第13話 親子の再会とワキヤック

俺がこのカマセー領に来るきっかけになったのはゲンブ魔王国の先王からの忠臣、ラギリー大臣がクーデターを起こしたことが始まりだった。


「ど、どうなってんだよ母様?」


「ラギリー!王族に刃を向けるとは何のつもりですか?」


「バルバロッサ様は優しすぎるのです。今こそ魔族の尻尾と共に世界を手に入れる時なのですよ」


「馬鹿な?あの様な魔神の復活を唱える狂人の力を借りると?何を吹き込まれたラギリー!!」


「卑屈で高飛車なエルフ、屁理屈で変人揃いの亜人ども、傲慢でずる賢い人族。この様な者達が地上に蔓延はびこっているのが我慢ならないのです。我々魔族の家畜になるのがせいぜいなのです。貴方がたには大事な役割を果たして貰います」


「ケッ!人質にでもする気か!冗談じゃねぇぜ!」


「ほっほっほ!元気が合って大変よろしい。バルバロッサ様がご崩御ほうぎょされた場合はタイタニア姫にお世継ぎを作っていただかなくてはいけませんからなぁ」


「大臣…貴様ァ!!」


「報告します!漆黒門が突破されました!」


「馬鹿な!難攻不落の漆黒門がこれほど早く!?さすがは四神の力を引き継ぐ者ということか―――だからこそタイタニアが必要なのだ!来い!!」


大嫌いな大臣が無理やり手を引っ張ると、母様が思い切り頬をひっぱたく。

細い腕からは想像がつかないような馬鹿力で大臣は吹っ飛んで壁にめり込んだ。


「―――このクソ女!誰かこの女を牢屋にぶち込め―――!?その魔法陣は?やめろ!そのルーン不完全だ!その転移魔法ではどこに飛ぶかわからないぞ!?」


「あなたにこの子を渡すぐらいなら一縷いちるの望みにかける」


魔法陣が私の足元に形成されると、私の体は光になって消えていく。


「このアバズレ!!死ねベアトリス!!」


最後に見た光景はあの大嫌いな男が母の胸を貫いた光景だった―――


気が付いた時にはどことも知らない森の中に居た。

放心し涙を流してる間にウルフが俺に襲いかかってきた。

気持ちがぐちゃぐちゃなまま生き延びようと体が動いた。

闇魔法の下級魔法が使えたおかげでウルフやゴブリンから逃げ切るだけならなんとかなった。


しかし、空腹と疲労で意識が薄れていく。

ゆっくりとまぶたは閉じ、再び開くことは無いと思いながら眠りにつく。


しかし目を開ければ人族の変態に体をまさぐられていた。

思い切り殴ってやった。


何日も彷徨っていたらしく、その人族に臭かったと言われた。

生まれて初めて言われた。

嫌なやつだ。

でもそいつがくれたパン粥は今まで食べたどんな食べ物より美味しかった。



そして時間が過ぎた。

変態の口から思いもよらぬ言葉を聞いて耳を疑った。


「おいお前ら、向こうに行ったらバルバロッサって魔族のおっさんがいるけど攻撃するなよ!」


「バルバロッサ!?パパ!!」




―――――――――――




「おい変態!俺も行くぞ!」


人員補充のために一旦カマセー領に魔装状態全力疾走(時速80km)2時間で戻ってきたワキヤックに声をかけたのが魔族メイドのタイタニスであった。


「お前は弱いから留守番な!ざ〜こ♡ざ〜こ♡」


「ふざっけんな!何があってもついてくからな!!」


物資搬送用の馬車にしがみつくタイタニスは引き剥がせなかったので仕方なく連れて行くことになった。

それともう一人、


「ワキヤック様、今度は私も行きますよ?」


「おっぱい?」


「アルの姉のマーリンです!」


こちらもしがみついていて剥がすのが面倒だったので連れて行く。

筆頭執事ワリカンの話になると大魔導士らしいので最低限の戦力にはなるかな。


最近では元スラムの獣人も加わったニューカマセー兵団はもちろん自分たちで馬車を引く。

そしてA級やB級魔獣とも三人がかりなら戦うことができるまで成長していた。


パンパンに詰まった十台のサスペンション付き馬車の中にはドワーフ達もいた。

馬車を代わる代わる交代して引きながら3日かけてようやく魔の森中間拠点にカマセー兵約70人と物資馬車10台+ドワーフ5人が到着した。


魔の森中間拠点はもう一件小屋が土地の中心に増えていた。


「ワキヤック様、皆様、よくぞいらっしゃってくれました」


トサケンが一礼すると、後ろからブレイドが出てきた。


「うっわ、まじかよ…この人数で来たのか?」


「おい、お前らに話したこの人が拠点デベロッパーのブレイドさんだ!言うことを聞くように!」


「「「押忍ワキヤック様!よろしゃすブレイド様!!」」」


「俺は開発者デベロッパーじゃなくて冒険者だからな!?」


さて必要施設はブレイドに責任を放り投げて、


「ドワーフ達、馬車に大量に乗せた魔石にやら鉱石を使って外壁の強化を棟梁と頼む!」


「「へいボス!」」


外壁はドワーフに作業を放り投げて、


「俺は魔物狩りでもして食料を増やすか!」


「ならばわしも行くぞ!」


バルバロッサがのしのしとワキヤックの前に現れた。


「暇だったのでな、わしも狩りをしてやろうぞ!」


「そいつはありがたいんだけど、おっさんに会いたいって奴がいてさ?」


「はぁ?どこのどいつだ―――!?あっ……」


なにかに気づくと身を振り返りどこかに行こうとするバルバロッサ。

その後ろにはタイタニスがいる。


「パパ?パパだろ!?」


「知らん。わしは知らん…」


先程の態度とは打って変わって弱々しくぼやくバルバロッサ。


「母様のことだったら知ってる。もう俺大丈夫だからさ、心配いらないよ」


明らかな空元気のボロボロスマイルを見せるタイタニス。

振り返った瞬間大の男が大泣きしながらタイタニスを抱きかかえる。


「タニアちゃああああん!ごめんねぇ!パパッ、ママ守れなかったーーー!!」


「ごめんなさい、俺のせいで母様が…死んじまった…」


「?…ママは…生きてるよ」


「え!?」


「大好きなママの胸元に大きなキズを残してしまって…情けなくってなぁ」


「母様…?本当に?」


「一命はとりとめたよ」


「パパ、パパァーーー!!」


パァッと花が咲いたように喜び抱き合った二人。


「へぇ、あんたたち親子だったんかい。そういや同じ目の色だな」


「すまんな鎌瀬、黙っておって。その…な?色々あって娘に会うのがもどかしくてな…お前の経験を通して娘が生きておったのは知っとったが」


「じゃあ会わないつもりだったのかよ!フンッ」


「あああ、タニアちゃん…ごめんね?パパ反省してるから…それより、改めて娘を助けてくれて礼を言う。バルバロッサ・ゲンブ、心よりの感謝を…」


ワキヤックに頭を下げるバルバロッサにやめろと大げさな素振りで諌めるのであった。



――――――――――――



「アルベルト殿下!?ご無事でしたか!」


「マリーン!?」


「「え!?」」


宿舎用の小屋の裏側でハサンに稽古をつけてもらっていたアルの元にマーリンが飛び込んできた。


「うす、ホウオウ王国第2王子アルベルト?」


「何を言ってるんですハサン様、僕はただのカマセー家の執事ですよ?ねぇ…姉さん(ギロッ)」


「ふあああ!?ごめんなさい、お姉ちゃんちょっとアルが心配すぎて頭こんがらがっちゃって…えへへ?」


「うわっ!も、もしかしてマーリン大魔導士様ですか!?」


「ラーラ、この人有名?」


「知らないの?大魔導士の称号を最年少で授与された天才なのよ!私達のような魔導士なら誰だって知っている憧れの存在よ!でも、宮仕えだって噂で聞いたのになんでこんなところに?」


「大魔導士…宮仕え……(チラッ)」


「ハサン様、あまり首を突っ込むと危ない橋を渡る羽目になる……かも知れませんよ?」


にこにこ笑いながら語りだす。


「あくまで噂ですが…第二王子は腹違いの第一王子とその母親は何度も毒殺されそうになったそですよ。そのせいで第二王子の親しいメイドや忠臣が何人も死んだ挙げ句、強行に及んで暗殺者の手によって第二王子は死んでしまったらしいです。あくまで噂ですよ(含み)」


先程の打ち合っていた少年とは思えないような冥い瞳と歳合わぬ含みを聞いて、


「あー私何にも聞こえなかったー?ね、ハサンもそうでしょ!?」


「うす!」


と冷や汗をかきながら見え透いた受け答えをした。

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