13

そんな葛藤が、何度も何度も頭の中を回る。


しかし、あれだけプロになるといきまいていた手前、みんなの前で何もせずにやめる事は出来なかった。




隣でずっと応援してくれる祥子にも、そんな弱い自分を見せる事は出来なかった。


自分の事をただ信じ、純粋な目で応援してくれる祥子を、最近はまっすぐ見る事が出来なかった。




「ありがとうございました」




啓一は、アンナと蓮に挨拶をし、スタジオを後にした。




「啓一、がんばろうね」




帰り際、祥子は必死に啓一を励ます。


そんな事しか出来ない自分に、少し引け目を感じながらも、それが自分の役目だと言い聞かせていた。




「分かってるよ」




そんな祥子に、啓一は少し冷たく返す。


練習もあまり上手くいかず、本番はどんどん迫ってくる。




帰り道、それ以上会話は弾まなかった。


二人は啓一の家へ続く道まで来た。




そこには小さな街灯がポツリとついている。


ここは、いつも二人が分かれる場所。




ここまで祥子が見送って、啓一は家に帰る。


それが二人のお決まりパターンだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る