第8話 閑話 魔族メイドと金髪少年
ワキヤックが悪魔をボッコボコにされてる一方その頃、ここカマセー領に厄介事が舞い込もうとしていた。
そうとは知らない新米メイド、タイタニアはなんやかんやでこの生活が気に入っていた。
衣食住に困らず、給料も待遇もよく、魔族であっても田舎だからかそれほど差別なく穏やかに生活できた。
領主のバカ息子に全身を(タオルで)
そして…
「ねーね、ねーね、」
「イレギュラちゃ〜ん!!俺に会いに来てくれたの!お姉ちゃんうれちー!」
もうすぐ2歳のイレギュラちゃんにデレデレ。
タイタニア自身もこんなに心を鷲掴みにされるとは思っていなかった。
一緒に庭を散歩するのが日課になっている。
最初は魔族ということで忌み嫌われていたが、半年もデレデレしているともうすっかり微笑ましくなっている。
「今日もご苦労ザマス」
「はい!奥様のご配慮のおかげっす」
「ほら、言葉遣いザマス」
「ご配慮のおかげ…です」
「よろしい、その調子で励むザマス。さぁイレギュラちゃん、ママのもとに来るザマス」
「あー!」
イレギュラは母親の腕の中へ。
「あっ…ギュラちゃん…また明日な…。…はぁ」
「ほら(タイ)タニア、暇なら一緒に買い出しに行こうよ!」
「いいよ先輩!」
ツインテールのメイド先輩、マール。
以前ワキヤックに粗相をして首になりそうだった彼女は、ドジを繰り返しつつもなんとかあれから3年勤めることができている。
今ではタイタニアの教育係だが、既にタイタニアの方が仕事ができるのに先輩風をふかせてはドジをしている。
どこか憎めなくて愛嬌のある彼女をタイタニアは気に入っている。
買い出しの途中。
突如外壁の方で破裂音のような巨大な音が街に響き渡る。
ドゴンッ!!
「なんだ!?近いぞ!」
「ちょっとタニア?待ってー置いてかないでー」
烏合の衆に紛れ様子を伺うと
「おい、人が群がってきたぞどうする?」
「構わねぇ!高い金貰ってんだぶっ殺してやれ!」
と破損した馬車の近くでガラの悪い男たちが何やら言い合っている。
「やだぁ、逃げようよタニア?」
「へっ、ああいう輩が俺は大っ嫌いなんだ!ここで引いたら女がすたるね!」
「あなたまだ十歳でしょう?ちょっと待って―――」
こちらには見向きもしない、好都合だ!
「【ダークアロー】!」
魔族が好む闇魔法の低級魔術。
特殊な重力を帯びた暗黒の矢を相手に打ち込む魔法。
完全な奇襲、一般人や低級の魔物なら当たれば貫通する、
パンッ!
どこからか出てきた黒いローブの男に相殺された。
「な、なんだ!?」
「やれやれ、私の手を
「へい、面目ねぇ魔神の尻尾の旦那―――おいお前ら!あの褐色のガキを見せしめに殺せ!」
「「へいっおやぶん!」」
「ま、まずい」
4人ぐらいが、一斉にタイタニアに襲いかかる。
魔法の反動で動けない―――!?
「先輩!?」
「タニアには手を出させないんだからー」
目をつぶって人参を構えながらタイタニアの前に立つ。
いくらなんでもそれでは的にしかならないが、無常にもガラの悪い男の手斧は2人に向かって振り落とされ―――
「【マインドシェイク】」
若い男の声が響くと男たちが地面に這いつくばる。
この魔法は強制的に酒や乗り物などで’酔う’と同じ現象を起こす魔法。
魔力の弱い人間には平衡感覚を失わせるほど強力に作用する。
「大丈夫!?」
「「ホウジヨ先生!!」」
「なに!魔術師か?だが私に魔法は―――」
「ワリカンさん!」
「心得た!」
ダンディな老執事の姿を敵が目の端に移したその束の間、
ザシュ
既に首元にナイフが刺さっていた。
「ば、馬鹿な…ゲフッ―――ウエストの白蛇?なぜ…ここに…」
どさっ
魔神の尻尾と言われた男は地面に倒れた。
「ウエストのしろへびぃ?じーさん有名なのか」
「昔の事です。それよりこんなところで何をしているのですメイド見習いのタイタニアさん?」
「夕飯の買い出しだよワリカンのじーさん。それよりさぁ―――」
「無事で良かったマールさん…(///)」
「ホウジヨ様が助けに来てくれるなんて…夢みたいで(///)」
「マールさん…」
「ホウジヨ様…」
「今イチャついてる場合じゃねぇだろ!馬車破損してんだからさ!」
「「ひゃい!」」
「まったくわきまえてくれよ…よっこらせ」
破損した馬車のドアを片手で持ち上げる。
「タニア?すごい力持ちだったのね?」
「魔力の使い方次第だよ。俺達魔族は魔力が多いから先輩が庇わなければさっきの男どももなんとでもなったっつーの。……嬉しかったけど(ボソッ)」
ちょっと和やかな雰囲気に鳴ったところで馬車から妙齢の婦人とタイタニアと同じ年くらいの恐ろしく顔立ちが整った金髪の少年が馬車から這い出た。
「この度は助けていただいてなんとお礼を―――!ホウジヨ?あなたホウジヨ・ヤサイスキーでは?」
「ま、マリーン先生!?大魔導士の称号をお持ちの貴方がどうしてこんな田舎へ?」
「それは…詳しいことは言えないけど…お願いホウジヨ!優秀だったあなたにお願いがあるの!どうにかこのカマセー領の領主、ハゲヤック様にお目通りができるような方がいれば紹介してほしいの!」
「えっと、私は現在カマセー領の特別魔導員として働いていますのですぐハゲヤック様にお目通りできますよ?」
「ほ、本当ですか?ああ女神様…」
「失礼マダム、その少年の瞳…赤色でございますね?」
「ッ!?なぜそれを―――あ、あなたはウエストの白蛇?アーノルド様の―――」
「私はハゲヤック様の忠実な執事でございますが?」
「ご。ごめんなさい。気が動転していました…」
「構いませんよ、目が緑色の魔族の女の子がいるような領地です。教会もないような田舎ですがゆっくりできるかと思いますよ」
「教会がないのですか、それは嬉しい誤算…え、それってゲンブ魔王国の…え?」
「マーリン姉さん!こんなところで立ち話も大変だし、どこか休めるところに行こうよ。僕お腹ペコペコだよ」
一緒に居た少年の声にぎこちなく答えるマーリン。
「そ、そそ、そうね…ホウジヨ君、どこか無いかしら?」
「ちょっと、騒がしいところですが…いいですか?」
―――カマセー冒険者ギルド―――
「おー魔族嬢ちゃんじゃねぇか!メイドが板についたなー」
「まだまだおっぱいも板だがなー」
「「ガハハハハハッ!!」」
「ぶっ殺すクソドワーフ共!!」
「タニアはすぐかっかしちゃダメよ」
「それで、マーリン先生。その男の子は一体?」
「えっと、その、この子は…」
「始めまして、僕はアルっていいます。マリーン姉さんは僕の腹違いの姉さんなんです。父上がいい年してメイドに手を出してしまったらしく…アークホワイト伯爵家のこんな醜聞を漏らすわけにもいかず…」
「バッ―――そ、そうなんです〜(チラッ)、もうすぐ12歳の洗礼が近いこともあってこの子を父上は消そうとしまして…(チラッ)、半分は血のつながった弟を見放すわけにもいかず…」
この間に先程の魔神の尻尾とかいう黒ローブの遺体を持ってワリカン筆頭執事はギルドの奥に消えた。
「アルくん、大変だったね。僕にできることだったらできるだけ手伝うからね!」
「う゛う゛〜私も手伝いますぅ〜」
「先輩、感情移入しすぎだろ?そんな話ありきたりだぜ?」
「まぁ、僕や君はね」
「と、とにかくどうにかハゲヤック様に私達の保護を頼みたいの!もちろん、私が出来うるどんな事でもするつもりよ!」
バンッと立ち上がると豊満な胸を揺らすマーリン。
鼻の下をのばすホウジヨにジト目で睨むタイタニアとマール。
「お許しくださいな麗しきレディー(もちゃもちゃ)、男とは(もちゃもちゃ)、そういう生き物(もちゃもちゃ)、なのです(もちゃごくん)」
「食べるか喋るかどっちかにしろよ赤目」
少年はナプキンで優雅に口を拭くと、ツッコミをいれたタイタニアに一礼。
「久しぶりに温かい食事を食べたからつい…いや、それにしてもそれにしてもおいしい(パクッ)、おいしい!おいしいッッ!!」
「でん―――アルったらお行儀が悪い(パクッ)!!??うっっっっっっま!!このもちもちサクサクの薄いパンと、その上に乗った赤いソースと濃厚なチーズが私の口の中で優雅に踊り、天使の余韻を与える…!この食べ物は何かしらホウジヨ!!」
「え、ピザですよ?ワキヤック様が提案された最新メニューです。やっぱり美味しいでしょう!」
「「ピザッ!!」」
マーリンは黙って黙々と食べ始め、アルは
「ああ、女神よ!僕をピザと巡り合わせてくれたことを深く感謝致します!はぁああああとろけるぅ」
先程の切迫した雰囲気はどこへやら、やはりこの世界の食事はゲロマズだったのだろう。
「どうでしょうマーリン嬢、あなたとそちらの少年を我が領地で雇うというのは?」
「へ?またとない話ですが…?領主様の許可はよろしいので?」
「奥様に言えばいいでしょう(適当)。大魔導士ほどのお方とそのご兄弟様に召使いのような扱いはどうかと思いますが…その方が都合がよろしいのでは?」
「姉さん、僕達カマセー様にご奉公させてもらおうよ?」
「そうね、そうしましょう」
こうして謎の少年アルと大魔導士マーリンはカマセー領の一員になる。
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