ずっと支えてきた祥子も、そんな啓一の状況は知っている。


だからこそ、この夏休みは祥子にとっても夢の挑戦だ。




「予約した時間に間に合わないよ?」




まだ寝ぼけている啓一を、祥子は必死にせかす。


啓一の寝坊はいつもの事だが、こんな肝心な時まで寝坊する啓一に、祥子は少し呆れていた。




「すぐ準備できるから、ちょっと待ってよ」




自分の事なのに、どこかしぶしぶ啓一は着替える。


簡単に準備をすませ、時間になんとか間に合うように家を出た。




そして、さっき謎の少女と出会った道で、祥子は啓一に尋ねてみた。




「啓一、さっきここで見かけない女の子を見たんだけど、そんな知り合いいる?」




「誰だそれ?俺は寝てたし、女の子なんて家には来ないぞ」




啓一はまったく知らない様子だった。


あの女の子は、いったい誰だったのか、祥子は気になりながらも、啓一の練習に集中する事にした。




「まぁ良いか、ほら早く、アンナさん待ってるよ。ダッシュダッシュ」




祥子は気を取り直して、啓一の背中を押した。




「そんな押すなって、まだ間に合うから」




二人が向かっているのは、街に唯一あるライブハウス。


普段は練習スタジオとして使われている。

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