第4話 農業改革とワキヤック

「オイ!ホウジヨ!これでいいか!」


「どれどれ…素晴らしいです!タイタニアさんはやはり魔力が多いから魔道具の扱いが僕よりうまいですね」


「へっ!それほどでもねぇよ!(照れ)」


魔族の少女タイタニアがホウジヨの助手になって一週間。

メイド服で今日も元気に畑の土に砕いた魔石を撒き散らしている。


「さて、このてん菜という野菜ですが…ワキヤック様の叡智によって―――くきき!取れちゃったんですよォ!アレェッ!!」


「ちょっ!唾とんだ!汚えよ、何が取れたって?」


「ふふふ、それは…糖!砂糖ですよ!!解ります?砂糖がこんなガチ雑草(てん菜)から砂糖が…とれちゃったぁ!!」


仰け反って手を顔に当て独特なポーズを取るホウジヨ。


「へ、へぇ…(この人も大概だな)」


「砂糖はひとつまみで金貨一枚かかるんだ!それがこの雑草―――じゃなくててん菜なら庶民でも簡単に砂糖が手に入ることに!?いえさせます!そして僕は歴史に名を刻むでしょう!あぁ〜ワキヤック様の音ぉ〜」


「はいはい…そういえばその変態クソ野郎ワキヤックはどうしたんだよ?」


「変態なんて…とりあえず、魔族でも問題なく過ごせているのはワキヤック様のおかげですよ?」


「けっ!あの変態は俺の…俺のはだ…はだか…くああああああ!とにかくムカつく!」


「はっはっは、はぁ。そういえばワキヤック様は今日、農地の人員補充のためとかでスラム街に行きましたよ」


「はぁスラム街!?人さらってくるってか?いくらなんでも領主の息子が?」


「どうせ奴隷商人に取られるくらいなら俺がもらうって…言ってました…、まぁ人手が増えるならいいですね(サイコパス)」


「…悪魔だ……」





―――その頃、ワキヤック。


「わきやっく7ちゃいはみんなのえがおとあっとほーむなまいのためにみんな、いうこときいてください」


「へっ、ガキがなんかいってらぁ」

「かーちゃんのオッパイでも吸ってなげへへ」

「やれるもんならやってみやがれ!」


「「やれるもんならやってみやがれ」、はい言質いただきましたー。お前らァッ!!スラム解体!!労働力確保じゃーーー!!」


「「「合点承知の助!!」」」


「ぎゃああああ!領主の息子が暴れてるぞ!」

「カマセーの兵士たちも建物を素手で粉砕して、瓦礫を投げては建物を壊してるぞ!」

「人間じゃねぇ!逃げろ逃げろ!」


「へへーーぶっ壊すぞボケェ!!」

「一人も逃がすな!」

「邪魔するやつはぶち殺せ!」

「ワキヤック様のお通りじゃ!」


ワキヤックのわがままと空手の戦術指南により、鍛え抜かれたカマセー領の兵士。

もはや面構えも言葉遣いも違い、素手で木造住宅も石造住宅も粉砕していく。

すでに空が見える建物内で震えるスラムの住人は、老若男女問わず病人以外は安全地帯にぶん投げて救助。


後方で新兵に住民の避難を指示する筆頭執事ワリカンも、圧倒的な兵士の成長に思わずほくそ笑む。

ちなみに今回のスラム解体は領主のハゲヤックは知らない。


ワキヤックは先頭に立ち、建物を破壊して進んでいくと見た目の違う人がちらほらいる。


「おい小僧!儂らは働かんぞ!」

「労働したら負けじゃ!」

「酒よこせ酒!」


7歳のワキヤックより10センチくらい身長が大きいひげもじゃの浮浪者のおっさんたちがなにか言っていたり、


「我らは誇り高い獣人族!」

「人族になど使われてたまるか!」

「どうしてもと言うなら力ずくで―――ゴボッ!ちょっとまハガッ!まって、待ってボフムッ―――」


うさ耳や猫耳の人たちだったり、


「私達をどうする気?」

「私達が美しいからっていやらしいことする気でしょう?」

「美しいというのはそれだけで罪なのですね」


耳が長い奴がいたりするが、まぁ後で無理やり働かせれば人種族と一緒でしょ。

慈善事業じゃないんでね、畑送りにしてその後は…ホウジヨ先生に任せよう。


カマセー領の兵士たちとワキヤックが暴れていると、大きな建物から灰色のローブ集団がワラワラと生まれたばかりのクモみたいに這いでてきた。

胸元にセンスのないドクロのアクセサリーをしている。

見る限り中2病集団だろう。


「ぺっぺっぺ、何だってんだいきなり―――ヤイそこのガキ!俺達が『魔神の尻尾』だってのは知ってんだろうな」


「お前、知ってる?」


「押忍ワキヤック様!お伽噺で有名な怪しい集団だったかと!」


『魔神の尻尾』とやらを口にした瞬間、真ん中の偉そうなデブも、周りの屈強な連中もニタニタしてる。

なんかイラッときたので、とりあえず近くに転がっている手頃な瓦礫(1.5メートルぐらい)を片手で放り投げ、連中がいる10メートル先に着弾。


「さぁ恐怖しろ―――ってげ!?のわあああああ」

「ぎゃあああああ」

「ママぁあああああ」


なんだかよくわからん連中だが威勢がいいし、立派な労働力になってもらおう。


「ども!ワキヤックです!」


「げほっげほっ!知らねぇのか!?俺達は世界に混沌をもたらす魔神様に選ばれた使徒なのだ…貴様のようなナマイキなガキは贄にしてやる!」


「ほーん、俺さぁ領地の人員補充に忙しいんだけど、聞いた限りお前ら暇だろ?畑仕事してくれね?」


「舐めるなよガキが!」

「殺せ殺せ!」

「生贄しつつ親に金を強請るのもいいぜ〜」


「とりあえず、」


「な、何のつもりだ?」


一番偉そうなおっさんを持ち上げたワキヤックはおもいっきり上空へ投げる。


「たかいたかーい!」


「ああああぁぁぁ…    …ぁぁぁああああ!!??」


ぱしっ


30メートル辺りまで飛んだおじさんは、そのまま落下してワキヤックにキャッチされた。

男は過呼吸に成り、青ざめていく。


「どうするこいつら?」


「「とりあえず殴りやしょう!!」」


輝く笑顔で筋肉をピクつかせる兵士たちに、灰色ローブ達は魔法を唱える。


「【ファイアーアロー】」

「【サンダーボルト】」

「【グレイブランス】」


刹那―――


「「セイシャァッ」」


中段廻し受け、下段払い、内回し蹴りなどで魔法が拡散し消滅する。


即座にラリアットや飛び膝蹴りなどで反撃され、その後もマウントポジションでボッコボコに殴られる。


「教主様…だすけで…」


「ママ…ママ…」


「あわわわわ」


「畑の栄養になるか俺達の手伝いをするか選ばせてあげよう!」




という訳で、スラム街は迅速に制圧され瓦礫の山が残った。

スラムの住人に最近たっぷりと生産した食料で餌付けしつつ、動けるものはそのままスラムの瓦礫の撤去を手伝わせる。


そんなこんなで3日が過ぎ、ようやく領主のハゲヤックの耳に届く。

ハゲヤックはすぐ自室に筆頭執事のワリカンとワキヤックを呼び出した。


「お前たち、なんで呼ばれたか分かるか?」


「申し訳ございません、ご当主様…」


「僕、ワカンナイヨーチチウエー」


「ワァキファアアアアック!!お前っ!お前本当になにか行動するなら、一回でいいからパパに相談して!本当マジで!!あとワリカン!兵士を勝手に使っちゃダメでしょうが!」


「ご当主様、しかしスラム街か解体され農業を軌道に乗せた坊ちゃま…いえ、神童ワキヤック様がもたらした領の利益はどれほどとご考えですか?」


「えっ、…いっぱい(小並感)?」


「農作物がこの調子で一年収穫できれば例年の7倍、今後の拡大分を考えるなら10倍。ワキヤック様が巨大岩石を(ランニングで)引きずったことによる道路の整備のおかげで商人の往来は増加し、今回のスラムの解体によって治安の向上。私めの予測では厳しく見積もって前年比20倍まで利益が上がります」


「―――嘘つけぇ!7歳の子供だぞ?確かに他の子より元気(?)だが、ちゃんとした報告をせよ!」


「領主様自身の目で御覧ください。この老体ワリカン、久しく忘れた情熱に身を焼いているのです!こんなくだらん問答に時間を取らせないでくださいませ!!」


「あ、はい(わし、領主だよな?)」


「ふぅ、さて坊ちゃま、例の件ですが―――」


「ああ砂糖?できたぜ!やっとデザートが食えるよな!」


「さ、砂糖本当に…もうサンプルがある!これ!?(ペロッ)―――甘ーーーーーーいッ!!ワキヤックFOOOOOOO!!」


「ちょワリカン怖い、何砂糖?わしにも舐めさせて―――(ペロッ)…砂糖だよ、砂糖だよ!?金と同じ価値の砂糖よ??どしたの?」


「畑でできました。もうちょっとしたら商人にも行き渡り、利益になりますよ父上」


「ほへぇ…何事?わしもちょっと領地見回ってみます」


早速馬車を手配して元スラム街に馬を走らせる。

馬より横で早く走るワキヤックを横目にしばらくしてスラム街のあった所に着いた。


「なぁワリカン、スラム街をわしは10年前には視察に来たあの掃き溜めの街はどこにいった?」


「ここでございます」


「スラムの住人らしき連中は規律よく働いてるように見えるが?」


瓦礫の撤去はすでに7割が終了、新しき大きな建物も既に骨組みがされていた。


「あの…わしはスラムの解体したのが3日前ってきいたけど?」


「左様です」


「それにしては綺麗というか復興が進み過ぎと言うか…」


「それは、あちらを御覧ください」


ドワーフ。

毛むくじゃらでむさ苦しくチビなおっさん連中。

手先が器用で建築や工作などはお手の物。


やる気がなさすぎSAN値もピンチだったがキンキンに冷やしたエールを飲ませた瞬間に手のひら180°回して積極的に手伝ってくれている。


さらに強靭な肉体と滑らかな瞬発力をもつ獣人達が重い素材や建築材料を超速かつ安全に運んでいる。

知らない内に兵士たちがわからせたらしい。


そして珍しいエルフ族は畑の開墾を手伝わせると、なんか祈るだけで植物が育っているので特別に砂糖をあげたら泣いて喜んでいた。


そんな彼らと、元のスラムの住人が餌付けの効果もあってほとんどが手伝ってくれている。

そのおかげで瓦礫の撤去はすでに完了。

もう食品加工工場や住宅街、大浴場などの建物の骨組みが7割終わっている。

通常ではありえないスピードで復興されている…のだが、


「ちょっと待て!!ヤバいぞ教会!!」


「そうですね…もし見つかったら暗殺者にねらわれたり、民衆を煽動(せんどう)されて領主に反感を抱くでしょう!」


「だったらね?ワリカン分かるでしょう?亜人達の扱い!」


「まぁその時は奴隷といって誤魔化しましょう。私は昔から教会の説く人種絶対主義と何の意味もない無意味なお布施、あの傲慢な態度のどれをとってもバチクソ嫌いなんですよね〜いやはや長生きはするものですククク…」


「わしが密告したら?」


「領主の座を変わっていただきます」


「先代から使えてるからって調子に乗るでないぞ!わしはこの土地の領主!ハゲヤックであるぞ!」


「では明日から私に領地経営をさせずにご自身でやってくださいませ!!先代から受け継いでから一度でも経営に手腕を振るわれたならかんたんなことですよね(暗黒笑み)」


「はい、しゅいましぇん(涙)」

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