「祥子、頼むからもっと優しく起こしてくれよ」




啓一は、祥子の足が当たったわき腹を押さえながら、仁王立ちする祥子を見上げた。




「一度で起きれるでしょ?ある意味優しさよ」




祥子はにっこりと笑っていた。


啓一も、困った顔をしながらも、しぶしぶ準備を始めた。




「早くスタジオに行かないと、今日が練習最後でしょ?」




「あぁ」




啓一は気の無い返事で応えた。


啓一は高校最後の夏休みに、ある挑戦をしている。




啓一は中学にあがった頃から、音楽を始めた。


最初は趣味であったが、高校に入った頃からプロになりたいと言う夢を持つようになった。




しかし、現実はそんなに甘くなく、高校3年生に訪れる現実。




就職か?


進学か?




啓一には、そこにプロを目指すという選択肢を選ぶ事は出来なかった。


しかし音楽ばかりをやっていて、勉強はろくにしてこなかった。




先生や親との相談で、啓一は就職と言う道を選ぶ事になる。


そして、最後のチャンスとして挑戦するのが今回のオーディションだ。

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