第10話 魔の森とワキヤック

魔境

カマセー領の西にある危険地帯魔の森、その更に更に樹海をこえた奥に存在する魔獣レベルも測れない凶悪な魔物が跋扈ばっこするこの世界に存在する最高レベルの超凶悪地帯。


ゲンブ魔王国とホウオウ王国の国境沿いにあるらしく、その存在は伝承に残るのみ。

そんな眉唾物の存在を知ったのはワキヤックがチキン領で様々な魔法の実験をしていた時。


魔導の合流研究を始めて半年が過ぎ…

イバリン男爵から巨大な魔石がをほしいと言う話から始まった。


「B級クラスの魔獣?ダイブイーグルって鳥しか見たこと無いっすね?」


「ワキヤック卿の言っていた〈電気モーター〉の話を聞いて、もしかしたら魔石を使えば再現可能かも知れないと思ってね。魔の森の奥にはAやBクラスの魔獣はワラワラ居るはずだが…」


「あー、荷物運び役のアッカンって奴が弱くて奥まで入れなかったんだよ」


「そうか、Aクラスの魔獣までなら卿なら問題ないだろう。しかし、魔の森の更に奥には世界最強と言われる魔王すら近づかないとされる極悪危険地帯の『魔境』という領域があるよ」


「『魔境』?」


「そこに足を踏み入れた者達は皆無事では済まなかったらしい未知の領域だ」


「未知の領域!」


「最高レベルとされるS級魔獣より強い魔獣が平然と存在して、環境も人が入り込めるものではないらしい。いくら卿が強いといっても気を付けてくれたまえ」


「強い魔獣!!」


魔境!未知の領域!!強い魔獣!!!

ワキヤックの心に火を付けるキラーワードがてんこ盛りであったため、すぐに魔の森へ向かうためにカマセー領に帰ったワキヤックであったが、


「ダメに決まってるだろ!魔の森がどんだけ危険か解っているのか!?」


父のハゲヤックに伝えたところ、バチクソ怒鳴られてしまった。


「いいかワキヤック。魔の森は数多く冒険者が開拓をしようとして失敗してるんだ。四肢が無くなる程度ならまだまし、無惨な姿で戻って来る。その奥に行くだと?おかしなことを言ってないで勉強しなさい!!」


「はい父上(あーあ。困ったら勉強に振るのは年頃のガキには逆効果なんだよな。後で冒険者ギルドで相談しよ)」




―――カマセー領 冒険者ギルド―――


ワキヤックは早速ギルドマスターのトサケンというダンディなおっさんと話をしていた。


「魔の森の情報ですか?」


トサケンは驚いた。

噂の異次元モヒカンボーイが目の前に居る。

ウルフの剛皮を素手で貫きギルドに引きずって来たのが一年と半年ほど前。

当時7歳という少年のとてつもないポテンシャルを前に長年ギルドマスターという職を全うするトサケンでさえ震え上がったほど。


実際に狩りを圧倒的な攻撃力と見事な立ち回りでどれほどの大群が相手でも傷一つ受けることのない完成された武術を既に修めていた。

不可解である以上に繊麗せんれいされた動きに目を奪われていた。


それが今、魔力の使い方を会得したのだろうか?

トサケンは目の前のモヒカンボーイに対して手も足も出すことが出来ないだろうプレッシャーを感じている。

ギルドマスターであるトサケンがA級冒険者としての慧眼をもって看破したのだ。


その少年が欲した情報が魔の森。

数多くの猛者たちが挑戦しては散っていった難攻不落の領域。

かつては自分も未知の領域を冒険し、結果左腕を失いながらも未練を引きずって20年近くもギルドマスターをこのカマセー領で続けてきた。


「ワキヤック様は魔の森で何をしたいのですか?」


「俺はさ、『魔境』に行きたいんだけど、地図かなんかあれば―――」


「『魔境』!?あの『魔境』ですか?」


「へ?どの『魔境』?」


「いえ失敬、そうですか。残念ですが魔の森の地図はまでしかありません。少なくとも、私が知る20年で『魔境』に到達した者はいません」


「へっへ!マジで!!いいね、まずは開拓からってか?」


「開拓!魔の森を!」


「だってクソほど広いんだろ?『魔境』が本当にあるかどうかも分かんないうちにお陀仏じゃねぇか?」


トサケンは頭の後ろを金槌で殴られたような衝撃を受けた。

ただ、魔の森を抜けることしか考えていなかった自分とはスケールが違いすぎる。


「ワキヤック様…私に…私に何か手伝えることはありませんか!!」


「お?できれば俺を補佐してくれる冒険者が何人かいてくれるとありがたいね。あと、父上に内緒で長期保存食をいくつか開発してるんだ。それの評価を冒険者たちから聞きたい」


「了解いたしました!」


「アル、後でフリーズドライと缶詰を冒険者ギルドに手配しろ」


「はい、かしこまりました」


綺麗なお辞儀をするワキヤックの執事らしき少年が元スラム街、今ではワキヤック農場と呼ばれる場所へ走っていった。


「よし、俺は最近習得したを魔の森に向けて試してみる」






―――魔の森を越えた遥か向こう側の王国にて―――


「転移解析班!まだ解らぬのか!!」


「ハッ、それが大臣の巧妙なルーンの痕跡によって難航しております」


「クソッなぜわしはルーン技術に乏しいのだ。不甲斐ない、わし自らを探す事もできぬとは…――――――ガァ゙!?なんだこの馬鹿げた魔力の奔流ほんりゅうは?魔の森―――いや、『魔境』からか?またしてもスタンピートがおこるというのか…」


「報告します!!先程の魔力の奔流は魔境の奥、人族側の魔の森からだそうです!!」


「馬鹿な!?あのクソ生意気な悪魔どもでも復活したか!ええい!!わし自ら出向くぞ!転送魔法陣の用意をせよ!!」


「お止めください!!大臣のクーデターによる影響が収まらぬうちは勝手なことはお控えくださいませ!」


「うるさい!わしの言う事が聞けぬなら首をはねるぞ!貴様らは黙ってタイタニアの捜索を続けよ!!」





―――カマセー領 魔の森周辺―――


「ワキヤック様!?ご無事ですか?」


激しく魔力を消耗したワキヤックを抱きかかえるアル。


「こいつはスゲェけど、今のままじゃ乱発出来ねぇ…」


悔しそうに目の前へ目線を移すワキヤック。

そこに広がる彼方まで一直線に更地とかし、プスプスと湯気が上がる魔の森無き後であった。


「いやーーーお伽噺とぎばなしでみたドラゴンのブレスかと思いました。さっき打ち放つ前に右手にルーンを刻んだんですね。どうゆう神経でこんな事思いつくかワキヤック様には驚かされてばっかですよ!」


ルーンとは一歩間違えば暴発する恐れがあるのだ。


「褒めてるのか?」


「褒めてます!」


一日一発が限度だと解ると、その日から毎日毎日〈新しい戦術〉を試しては倒れ、試しては倒れを繰り返し。

一ヶ月もすると2発目を放つ事ができた。

その頃になるとフリーズドライや缶詰、の評判が冒険者達から聞こえてきた。

うますぎて宿に泊まる必要がないといった好印象のものが多かった。

品質も一ヶ月は持つことが分かった。




乾麺のパスタや缶詰とフリーズドライなどの保存の効く食料を詰められるだけ馬車に詰め込み、いざ魔の森へ探索の日が来た。


「ワキファッッッック!絶対に行かせんぞ!」


とハゲヤックに西門で止められたので耳たぶ下の大動脈に両側にビンタしておねんねしてもらった。


「アルベルト殿下ァ゙!!絶対に行かせませんよ!!」


アルのねーちゃんであるマーリンとかいうおっぱいも止めに来たので、両側ビンタでおねんねしてもらった。


「いいのかアル、危ねえぞ?」


「ワキヤック様、こんな面白そうなことご自身だけで楽しもうなんて許しませんよ!」


「お前も男の子だねぇ〜」


西門を抜けると野営用の道具が詰まった馬車や衣服等の馬車なんかも用意されていた。

と、数人の冒険者と準備バッチリのギルドマスタートサケン、そして棟梁とうりょうと呼ばれているドワーフが居た。


「棟梁も来んの?」


「へっへ、水くせえじゃありやせんかボス(ワキヤックのこと)。こんな面白そうなことあっしもいきやすよ!それとここにある馬車はボスが以前話してくれたサスペンションを仕込んであるんで乗り心地最高だぞ」


「それはセンキュー。んで、トサケンさんまで?ギルドはいいのか?」


「かまいませんね。私はこのために行きてきましたから。準備金を全てワキヤック様のポケットマネーから出していただいて、私も全てをなげうってでもついて来たかったのですよ!おっと、紹介がまだでしたね{剣風}の連中です。若い奴らですが実力も信頼もありますよ。挨拶しなさい」


「どーも、{剣風}リーダーで前衛のブレイドだ」


おっ、さわやかイケメンだ。


「魔導士のラーラよ、よろしくね☆」


可愛い系のねーちゃんって感じ。


「斥候のレイルよ」


きつい感じで胸元パックリでエロいぜ!ムチで叩いてくんねーかなー


「うす、タンクのハサンっす」


うおーい!?無骨で大柄で髪型かぶっていて、俺の憧れる大工出身の武道家に名前が近いいかにもな奴だな


「全員A級冒険者でギルドマスターのお願いじゃなきゃこんな子守はゴメンだったが…まぁよろしく」


リーダーのブレイドから嫌味を言われアルとトサケンが睨みつけるが、なだめつつ握手した。


ワキヤックの手を思いっきり握ってきたので反射を利用して合気落としをしたら、膝をついて驚いていた、ウケる。


さぁ!魔の森へ向けて出発!!

というところでトサケンに質問された。


「気になっていたのですが、そちらの食料の詰まったおもそうな馬車はどうやって引くのです?馬もいないのに?」


「俺が馬だ!」


「「「…は?」」」

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