第9話 魔法とワキヤック

「修行修行修行じゃぁーー」


ルーティーンの朝ランニング、しかしいつもの魔の森へは行かない。

すぐにでも魔法を学ぼうとワキヤックはある意外な人物のところに向かってカマセー領から東へ走る。


と、後ろから早馬に乗ったイケメン少年執事がランニング中のワキヤックに尋ねる。


「ワキヤック様どこに向かうのですか?」


「あん?東だよ!」


「置いてかないでください!貴方様の専属執事でありますから執事長のワリカン様に怒られてしまいます」


「アルだっけか?いちいちついてこなくていいぞ!」


「そんな!面白そうだしー(チラッ)」


「えー、邪魔はすんなよ!」





―――チキン領―――


魔導の名門チキン領。

鳥の畜産が盛んでニワトリやうずらが有名。

人口3000人ほどで治安の良さはホウオウ王国の中でもかなりいい方だ。

それは歴代チキン家領主が厳格な領地政策をし、自らも厳格に律する。

兵士も魔導士が圧倒的に多く、王都魔導学院の卒業生も多い。


今代当主イバリンはため息をついた。

先日アーノルド領主から頂いた〈魔石農業〉の過程と結果のデータが分かり易い事。

この裏には優秀な王都魔導学院の卒業生が居るであろうこと。

それをチキン領に迎えることが出来なかった事に腹だてている。


「し、失礼致しますがんす!」


「どうしたガンス?新しい本か?」


他には見せない柔和な笑み、いつも威嚇的なイバリンから想像できないほど息子には優しい微笑みを見せる。

自分や周りに厳しい分、家族には甘い男。


「えっと、どうやらワキヤックが来たみたいガンス」


「ほぅあの…あの!?なぜだ?連絡も無しに?わざわざ同じ男爵家で仲も悪いこのチキン家にか?」


「ごめんなさいがんす父上、実はぼくちんがワキヤックから手紙がきていいよって返信しちゃったがんす…」


「いいよって何だ?」


「魔法の合同練習がんす…」


「???」




―――30分後。


「たのもー!!」


馬を預けつつ、門番に通してもらってチキン家の屋敷に突撃するワキヤックとアル。

なんとガンスとイバリン、そしてメイドたちが玄関で出迎えてくれた。


「よく来たな。だが次からは事前に連絡をしてくれ」


小言をいうとイバリンはすぐに自室に戻っていく。

後は息子に任すということか?


「よく来たがんす…ん?そこのイケメンは誰がんす?」


「僕はアル。ワキヤック様の専属執事です。お見知りおきを」


「ガンス・チキンがんす。よろしくー。早速魔法練習場に案内するガンス」


立派な堀に囲まれた等間隔で的が置かれている。

そこでは若手魔導士らしき13〜17くらいの者達が魔法をガンガン当てている。

的の中心に魔石がはめられていて、威力に応じて光り方が違っている。


「へ〜冒険者ギルドのテストでも使われてる魔石的ませきてきだろ?」


「そうがんす!よく知ってるがんすね。早速使ってみるがんす?」


「魔法は使えねぇの俺。先に手本がみたいなー(チラッ)」


「任せるがんすワキヤック、ぼくちんが見本を見せるがんす!」


ガンスの存在に気づく新人魔導士達が無言でササッと後方に身を引く。

ガンズが手をかざすと手の周りに空気がうねり湾曲している。


「【ファイアーボール】」


バスケットボールほどの火の玉が的に向かって勢いよく放たれる。

的に着弾して爆発する。


「ど、どうだったがんす?」


「さすが次期当主様です!」

「お見事でごさいます!」

「これでチキン家は安泰です」


「媚びが聞きたいわけじゃ無いがんす!ワキヤックはどうがんす?」


「いや…すげぇよ!魔法…じゃ、次は俺に当ててくれ!」


「「―――!?」」


そう言うと的の前にワキヤック上半身を脱いで仁王立ち。

8歳にして上半身はムキムキで若手魔導士(女)は「おぉ」ともらした。


「いや、危ないがんす!執事さんもそうおもうがんね?」


「そうですね…でもワキヤック様がそういうのであれば思うようにさせて上げてください(適当)」


「えぇ(困惑)、火傷しても恨まないでくれがんす」


「よーし、肌ただれるほど強いファイアーボールを来いやオラ!」


「ひゃ!?【ファイアーボール】」


なんか勢いで放った火の玉はワキヤックに直撃。


「フンッ!」


着弾して燃え上がるが筋肉の隆起によって沈下する。


「「「ふぁッ!?」」」


「ブフwww」


驚く魔導士たちと何かのツボに入った執事のアル。


「大丈夫がんすワキヤック?」


「こうかな?」


「うわっ?」


ワキヤックの手のひらの上にはファイアーボールが発現していた。


「どういう事がんす!?」


「俺は直接体に受けたことは大体分かる」


「はえ〜?人体の神秘がんすね〜」


「ちょっと俺もいくつか試してみていいか?【ファイアーボール】」


まずここで魔法は【ファイアーボール】【ダークアロー】などの言葉で唱えなければ現象が発言することが無い事がわかった。

悪魔と対峙した時は勝手に紫電が出てきたがこの違いはなんだろう?


とりあえず実験的に的に向かってスローカーブを投げる。


ポフン


「そんなヘニャヘニャじゃ実践で使えないがんすよ。でも初めてなら上出来がんす!」


「いや、違うよねワキヤック様?」


目つきを変えて期待を込めて見つめるアル。

かなり感がいいとワキヤックは思った。


「【ファイアーボール】…見とけよ」


ワキヤック 振りかぶって 投げました!

火の玉ストレート(直喩)。


ズドォオオオオン!!


「ぎやあああああ!?何がんす?」


強烈な爆風が周囲に襲いかかる。

皆吹き飛ばされそうになりながらその場に耐えると、練習場は爆心地になっていた。


「何事だ!」


異常事態かと急いで駆けつけたイバリン。

状況を説明しろと目線をワキヤックに移すと、ワキアックとアルが目を合わせ頷いた。


「ワキヤック様、これって…」


「原理はわからないが…物理が適用されている」


ワキヤックの投球は明らかに物理で発生したベクトル、それが魔法の威力に直結していた。


「武術ってのは物理の延長だからな…こりゃあ面白くなってきたぞ」


「何を言っているのだ?」


状況が掴めないのでつい効いてしまったイバリン男爵。


「とりあえず、この練習場の補修代はカマセー持ちで…どっか場所変えますか」


そんなこんなでチキン領外の森へ来ていた。





「オラァ!」


検証のため、まずはワキヤックの腕力のみで大木を殴る。

大木は折れることはなく、ワキヤックの拳が貫通していた。


「「…………」」


「まずは腕力だけっす」


いやいや、どんだけ~といいった感想のチキン家親子とアル。


「次は魔力だけ―――【ファイアーボール】」


火の玉が木に当たると燃え上がり焦げた。


「なんだこの威力は…ワキヤックくんは魔法が使えたのか?」


「父上、がんす」


「ガンスの言う通り―――【ファイアーボール】」


強く握った拳の上に火の玉が発現すると


「コレをぶつけます―――オラァ!」


火の玉を先ほどと同じ勢いで木に殴り当てる。


ドッコォォンン!!


木は粉砕し幹は空中へ舞い上がり彼方へ消えた。

事前のニ回とは比較にならない威力であった。


「……つまり、物理+魔法=威力…ということか?」


「やっぱ魔導の名門は理解が早くて助かるっすイバリン様!」


「――――――!?」


イバリンが頭を抱える。

これは常識を変える世紀の発見ではないか!?


「わ、ワキヤックくん、君はなぜこういった事を知る必要があるのかい?」


「’原理原則理解すれば万事において最短の道をたどる‘。だから魔法を覚えたいじゃなくて魔法を知りたいんだよ(ま、原理原則の話は師範の教訓だけどね)」


パンッと手を一回叩くと両手でワキヤックに握手するイバリン。


「君は追求者だ!ぜひ私から今後も魔導の合同研究を手伝わせてくれ!!ガンスもいいか!?」


「は、はいガンス?」


合同練習がいつの間にか合同研究になっていたがイバリンがいい顔になったので気にしない。


「しかしワキヤック様、僕はあなたのことをただの脳筋だと思ってました」


「お前ズバッと言うなぁ」


「そうだ!魔法陣はどうだ?私は学生の頃魔法陣の研究をしていた!面白いぞ!」


なんか、いきなり饒舌になったイバリンが魔法陣について持ちかける。


「そういやあの悪魔がクソデカ魔法陣を展開してたな…原初魔法だっけ?」


「原初魔法!?ロストマジックか、いいね」


魔法陣を魔力を込めたロッドで書き出す。


「魔法陣とは魔法の増強装置だ。一度展開すれば魔力が尽きるまで―――」


「俺の体に直接描けます?」


魔導文字ルーンになるが?いいとも!」


「ルーンと魔法陣って何が違うがんす?」


「いい質問だガンス。魔法陣は魔力が循環し完結するルーンの事で、ルーンというのは魔力の通り道の事だ。生物のような不規則に変形するものには魔法陣は適応できない」


このノリ感じ、オタクが共通の話題を見つけたときと似てるなぁ…とイバリンを見ながらぼんやり思った。

体に刻まれた魔法陣こと〈ルーン〉を描かれてワキヤックはまたも理解する。


「確かにバイパスだ」


「「「ばいぱす?」」」


「道路だよ。そっか、螺旋の形状ならイケそう…」


「螺旋?やったこと無いぞ!すぐやってみよう!!」


「例えば…円形ルーンと直線ルーンをスイッチすることでなんか兵器的な魔道具が出来そうっすね〜」


「どういう―――そうか!?循環した魔力を放出する道を作るのか!!となると巨大なバチスタのような?はたまたカタパルトか?もしゴーレムに装着できたら浪漫じゃないか!!ハハハ!ルーンに革命が起きるぞ!!」


「父上!?ワキヤックと二人で何を話しているのですか?」


「ククク…今後エルフのみが生み出してきた魔道具が人族にも可能だと解ったって話だよガンス!ねぇワキヤック!!」


「え、そうなの?」


「ワキヤック様ってやっぱ面白いね!」


「あーん?何笑ってんだアル?」


この日を起点としてチキン家は魔道具で革命を起こしていくことになる。

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