第11話 バルバロッサとワキヤック

魔の森に着くと、何故か一箇所だけ開けた道が森のずっと奥まで続いていたので、ワキヤック一行はそこから魔の森へ入っていく。

その道は何か巨大な力で地面がエグれている。

もし、その様な力のある魔獣と出くわした時勝てるか不安だと考える冒険者チームと打って変わって、トサケン、アル、棟梁の三人はワキヤックが普及させた〈将棋〉というボードゲームで遊んでいた。


「はい、竜馬になって詰みです」


「あ、アル待っただ!」


「待った無しですよ」


「ほう、居飛車で攻めたながら本命は角でしたか。勉強になりますね〜」


「トサケンさんは振り飛車が得意なんですって?ぜひ戦ってみます?」


「いいでしょう」


「ちょっと待ってください!緊張感なさすぎでしょう!?ここ、魔の森ですよ?」


「そう浮足立ってもしょうが無いですよブレイドくん」


「リーダー、将棋面白いよ!今度買おっかな…」


「よく考えられてるわね」


「うす」


「俺がおかしいのかな?いや、それよりワキヤック坊っちゃんは先頭で、しかもいいのか?」


「ブレイドくん、君はワキヤック様を舐めすぎてますよ?ほら、馬たちより早いでしょう?」


「ええ、おかしいですよ。まだ8歳で洗礼もまだなんでしょう?しかもあいつ俺の手を握った瞬間不思議な力で…なんていうか、力が出なくなったんですよ?」


「そういう技術なのでしょう…おや?」


ぴゅるる〜


ワキヤックの口笛。

敵が近いの合図だ。


「ようやくお出ましか!行くぞラーラ・レイル・ハサン!!」


「「了解!」」


先頭のワキヤックの引く馬車に行くとウルフの群れに囲まれていたが、既に半分は首と胴体が離れていた。


「あ、来ちゃったかわりぃね。これぐらいなら一人でなんとかなるから馬車に戻って将棋でもしてて。アル、お前はやるか?」


「ええ、修行の成果をみせますよ」


美少年執事が手に持つのは‘’棍‘’。

実はワキヤックが唯一会得している武器術が棒術。

アルには体術より武器術のほうが才能があったため、本人の要望で暇な時に教えている。


「おいおい、木の棒でウルフに通用訳あるか!」


「まぁみててください―――【魔装】」


【魔装】。

以前ホウジヨ農場魔導士が言っていた魔力コーティングの技術体制としての名称。

魔力を纏う事によって、身体の強化や反射神経の向上、物理や魔法からの防御向上などの恩恵がある。

そして強化されるのは棍のような棒も同様。

全身にと棍に魔力がいきわたると、鋭い踏み込みでウルフに飛び込む。


「はっ!」


前方のウルフを一突き、左右から襲いかかるウルフには体をごと回転して棍をぶつけてノックアウト。

後ろを確認せずに棍をスライドさせて後方も一突き。

前方から襲いかかってきたリーダーらしきウルフには踏み込みと同時にもう一度スライドしながらの一撃。

敵からした突如武器が出現したかのような錯覚的加速で頭蓋を貫通。


「すげぇ…10歳そこらのガキがウルフの群れを片付けちまった…」


「ねぇリーダー?私達必要なの?」


「ラーラの言う事をどう思うワキヤック坊っちゃん?」


「ハッ!まだ魔の森の入口だぜ?未知の領域を突っ走るなら経験をつんだ冒険者の判断が必要な時がくるだろ?」


「坊っちゃんよ、あんた何歳だよ?」


「ん〜ぼくね〜8ちゃいなの〜」


「嘘つけぇッ!!」




すっかり日もくれる頃には道も森に戻ろうとしていた。

更地がついに途絶えた、ここからは獣道になると全員の顔色がかわったその時。


「アルー!【拳銃拳】やるから全員下がらせてくれー」


「ワキヤック様!【拳銃拳】ですか!ここで?」


「んあー。おれはいいけど馬はキツイだろ。やるぞ」


引いていた馬車から離れ仁王立ちをとる。


「おい、何が始まるんだ?」


敵はほとんどアルとワキヤックで片付けてしまって、ほとんど将棋を楽しんでいるだけだった[剣風]のパーティーと棟梁とトサケンがワキヤックの近くに集まりだした。


「あ!離れてください!危ないですよ!」


「危ない?なんだぁアル坊、ボスはう◯こでもするってか?ガハハハ!」


「汚いです」「不潔」と凄く不快な目で女性陣から見られたドワーフの棟梁とうりょうは人族とのギャップに戸惑いつつも、小さくなっていた。


「一体何が始まるんですアル殿?」


「道を作るんですよトサケン様」


何を言ってるんだと目線をワキヤックに戻すブレイド、そこには周囲の空間が湾曲するほどの魔力を帯びたワキヤックが居た。


「ちょ、ちょちょちょおかしいよあの子!?あんな高密度の魔力、王都の魔導学園全員でも敵わないかも!!」


青い顔をして冷や汗をかく魔導士のラーラ。

優秀な魔導士だからこそワキヤックの異常な魔力を理解できたのだろう。


「【螺旋ルーン】装着」


輝く黄金の軌跡がワキヤックの右肩から螺旋状に描かれ、中指の第二関節まで発現する。

送り足によって足がクロスする状態から中指一本拳脇構え。

添え手を打ち込む方向に構えると、ワキヤックの頭上には巨大な魔法陣が発生する。


「で、でかすぎィ!リーダーこれもしかしてだけど原初魔法だよ?」


「なんか物凄い物だってのは解るけど何なんだラーラ?」


「原初魔法っていうのは途方もない魔力の物量でないと発現しない特殊な魔法陣を用いた魔法でね、女神様や天使、魔神や悪魔じゃないと扱えないっていう伝説の魔法何だけど…そうじゃないと説明がつかないっていうか…」


「見ろ!上空から出てきた紫の雷が、ワキヤックの肩に吸収されてく―――」


「【パルサー】装弾」


巨大な紫電の雷鳴が全てワキヤックの肩から螺旋状に伸びるルーンに吸収されると、稲光を帯びたその右腕から遂に放たれる。


「【拳銃拳・パルサー】!うおりゃあッ!!」


添え手による引手と同時に胴体が回転、扇状に半回転しつつ拳が放たれる、扇突き。

打点に到達すると同時に放たれれる右腕に蓄積されたルーンの紫電。

紫電が螺旋状にルーンを走る事で遠視力が加わり、中指一本拳の中指の先から放たれた紫電はドリルのような強烈な回転で拳銃から放たれた弾丸のような貫通力を得る。

扇突きによる加速とルーンを魔法が走る加速エネルギー+原初魔法による凶悪な魔法エネルギー=



冷酷無慈悲の大破壊エネルギー








ドッドッガガガガガガギュウゥ゙ウウン!!!!


目の前の森が消滅してから音と衝撃波が一向に伝わってきた。

つい先程まで広がっていた森が消滅した。

言葉通り、更地となって消滅した。

アル以外の全員がここまでの道がワキヤックによって創られていたことを悟りドン引き。

凄すぎて声も出ない周りに代わってアルがワキヤックに声をかけた。


「ワキヤック様お疲れ様です。いやぁすごいですねー」


「……逃げろ!」


「へ?」


「早く逃げろ!来るぞ!【魔装】!!」


ワキヤックが【魔装】を纏い前方へ飛び出す。

前方から来た人影と衝突すると大きな衝撃波が辺りを包む。


タンクのハサンが前に出て後ろの馬車ともども踏みとどまる。

衝撃波が収まるとワキヤックの前方に慎重2メートルぐらいはあろう褐色の大柄な男がワキヤックと向き合っていた。


「「魔族!?」」


豪華絢爛なマントを豪快に脱ぐとワキヤックに問いかける。


「人族か?まさかわしの潜伏を見抜いてのこの規模の攻撃、見事である。このわし、バルバロッサ・ゲンブ感服したぞ!」


「(潜伏?知らねーよ)へっ、アレを喰らってピンピンしてんじゃねぇか!堪らねぇな!俺はワキヤック・カマセーだ…四露死苦!!」


そう言うと踏み込みと同時に腹と金的へワンツー!

バルバロッサと名乗った男は優雅に払いのけると上から肘打ち、

ワキヤックは避けながらかかとひざに関節蹴り。

一瞬顔を歪めるバルバロッサだが、お構いなしに鉄槌をワキヤックの横っ面にクリーンヒット。


ワキヤックの体が地面に当たりながら2回飛び跳ねたところで受け身を取り、地面を殴り地面を隆起させ岩石を【魔装】でコーティングして投げ続ける。


一つ二つと続けて砕いたバルバロッサだが岩石の影に潜んで近づいてきたワキヤックに気づかず右フックを顔面に貰ってしまう。

しかしフィジカルの差か、その場に留まりすかさずアッパー。

ワキヤックは空中で仰け反り、紙一重で避けつつ腹に横蹴りをぶつけその反作用で背面に飛ぶ。


この一連の攻防が5秒内で行われていた。


「な、なんだよあいつら化け物じゃねぇか!なんで俺達を連れてきたんだよ!!」


ブレイドが怒る。

目の前にいる2人はもはやS級の域すら越えているように感じたからだ。

ほかの[剣風]のメンバーも震えていた。


「トサケンさん!誰なんだよあの魔族!?」


「わからん、だが魔の森を一人で出歩くほどだ、私達が束になっても敵わないな!」


「じゃ、逃げましょうか」


「おい執事!お前主がピンチなんだぞ?」


「ワキヤック様に逃げろと言われましたので。ここに居ても邪魔になりますよ」


「まて!食料を寄こせ!さすれば命は助けてやろう!」


「じゃあありったけ渡してやれ!俺が殺られたらな!!」


頬から血を流しながら不敵に笑うワキヤック。


「わしはまだ【魔装】をしておらん。その意味がわかるだろう?」


「あのなぁおっさん。こんな強い相手が居て戦わなくてどうすんだ?もったいねぇだろ!!」


「くくく、狂人め!嫌いではないぞ!」


次の瞬間、【魔装】を纏ったバルバロッサにカウンターを顔面にカウンターを喰らって意識を持ってかれたワキヤック。

その表情は晴れやかであった。





「―――ん?あれ?生きてる?俺生きてるのか?」


「起きたか小僧(ズルズルズル)先にもらっているぞ!このバジルトマトスパゲティー、大変美味である!ガーハッハッハ!!」


「え、殺さねぇのかおっさん?」


「わしは自分が冷酷な魔族だと自負しておるが…子供を殺すほど堕ちてはいない、もっとも今のお前なら勝てるしな!」


「舐めやがって!もう一回、もう一回殺らせろ!」


「はいはい、負け犬ワキヤック様は食事でも取って休んでください」


「アル…くそ、次は勝つぞ!」


嬉しそうに食事をとるワキヤックを見て安心したアルは、大きくため息をついた。


「そう言えば他の奴らは?」


「今はバルバロッサ様に周囲の護衛を任せて眠っていますよ。僕ももう少ししたら寝ます」


焚き火の光でよく見ると、テントが並んでいた。


「おっさん、魔族って他の種族が嫌いで好戦的だって教会の奴らが煽動せんどうしてたぞ?俺達を生かしていいの?」


「グハハ!やはり面白いガキだな。構わん。お前はどうやらだからな!この魔の森の開拓をするんだってな?わしも手を貸してやるからな!ガハハハ!」


「(恩人?そんなに腹減ってたのか?)わかった、よろしくな!」


ワキヤックとバルバロッサはお互いに握手。

バルバロッサの厚いくてゴツい手の皮に振れて、もっと修行せねばと心の奥で炎燃やすのだった。




―――1時間前、ワキヤックが気絶してすぐ―――


「ガハハ、見事な食料。これだけ貰えばもうよい。そこのモヒカン小僧に免じてわしはこれで去ろう。気持ちの良いガキだったな!」


憑き物が落ちたような晴れやかな気持ちで話すバルバロッサはとても気前のいいおっちゃんみたいで、教会が語るような魔族にはとても見えなかった。


「そんなに構えなくともよい、わしの用事は終わった。わしの魔力が戻り次第飛行魔法で帰る」


「ひ、飛行魔法!どうやって?」


「おい!ラーラ、殺されるぞ!」


「ハッハッハ、構わん。残念だがお嬢ちゃんでは魔力が足りんようだな」


「ちぇー」


「…うん、やっぱいい人だな?」


「魔族にも色々居るさ、それより…そこの小僧、もしやその赤眼…ホウオウか?」


「…ふぅ、どうもワキヤック様専属執事のアルと申します。僕もあなたと同じ瞳の色をしたメイドを見ましたよ?」


「―――!?今、瞳の色が同じと言ったか!!小僧!どこで見た!!答えよ!!」


突如豹変したバルバロッサ。


「やっぱ怖えじゃん?」


と言いつつ剣を構え臨戦態勢。

護衛対象が襲われようとしているからだ。


「大丈夫です動かないで…」


「おう」


アルの一言で武器を下げる[剣風]のメンバーとトサケン。

アルは一呼吸置いてゆっくりバルバロッサを見つめる。


「僕と同じ、カマセー領の使用人として働いています。僕の事を後輩だとよく舐め腐って先輩風を吹かせてきます」


「生きてるのか!そうか…使用人!?だと!」


「使用人と言っても一日三食個室も与えられて給料もいいです。週に一回休みもあるんですよ。魔族にしては破格の対応だと思いますよ」


「そうか…生きてるか…」


屈強な男が涙を浮かべ空を見上げる。


「ならば…お主らが何をしているか知らんがわしも同行しよう」


「「え!?」」


「わしもその、カマセー領とやらに用ができた。ただとは言わん、わしを好きに使うが良い。どうだ?わしは強いぞ?」

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