第20話 試験に向けて。特訓っ!!

 今日は――来るべきランクアップ試験に向けて特訓をしようということで配信の枠を取った。

 元々、試験の前までにもう少し調整と仕上げをしておこうとは考えていた。

 そしてこの間、同じ試験を受けるらしい楠木さんの戦っている姿を見てその熱量が大きくなり、こうして特訓配信をすることに決めたのである。


「――という訳で今日は地味な感じの配信になると思いますけど、よろしくお願いします~!」


:全然おっけ~

:ダンジョン配信者にはよくあるしな

:ランクアップ試験って近いんだ

:頑張ってくださいっ!

:特訓配信りょうかい


「それじゃあ早速行ってみましょう~!」

 

 そんな感じで今日は特訓をメインとした配信だっ。


 どんなことをするのかと言えば、やりたい事は主に二つ。

 一つは配信が無い日にもよくやっているように、モンスターを倒してシーカーとしての基礎力を上げること。

 そしてもう一つは、今自分に出来ることをしっかりと確認しておくことだ。

 時期で言えばトレントと戦った時ぐらいから少しずつ出来ることが増え始めてきた。飛ぶ斬撃もそうだし攻撃の反射や割と頻繁に使う結界もそう。それを試験の前に改めてしっかりと確認しておこうという訳だ。

 それに、ラージスライムとの戦いで使えたも出来るかどうか確かめておきたい……


「――そんな感じで今日はどこのダンジョンで配信しようかなって色々調べてみたんです。取り合えずモンスターの数が多い方がいいのかなとか考えたりして。で、結局ここのダンジョンにしました」


:ほうほう

:で、どんなダンジョンなの?

:なんかどんよりしてる?

:洞窟っぽいね

:モンスターが多いダンジョンってこと?

:にしては中々遭遇しないな


「まずは――あ、モンスター発見! 最初の相手はあいつですね!」


 出てきたのは――泥の塊。それも人の形をした泥の塊だった。


「マッドマン、泥人形のモンスターです。ちなみにあれは目的のモンスターではないので、普通に倒していきますね~」


 目があるのか分からないけど、私の存在に気付いたマッドマンは歩くというより泥の身体を滑らせるように私に迫って来た。

 それを見て聖剣を抜き素早く身体強化を発動して戦闘態勢を整える。あまり動きの早いモンスターじゃないから準備の時間は十分にあった。


「――――!」


「せいっ!!」


 私を殴りつけようとする腕を、聖剣の反射を使って防ぐ。

 するとマッドマンの腕が弾かれ、その勢いに押されて身体も大きく仰け反る。そのままがら空きになった胴体に聖剣を横薙ぎに切り払うと、身体が上下真っ二つに分かれて上半身が地面に崩れ落ちた。


 だけどマッドマンというモンスターはそれじゃ終わらない。

 まっ平になった下半身側の切断面から生えるように上半身が再生し、地面に広がった泥が別の場所に集まってもう一体のマッドマンを作り出す。ただしその二体はさっきに比べるとどちらも一回り小さくなっていた。


:おお、再生するのか

:再生ってか分裂?

:いやマッドマンのこれは分裂というか分割だな。核は一つなんだが、自分の身体を複数に分けて動かせるんだ。まあその分、身体も小さくなるからさほど脅威ではないんだが

:ちょっと面倒な感じのモンスターって感じか

:花子どうするの?


「事前に調べていたのでこれは想定内です。倒し方としてはスライムと同じなんですけど、身体が泥なので見つけにくくなってます~」


 二体に増えたマッドマンがまとめて襲い掛かって来る。

 複数体との戦いはゴブリン相手に慣れているのでさほど大変じゃない。

 まずは片方のマッドマンを結界で覆って隔離する。 そうして身動きが取れなくなっている間にもう一体を切り刻む――が核が見つからなかったので、今度はこっちを結界で隔離して結界から出したほうに同じことをする。

 するとやっと核を発見することができたので、そのまま破壊してマッドマンを撃破した。


「ふぅ~……これぐらいならまだまだ余裕をもって倒せますねぇ。じゃあこのまま目的のモンスターを探しながら、出てくるモンスターを倒しつつ進んで行きたいと思います~」


:りょうか~い

:戦い方上手くなってるなぁ

:なんか狙ってる感じか

:どんなモンスターだろう?


 道中に現れる主にマッドマンを反射、結界、飛ぶ斬撃など色々な使い方を試しつつ撃破しながら探索を進めていく。

 特に頻繁に使っている結界や飛ぶ斬撃はともかく、反射の方はまだまだ使い慣れてないのでなるべく使うように意識して戦ってみた。すると次第に使い方に慣れてきて一つの戦闘の中でも複数回使えるようになってきた。


「――で、色々考えてみたんですけど、モンスターが多いことよりも自分の技を試せるようなモンスターがいる方がいいかなって思ってこのダンジョンを選んだんですよね~。多分、そろそろ見つかってもいいと思うんですけど……――」


:つっても不相応なモンスターと戦っても無駄に危険なだけだしな~

:結局は再生力が高いか普通に強いモンスターになるよな

:未だに分からん。何のモンスターを探してるんだ?

:まあ花子だと初心者ダンジョンのモンスターぐらいなら余裕そうだもんな

:てことは強力なモンスターを探してるのか?

:う~ん、花子が自主的にそれをするとは思えんのだが……


 視聴者の皆もまだ私が探しているモンスターに見当がついていない様子。

 まあ、あんまり人気のあるモンスターじゃないもんねぇ~。同じシーカーからも人気が無いのに、ましてやそうじゃない人だと猶更だろう。

 というかそろそろ見つかってもいいと思うんだけど~……あっ。


「いた、いました! あいつですっ!」


 私が指差す先にあるのは、大きな岩。


:ん?

:岩?

:岩だな

:モンスターじゃないの?

:もしかして

:ああ、そういう……

:え、どゆこと?


「あいつが今回お目当てのモンスターの……人面岩じんめんいわですっ!」


 遠回りに岩の反対側に回り込んでみると、そこには人の顔のような模様が浮かんでいた。その模様は妙にほりの深い渋い顔をしていて、今はまだ目を閉じて眠っているような表情をしている。


:ひぇっ

:キモい……

:人面岩かぁ

:まだマイナーなモンスターを選んだな~

:うわっ、こいつキライッ!キライッッ!!

:人面岩拒否勢がいるんだがww

:まあひたすらに硬いから気持ちは分かる


「その通りっ。あの人面岩は見た目通り岩の身体――顔?を持ったモンスターで、しかもめちゃくちゃ硬いんです。だから何と言いますか……サンドバッグにちょうどいいと思いまして?」


:モンスターをサンドバッグ扱いで草

:言いよるわww

:確かに特訓にはちょうどいいかもなww

:マジで動かないからな

:え、そうなの?

:人面岩は自分では動けない珍しいモンスターなんだよ

:硬い、動かない、害が無いの三拍子そろったモンスター、それが人面岩

:存在意義ぇ……


「今日はこの人面岩を相手に色々試していきたいと思います~」


 この人面岩というモンスターは、本当に硬いモンスターなのだ。それこそ硬さだけでいえばこれまでに戦ったオークやトレント、ゴブリンキングよりもずっと上なのである。

 しかしそんな人面岩の唯一の欠点がこの機動力の無さなのだ。

 丸っこい形だから転がることぐらい出来るかと思えばそれすら出来ない。


 つまりモンスターとは言いつつも、ほぼほぼただ硬いだけの岩でしかないモンスターなのである。


 このモンスターについての説明を読んだときに、私の頭にぴんっと閃くものがあった。


 こいつって技を試す相手としては最適なんじゃないか?、と……

 

 という訳でこのある意味安全なモンスターを相手に、自分の持っている技とかを試していこうというのが今日のメインの企みだった。


 人面岩はまだ目を瞑ったままで、私の存在に気付いているんだかいないんだかよく分からない。でも気にしてもしょうがないので、早速だけど始めることにする。


「まずは……とりゃっ!!」


 最初は聖剣の身体強化を発動せずに素のままの状態で一撃入れてみる。


「あっ――いった~~~~!?」


:言わんこっちゃない

:音ヤバかったぞww

:聞いたところではCランクのシーカーならこれを倒せるとか……

:ほんとかよっ!? コイツ滅茶苦茶硬かったぞ!?

:挑戦した奴がここにもいたのかww


 想像よりも何倍も凄い反動が返ってきてちょっとだけ涙目になる。

 前に隠し通路を塞いでいたダンジョンの壁を壊したときよりも痛いかもしれない……


 正直、聖剣ならとか思ってた部分はあったけど――これは評判以上な気がしてきた。


「な、なるほど。これはシーカーが寄り付かない訳ですねぇ~。というかどんな威力の攻撃ならこのモンスター倒せるんですか?……・まあでも、これぐらいの方が歯応えがあるってもんですっ!」


 今度はいつも通り聖剣による身体強化を発動する。それでさっきよりも気持ち控え目の力加減で斬りつけると……ほんのちょっとだけ傷がついた。

 全力じゃ無かったとはいえ、身体強化を発動してもかすり傷にもならないような程度なんてちょっと凹む。


「まだまだぁ!!」


 私は更に力を引き出すために聖剣に意識を集中させる。

 普段からよく使っているこの強化だけど、私はまだこの強化の限界を試したことが無かった。だからこの際にしっかりと確認しておきたいっ。


 既に強化されている状態から「もっと~、もっとだ~~!」 と念じると、聖剣から漏れ出す黄金の光が更に強くなっていく。

 そしてそれがある一定のラインを超えたとき、さっきまではあったはずの手応えが途端に無くなってしまった。


 もしかして、ここが限界だってことかな……?


 取り合えず今の段階でどれぐらいの威力が出るのか確かめてみよう。


 そう思ってさっきと同じぐらいの感覚で人面岩に聖剣を叩きつけると、すぐに返って来る反動が小さいことに気付いた。それでもさっきよりも少しだけ深くなった傷が人面岩に刻まれる。

 だから今度は手加減せずに全力で斬りつけてみる。


「っ……!!」


 そうして人面岩についた傷は、これまでで一番深く大きかった。

 最初の強化無しでつけたのと比べると、倍以上の差があるように見える。でも元々が僅かな傷だったから、今のやつも人面岩の大きさからすればかすり傷ぐらいにしかなっていない。


 聖剣の全力強化を踏まえても今のままならこれが限界っぽい……でもっ!!


 その状態を維持しつつ、今度は別の方向に意識を割く。


 思い出すのはラージスライムと戦った時の感覚――


 人面岩ほどじゃないけど、ラージスライムにも物理攻撃が効きにくかった。

 だから私は秋冬さん達の会話をヒントにどうにか出来ないか考えて、あのとき土壇場でそれを実行した。


 ラージスライムには物理攻撃は効きにくいけど、魔法による攻撃は逆に通りやすい。そして秋さんは私に魔法による強化?付与?を施すことでその部分を解決しようとしていた。


 でも、それって自分じゃ出来ないのかな?

 確かに私はスキルを習得できないから、魔法は使ってみたいと思いつつ使うことは出来なかった。でも魔力を扱うぐらいなら。魔力を聖剣に纏わせるぐらいなら出来るんじゃないか……


 それを試してみた結果が――


「……」


 自分の中にあるソレを外に引き出して、剣に身体に纏わせるように意識する。それこそ黄金の光と同じように。

 すると聖剣に黄金に混じって青白い光が混じるようになる。

 これが本当に魔力かどうかあの時は分からなかったけど、後で秋冬さんに聞いてみたらほぼ間違いないと言われたからきっと魔力なんだと思うことにする。


 それらは徐々に混ざりあっていき、黄金と白という二色から白金色という一色に収束していく。


「……おりゃ!!」


 そして再び人面岩に一撃を叩きこむ。


 それは人面岩の身体に剣身が全て隠れるぐらいまで深く食い込む。それと同時にさっきまで微動だにすることが無かった人面岩が、攻撃した衝撃でグラグラと大きく揺れた。


 これでもまだ倒すには至らない……


 次が私が考え得る最後の工夫だっ!


 今の状態のままもう一度攻撃する。ただしさっきと違うのは斬るその瞬間に聖剣の反射の能力を使うこと。自分が振り下ろす威力と、反動として返って来るはずだった威力の足し算。 

 単純に二倍とはいかないかもしれないけど、そのまま攻撃するよりもきっともっとずっと大きい一撃になるはずっ!!


「もう――いっ、かいぃ!!!」


 衝突の瞬間、ただの人間ならてこをつかっても動かせ無さそうな巨大な岩は反対側の壁まで吹き飛んで行った。そしてもの凄い轟音をあげながら壁に衝突に地面に落下する。


「おぉ~……」


:なんだ今のっ!?!?

:人面岩が吹き飛んだぞ!!?

:はーなーこ! はーなーこ!!

:いや、あの巨岩を吹き飛ばすってなんなん……?

:花子マジやべぇぇぇ!!!!

:人面岩サンドバックしゅ~りょう~!

:耳が逝くかと思ったわww

:とんでもなくて草


 吹き飛んで行った人面岩の元に駆け寄っていくと、眠っているようだった顔が白目を剥いたような壮絶な感じの表情に変化していた。

 そして無敵とも思えた身体には、全体に罅が走りあちこちから岩の欠片がぽろぽろと崩れ始めている。


「じゃあ止めいきますね~」


 何か苦しそうな表情だったので止めをさすべくさっきと同じ要領で、今度は飛ぶ斬撃を人面岩に向かって放つ。

 すると既に限界を迎えていたのか、今回は反射を使っていないのにも関わらずその一撃で人面岩は弾け飛んでしまった。


:容赦なくて草

:ほんとに人面岩倒した~~

:マジで容赦ないww

:なかなか壮絶な顔してたぞ

:スゲェぇぇぇぇぇぇぇ!!!


「皆さんありがとうございます! 何とか人面岩を倒すことが出来ました~!」


:おつおつ~

:変化の過程とか面白かった!!

:最高火力凄かったな

:これランクアップ試験とか余裕ちゃうの?

:少なくとも火力は十分だろwww

:これは勝ったなww

:見応えあった~~


「じゃあ今の状態に慣れるのと、感覚を忘れないうちに次に行ってみましょう~!」


 後ろを振り向くと、そこにはさっき壊したのと似たような形の巨岩がゴロゴロ転がっている。


 そう……その全てが人面岩である。


:ま、まさか……

:やるのかっ!?

:おいおい

:これはまさかっ

:花子ぉ!?


「取り合えずここにいる人面岩、全部倒していきたいと思いますっ!! じゃあ早速、次の人面岩へごー!!」


 そうして私は宣言通り、その場にいた全ての人面岩を倒し、他にも別のモンスターも倒したりしながら特訓配信を終えた。

 人面岩を倒せるかどうかは正直分からなかったけど、満足のいく結果になった。

 あとはしっかりと試験の対策をして――本番に臨もうっ!!


 頑張るぞ~~~!!!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

大変お待たせして申し訳ございません……

ちょっとこの先の展開に迷ってたら時間がかかってしまいました。

一応予定としては、次回からランクアップ試験に突入しようと思いますが、もしかすると別の話を一つ挟むかも……?

という感じで次回の更新をお楽しみにっ!!


また読んでみて面白かった、続きが読みたいと思って下さったら★評価やいいね、感想などを送ってくださると嬉しいです!執筆の励みになります!

(★が100を突破しました!! 皆さんありがとう~~!!)


 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る