私は売春婦なの

 屈強な壁たちに連れてこられた場所はほかの建物と変わらない、この町では平均的な建物だった。不規則な形の下コンクリートにより構成されており、それは空襲かなにかからぎりぎり耐え抜いたと思わしき一軒家だった。


 壁の一人がドアをたたく。二秒もしないうちにドアが開いた。


 中から現れたのは一人の女だった。その女は俺とより少し年上のようだ。たぶん20代にはまだなっていないだろうという感じだ。きっと、高校三年生ぐらい。白い肌に細い鼻に小さい、そして黒い瞳だ。髪は長く、前髪はなく真ん中に分けている。はっきり言って、美人だ。クラスにいたらマドンナになって、男子の間で秘密に行われる下心丸出しの美女グランプリでか輝かしく一位になっているに違いない。どう考えてもそれぐらいの美人なんだ。冗談抜きで。


 俺はこんな状況で別の意味でドキドキした。そして、情けなく下を向くんだ。いつものようにおびえながら。だから、うまいことその女の着ていた服はどんなのかは想像できない。だけど、心のどこかで裸であってほしいという願望があった。結局俺も人並み以上の性欲があるんだな。


 「このものは日本国の生まれです。どこからともなく迷い込んだと証言しております。」壁の一人がそういった。でも、その壁は今回俺が初めて声を聞いた奴だった。でも、口調は変わらない、何回も言ったように機械的な声だ。


 女はしばらく黙っていた。俺は下を向いていたから女がだれを見つめていたかは知らないけど、会話的に俺は見つめられている気がする。この下だけを見つめた大人になりかけの奴の姿を…。すると、女はこう口を開いた。「わかった。ご苦労様。その子は私が預かっておく。」その声はどことなく優しいくしかし、やはり機械的な声だった。つまり感情がこもっていないということだ。


 壁は俺を取り囲むのをやめ、そのまま立ち去って行った。俺は下を向いたままだったが、ちょっと勇気を振り絞って前を向いた。そこに立っていたのは俺よりは少し身長が小さい美人だった。表情は真顔だ。その口に何かを隠しているような。誰にも言いてはいけない秘密を隠し持ち、それを尋ねられても決して話すまいとするように口をつぐんでいる。


 俺はその顔を長く見続けていることに気づいた。あまりにもきれいだったからまるで彫刻を見るよな目で見てしまったかもしれない。俺は即座に下を向いたそして小さな声で、「すいません…。そんなふうには見ていないんです…」といった。


 「かまわないよ。」女はそう言った。その声には機械的な部分が消え、やさしい声となった。「私って可愛い?」


 「も、もちろんです…めちゃくちゃかわいいです…」俺はそう言った。とにかく女子と話すと思うように声が出ないんだな。


 「そう、とってもうれしい」女はそう言って、こう続けた。「そんなところでしたばかり向いてないで、家の中に入って」そう言って俺の手を握ってきた。


 俺はどぎまぎした。こんなことあっていいのだろうか?ここは夢の世界なのか?だって、俺は女子に手を握られたことなんか小学校低学年以来のことだった。俺はつられるがまま家の中にはいった。


 家の中を見た俺はまた驚かされた。だって、そこはあんなおんぼろな外壁では想像ができないくらいきれいだったからだ。見た目に判断される名のいい題材になってもいいぐらいだ。壁には風景画が飾られ、木の机には四脚の椅子がある。その先にはソファーがあって、そのさらに先には台心が設置されている。テレビはないがラジオが設置されている。本棚もあり、そこかしこに本が詰まっていて、もう入る場所がない。でも、俺の知っているような本はなかった。だけど、きっと読書好きなんだろう。


 「きれいでしょ。見た目はああだけど中身はこの町では一位二位を争うぐらいの高級物件なのよ。」彼女はそう説明した。


 俺はその説明を聞きながら女の顔を見た。ようやく目がなられてきたかのようだ。きっと、死にかけたのだから女子の顔を見るぐらいはゆうだろうと体が判断したのかもしれない。そして、こう尋ねた。「あの…この町はどういう場所なんですか?いまだにこの町についてよくわからないんです。俺は…別の町から来ました。商店街の先の町です。」


 その言葉に女は黙って俺を見つめた。しかし、すぐに微笑んでこう言った。「ここは忘れられた国。本当は存在してはいけないの。私たち国民もそう。私たちは存在しないはずだった」彼女はそう言って、こう付け足した。「知っているかどうかはわからないけど、ここは沿ドニエスプル共和国のような国なのよ。」


 歴史オタクの俺にはわかる。沿ドニエスプル共和国は確かモルドバに建国されている未承認国家だったはず。スターリンの政策により大量のロシア人が移住してきた。ソ連崩壊後に自らのアイデンティティーが失われると恐れたロシア人たちはそこを独立国だとして宣言したのだ。そして、それはロシアを含め承認されていない。それでも、沿ドニエスプル共和国は今でも軍事的に独立をしようと企んでいる。認めてもらおうと…。


 「私はあの国のこと好きだな。置かれている状況が似ているし、何よりも認められない苦しみをお互いに知ったら両国の国民は刃具しあうと思うな。きっと大親友になれるはず」女はそう言った。そして、こういった。「そういえば、名前まだ伝えていなかったね。私の名前は山内さなって名前。この日本社会主義共和国の国民」


 俺はこの佐那という名前は何とか頭に入れたが、そのあとの言葉に頭の整理が追い付かなかった。漫画だったら頭の中に?マークがついているはず。日本…社会主義共和国?


 彼女はそんな俺を無視するようにさらに説明を続けた。「ここは生き物のような国なの。今日はここに現れたけど、今度は別の場所に行く。丁度、昨日までは名古屋にいたの。でも、指導者は移動を決めて、ここになった。きっと、当分は動かない」


 「よくわかりません。生き物?一体全体どういうここなんですか?俺は帰れるんですか?」俺は混乱した頭で何とか口から声を出した。だから、聞きたいことをかたっぱしに言った。「あなたは誰なんですか?」


 「私は山内さな。18歳。あなたと年齢が近いかもしれない。そして…」彼女は少し間をおいてこういった。まるで、禁断の名を吐き出すかのように。「私は売春婦なの。男の欲望を満たすのが私の職業」


 その言葉はすんなり吞み込めた。吞み込めたというよりはここまで起こりすぎたことが強烈すぎて流してしまうのかもしれない。


 さなはそんな呆然と立っている俺を見つめ、静かにほほ笑んだ。彼女は俺の手首をつかんだ。その手は暖かい。それは男の理性を失わせる何かがある。それを何と呼ぶかはわからないけど、彼女にはそれがある。本当の話。


 俺は言われるがままにソファに連れていかれた。さなは俺をソファーにあ仰向けにして、ズボンを脱がす。そして、男性器をやさしくなでた。俺は言われるがままだった。この行動に自分の意思はない。さなは何かをささやいたようだけど俺は聞き取れなかった。


 そして、彼女も服を脱ぎだした。今気づいたけど、彼女はオーバーサイズのTシャツと短いズボンをはいていた。でも、下着は来ていない。脱いだらそのまま裸だった。


 彼女の裸はまるで大人のようだ。エロ本に出てきた人ほどではないけど、それでも誘惑するのには十分だ。まさかここで童貞を奪われるなんて。人生はわからないな。これが壁たちが言っていた洗礼なのか?


 彼女は自身の裸を見ていたれのところを振り返って微笑んだ。その微笑みには感情が読み取れない。まるで、あなたはここで死ぬのよと言っているかのようだし、いっぱい楽しませてねと言っているかのようだ。もしくはそのどちらともか。


 彼女は俺に腕を回してキスをして、俺の体に乗った。


 その日は俺の初体験の日となった。

 

 


 

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Ungeheuerer Ungeziefer ポンコツ二世 @Salinger0910

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