから、ワザと弱く見せて擬態して近づいてきたのかと思ったぜ」
「(このモヒカンの人、なんでこんな買いかぶってんの?てか、こいつがワキヤック!?……?あれ、ワキヤック?西の辺境――――――!!)あーーー!!」
メアリスはあることを思い出し素っ頓狂な声を上げてしまった。
「(公式攻略本の説明文一行の西のバカ3人衆!!バカのワンパク、ナルシストのガンス、スケベデブのワキヤック…かけ離れてるやん。ガチムチモヒカンじゃん)」
「なんだ、大声だして。俺悪いこと言ったか?謝っといたほうがいい?」
「い、いえ、ワキヤック…さん?は別に悪くないですよ。残念ですけど私はメアリスっていう普通の女ですよ?そんな教会の構成員なんて無理ですよ〜」
「そっか…う〜ん、気のせいか」
「(あれ、この人…私が『四神の扉』の女主人公って解ってない?そう言えばいま戦ってる男主人公のキーリにまったく興味無さそうだし…この人転生者じゃないのかな?そうだ、転生者だったら―――)」
メアリスは意を決したという表情でワキヤックにのみ聞こえる声で確認する。
「ワキヤックさんは…女神に会ったことありますか?」
「めがみぃ?あ、教会に飾ってあった痴女の事か?会えるなら会っていたいけどねぇ〜(オプション代高そう)」
「ははは、そうですよね〜気にしないでくださいあははははー」
メアリスはこの世界に来た時の事を思い出す。
兄の健太と共に自宅を放火されて命を失ったその時、女神様に会ったこと。
そしてこの世界に転生した存在は必ず女神と会っているということ。
「(嘘をついてる可能性もあるけど…やっぱり転生者じゃなさそう…)」
そんなこんなしているうちに試合が動いたようだ。
「くそっくそっ!なんで当たんねぇんだよ!!」
「やれやれ、こんなイノシシが決勝戦だなんてがっかりだね」
「親善試合としてでてあげたけど…人族のレベルにはがっかりだね」
「言わせておけば―――へへへ、もうしょうがねぇよな?どうにでもなれ…」
キーリの木刀が今度は物凄く輝く出す。
試合用の土台がカタカタと振れだす。
「おい?それは魔力だろう?ルールもわからないのかい?」
「知るかよ!!勝ちゃいいんだよォ!!喰らえ勇者の聖技【セイントオーラ】」
キイイイイイン
強力な魔力と強力な魔力が拮抗した時の音がする。
イシャーンが目を開けると人差し指で聖剣を受け止めるモヒカンがいた。
受け止めながら淡々と話し出す。
「えー、今回の審判をさせて頂きますワキヤックと申します。この試合キーリ選手の反則によりイシャーン選手の勝利となります」
わーわーわーがやがやがや
「ふっざけろ!!どけモヒカン野郎!」
「じゃあ、この剣は…しまっちゃおーねぇ〜」
目にも止まらぬ速さでキーリの木刀を
そのまま空中でワキヤックは木刀を手刀で4枚卸しにした。
「な、なんと!?撤回する、人族は脅威に値する!」
驚愕の目で丸くするイシャーン。
火に油を注いだ状態のキーリは怒鳴リ散らす。
「どいつもこいつもコケにしやがって!!モヒカン野郎、テメェ許さねえからな!」
「優勝したイシャーン殿には賞金金貨30枚とカマセー領より秋の味覚3点セット、サツマイモ・梨・松茸をプレゼント」
「無視してんじゃねぇーーーー!!!!」
今度はキーリの右手がバチクソ輝き出して、そのままワキヤックに殴りかかる―――
―――ゴッ
「いってぇーーー!!」
しかしワキヤックの鋼の体を傷つける事が出来ないどころか自分が傷ついてしまう。
「ほうほう…こうかな?」
今度はワキヤックの拳がバッチクソに輝き出す。
その規模は会場全体を包むほどに強烈な光を放つ。
「なんで―――なんで勇者限定の【セイントオーラ】を使えるんだよ!そうか!お前もチートだろ!正々堂々と戦う気はねぇのかよ!!恥ずかしくねぇのか!」
反省の色はなくキャンキャン吠えるキーリに対してワキヤックはため息をついた。
「イシャーン選手、申し訳ありませんが商品授与の前に舞台から降りて離れてもらっていいですか?本気出します」
「ほ、本気?」
何を言ってるんだと思いながらも嫌な予感がしたので言われたとおりに舞台から離れる。
そこへ舞台の四方を加工用に4人の『モヒカンズ』が囲う。
「「【魔装壁】」」
魔力を帯びた魔法の壁、結界のようなものを展開する。
「なっ、どうするつもりだ!?俺一人に5人係で来るのか!この卑怯者共が!」
「結界を貼らないと一般客が失神するからな…さっきから文句たれやがって…本気でやってやるよ…【魔装】!!」
ワキヤックの全力魔装。
魔力の密度で空間は湾曲し、上空は異常気象が起きる。
これには流石の観客も大騒ぎ、右往左往する。
一人、そのコカ◯ーラの原液よりも濃密な魔力を前に、吐き気・目眩・恐怖が一斉にキーリに襲いかかる。
「い゛い゛い゛い゛い゛い゛!?」
声すら出ないキーリを前にしてワキヤックは前屈立ち脇構えを構えると、右手に全魔力を集中し、螺旋状のルーンを展開する。
「【拳銃拳・セイントオーラ充填】」
螺旋のルーンにセイントオーラが充填されていく、そして―――
発射―――はしない。会場が壊れるから。
あと、目の前のキーリも泡吹いて失禁してるので許してやることにした。
「ふぅ、片付いた。じゃイシャーン選手、授与式やりますねー」
振り返った時、イシャーンは全身をガクガク震わせながら頷いた。
―――VIP傍観席―――
「やはりワキヤック様はすごいわー」
大はしゃぎのオリヴィアとランメルト、そしてエレナ。
サイラスは笑顔で神に祈るかのようにワキヤックを祟っている。
この4人は以前魔の森で会っているのでさほど驚きはしなかった。
しかし他の令嬢たちとヘンドリックは唖然と見つめる。
「天候が…荒れましたな?」
もう呆れてしまうヘンドリック。
悪魔を退けたのだからある程度は想像していたが、想像より人の
「まぁ…凄いわね?」
どうリアクションをとればいいかわからないジャンヌ。
「見ましたわよ!魔法に精通していない私でもはっきり空間が湾曲を見ましたわ!あのとさか男何者ですの!ドラゴンだってあんな重圧はありませんことよリリシア様?」
リリシアに問い詰めるシャーロット。
「えー、私に聞かれても…なんか強そうだったわよワキヤック」
日和見を決め込もうとするリリシア。
そしてその異常性を一番に理解する女、
「おかしい、おかしいおかしい!あんな技『四神の扉』に存在しない!あんな馬鹿みたいな現象魔神が復活する時ぐらいしか…まさか、あの男がそうなの?」
畏怖を含んだ目でワキヤックを睨むメアリス。
遠くからでもわかったワキヤックは悪くない…とちょっとゾクゾクしている。
今日、この日をもって周辺諸侯にワキヤックが知られてしまう。
結果的にはクーデターの計画の潤滑油になるのだが…
『四神の扉』の脇役の端の端、ワキヤックを中心に物語は動き出す。
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