アンナはほうきを持ったまま、祥子に近づいて来た。




「今日は一人なんです」




「そうなの?明日は啓一君のオーディションだよね?彼は大丈夫そうなのかい?」




祥子はあえて返事をしなかった。


なんて言って良いか分からなかったからだ。




それを察したのか、アンナはそれ以上は聞かなかった。




「祥子ちゃん、せっかく来たんだしコーヒーでも飲んでいって」




「良いんですか?」




アンナはにっこりと笑った。


祥子はアンナと一緒にライブハウスの中に入っていった。




ライブハウスのドリンクコーナーは、簡単なバーカウンターのようになっている。


アンナはそこに立つと、スナックのママのように見える。




「ちょっと待っててね。すぐいれるから」




「すいません」




アンナはドリップコーヒーの準備をはじめた。


祥子が座っている席にも、コーヒーの良い香りが漂う。




「祥子ちゃん、何か悩んでるような顔に見えるのは私の考えすぎかね?」

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