第19話 もしかしてライバル?
楠木さんも換装システムがついた端末持ちだったので、その場でシーカーの装備に着替えていざダンジョンに突入した。
中に入ると、そこに広がっていたのは一面の草原。上から照らす太陽はぽかぽかと温かく、吹き抜ける風は涼し気で心地いい……
「「ふあ~……」」
あまりにもリラックスできる条件が揃っていたので、思わず二人揃ってあくびが漏れてしまった。
「凄いですねぇ。ダンジョンにもこんな場所があるんだ~」
「ここまで好条件が揃うのは珍しいと思うけど、お弁当でも広げてピクニックしたくなる気候だねぇ~……とっ、いけないいけない! ここはダンジョンなんだから気を引き締めないとっ!!」
「はっ!? そうでした!!あまりにも心地よかったので思わず気が抜けてしまいましたっ!」
「もしかしてこれも入って来たシーカーを油断させる為のダンジョンが仕掛けた罠っ!?」
「油断できませんね……」
一瞬ここがダンジョンであることを忘れそうになったけど、すぐに正気を取り戻して改めて気を引き締め直すっ。
そしてすぐに、今立っている場所から100mぐらい先にモンスターらしき影があることに気付いた。
「宮内さん、あれって――」
「モンスター、だと思います。行ってみましょうっ」
「はいっ!」
モンスターらしき存在に接近しつつ他にも隠れ潜んでいないか警戒する。
といってもかなり見晴らしのいいダンジョンだから早々隠れる様な場所もないとは思うんだけど。
それにしても――と、隣を歩く楠木さんの装備に視線を向ける。
どうやら楠木さんも近接戦をするタイプのシーカーなようでその腰に武器を携えていた。
私と違うのはそれが西洋風の剣じゃなくて和風の刀だというところ。
気になってしまったので聞いてみる。
「あの、楠木さんは刀で戦うんですか?」
「あぁ、そうなんです。色々試してみたんですけど、結局使い慣れたこれが一番だったので。それに複数の武器を扱えるほど器用でもなくて……」
「使い慣れる?――そうなんですか~。てことはお互い近接で戦うんですよね。戦い方とかどうします? 敵が複数いたらそれぞれでいいけど、単体の場合は協力するか交互に戦う感じにしましょうか?」
「あ、それもそうですね! じゃあ自分の手に余りそうなら協力して、いけそうならそのまま一人でって感じにしましょう。それで、あの、私から戦わせてもらってもいいですか? 宮内さんみたいに慣れてる人が後ろにいるって思うと、安心して戦えると思うのでっ」
「も、もちろんです~! それじゃあまずは楠木さんからってことで――」
うんうん、秋冬さんと一緒にダンジョンを探索した経験が生きてるぞ~!
戦い慣れたパーティーならともかく、その場で組んだ即席パーティーはそこら辺をちゃんと決めないといけないんだよねっ!
楠木さん、そこら辺慣れてないみたいだし私がしっかりしなくちゃ。もしかして私よりも日が浅かったりするんだろうか?
そんな疑問を聞く前に、さっきみた影の正体が分かる距離まで近づいた。
「あれは、牛?……ですかね?」
「牛、に見えますね。戦ったこと無いタイプのモンスターだ……」
モンスターらしき影の正体は褐色の毛を生やした牛に酷似したモンスターだった。
ただ角がすごく発達していて、どうやって支えてるんだろうってぐらい大きい。あんなので突かれたら例え盾で防いだとしても貫通しちゃいそう……
「いけそうですか、楠木さん?」
「……大丈夫です。宮内さんはちょっと待っててください」
そう言って一歩前に出た楠木さんは腰の刀をするりと抜刀する。その動作はとても滑らかでさっきまでのどこか緊張していた様子が嘘のようだった。
それと同時に牛のモンスターもようやくこっちの存在に気付いたようだった。
下草をもしゃもしゃしていた顔がその大きな角ごと楠木さんの方に向けられる。それだけでもかなりの迫力だ。
楠木さんを見つけるやいなや、さっきまでの落ち着いた様子はどこへやら目が血走り後ろ足で地面を削るように蹴っている。
「ふぅ……」
「……」
それを見ても落ち着いた様子で集中する楠木さんに声をかけることは出来なかった。
両者動かずの状態で数秒経って――先に動いたのは牛のモンスターの方だった。
「ブモォォォォォォオオオオ!!!!」
雄叫びを上げながらもの凄い勢いで突撃してくる牛のモンスター。
そこそこ距離を取っていたはずなのにそれが瞬く間に縮まっていく。
一方の楠木さんは――刀を構えるだけで動く気配が無い。
相手が来るのを待ち構えているだけなのか、それともモンスターの迫力に圧されて動けないのか判断がつかないっ!?
考える間も無くどんどん近づいて来るモンスターと楠木さんの距離が縮まっていき、接触するかしないかのタイミングで遅いかもしれないけど割って入ろうと思った次の瞬間だった――
「――<加速>」
「ブモォォォォ――――……ッッ」
私が動こうとしたまさにそのタイミングで楠木さんの腕がまるでビデオの早送りのようにシュババっと動いた。
何が起きたのか分からなかったけど、楠木さんの脇を通り過ぎる形になった牛のモンスターはそのままの勢いで地面を滑るように崩れ落ちた。そうして止まった先で静かに首と胴体がお別れしているのが目に入った……
「ひぃっ……」
「ふぅ~、闘牛みたいで怖かったです。あ、終わりましたよ宮内さんっ!」
「は、はい! お疲れ様でしたっ!!」
「? どうかしましたか?」
「い、いえいえ! ただ凄いな~と思っただけですっ。楠木さんって強いんですねぇー……」
「そんなことありませんよっ。今のはモンスターが単純で直線的な動きだから上手くいきましたけど、他のモンスター相手だったらそう簡単にいきませんし! それに今のは後ろに宮内さんがいて警戒しなくてよかったからで――」
しょ、初心者かな~?とか軽く考えてたけど、とんでもないっ!!
いや、シーカーとしてはもしかすると初心者なのかもしれないけど、実力は私なんかよりも全然上なんじゃないかっ!? なんかちょっとでも先輩面しようとした自分が恥ずかしくなってくるぅ~……
「――あの~、宮内さん? どうかしましたか?」
「えっ!? あ、いや何でもないです! それより先に進みましょうかっ!」
「? はい!」
というか、もしかしなくても次って私が戦う番だよね……?
あれの後に戦うなんてハードル高くない? 私、普通の戦い方しか出来ないんだけどっ!?
で、でもあの牛ぐらいのモンスターだったら私一人でも何とかなるしその点は大丈夫っ。
あれ? そういえば何で私、楠木さんにこんな見栄張ろうとしてるんだろう?
やっぱりシーカーとして頼られたのか自分でも思っている以上に嬉しかったのかもしれない。
「あそこっ。またモンスターがいます! 多分さっきの牛のモンスターと同じ、かな?」
「ですね~。じゃあ……今度は私が行きますね」
少し離れたところにモンスターの姿を見つけたので、今度は私が先頭に立って歩く。正直、さっきの楠木さんみたいな戦い方は出来ないけど私は私に出来るやり方でモンスターと戦う。それしか出来ないんだか無理して特別なことをする必要はない。
さっきと同じぐらいまでモンスターとの距離を縮めて背中から聖剣を抜く。
そしていつも通り身体を黄金の光で包んで身体強化を施す――これの唯一の欠点に今気付いた。とても目立つことだ。お陰でモンスターの視線がすぐに私の姿を捉えた。
「ブモォォォォォォォオオ!!!!」
猪突猛進の言葉通りに突っ込んでくる牛のモンスターを前に、私はまずしっかりその動きを見極める。さっきの楠木さんとの戦闘を見る限り、アイツは突っ込んでいる最中に方向転換出来るほど器用なやつじゃないと思った。
だから――真正面に陣取っていれば、何もしなくても向こうから剣に辺りに来てくれるっ。
タイミングを見計らって、角が直撃するより少し早く聖剣を振ろ下ろす。
「そりゃあ!!!」
「ブモォォオ!?」
聖剣の刃とモンスターの角が拮抗したのも一瞬。その均衡は聖剣の勝ちという形ですぐに崩れる。一瞬の抵抗感の後、折れてふっ飛んでいく角を尻目に牛のモンスターを一刀両断する。
楠木さんのに比べたら華麗さとか何にもない強引な力押しだけど、これが今の私に出来る倒し方だ……でもちょっと剣術とかも学ぶべきなのかもしれないなぁ。
「……す、凄いですっ! あのモンスターと正面から打ち合って真っ二つなんて私には出来ませんっ!」
「い、いや~楠木さんの倒し方の方がカッコよかったですよ~。私のなんか力に任せたゴリ押しですしぃ」
「そんなことないですよっ! むしろ私は力が無いからああいう倒し方をするしかなかっただけですから。やっぱりああいう豪快な倒し方には憧れますっ……!」
「そ、そんなそんな~――」
そんな感じでお互いに褒め合いながら、探索を続けていき途中で出現するモンスターを時には各々、時には協力して倒していく。
少しの間、一緒に戦ってみて思ったけどやっぱり楠木さんは普通に強いと思った。
まあ他のシーカーの戦いを直接見る機会も少なかったんだけど。それこそ秋冬さんたちほどじゃないけど、そこまで見劣りしないぐらいだと思った。
と、そんなことを考えているところでふと楠木さんが疑問を口に出す。
「私、さっきも言いましたけど二型ダンジョンの攻略って初めてなんですけど、コアってどんなものなんでしょう? そんな簡単に見つけることって出来るんでしょうか?」
「う~ん、見つかるには見つかると思いますよ? そんな宝探しみたいになってる訳じゃないので。何というか、見れば分かると思います?」
「そ、そうなんですか? そういえば宮内さんは二型ダンジョンの攻略ってしたことあるんですよね?」
「そんなに沢山ある訳じゃないですけど二つ三つぐらいなら~。結構頻繁に出現するけど、その代わり競争とかが激しいので。初心者でも攻略しやすいぐらいの難度の場合は特に」
「そうなんですねぇ」
楠木さんと話している通り、ダンジョンには大きく二種類の分類があるのだ。
まずは一型ダンジョン。
これはこの世界に出現した最初のダンジョンと同じ性質を持っているダンジョンを指す。よく知らないけど、ある時ポツンと世界のあちこちに現れたんだとか。
基本的には破壊不可能で、攻略という言葉が最終階層のボスモンスターを倒すこととイコールな感じ。
もしかしたら破壊する方法があるのかもしれないけど、今現在でも見つかっていないから不可能と同じだ。
そしてもう一つの二型ダンジョン。
こっちは最近出現し始めた新しいダンジョンである。最近といっても数か月とか数年前とかじゃ無くて、あくまでダンジョンの歴史から見れば最近に分類されるってぐらいだけど。
二型ダンジョンの大きな特徴は、基本的に階層が一つしか無くてかつダンジョンそのものの破壊が可能という点にある。
破壊というか消滅? 二型ダンジョンにはコアというものがあって、それを破壊することでそのダンジョンが消えてしまうのだ。記憶に新しいところで言うと、この聖剣を手に入れたダンジョンが二型ダンジョンだったね。
一型ダンジョンの方は滅多に出現しないけど、二型の方は現れるようになってからかなり頻繁に出現している。アプリの通知で来るほとんどのダンジョンは二型といっても過言じゃないぐらいの割合だ。
ちなみに公式では一型、二型と呼ばれるけどシーカーの中では階層型とフィールド型なんて呼ぶ人もいる。まあ一型二型よりはこっちの方がイメージしやすいかも。
楠木さんはあまり納得できていない様子だったけど、少し歩いてそれを見つけると納得したような目になった。
「これがコア、何ですよね……?」
「ですです。ね、見れば分かるでしょ?」
「確かに。これは見れば分かりますねぇ……」
私達の目の前にあるのは、草原に突如として出現した巨大な紫色の水晶体だった。占い師さんが使っているような球体じゃなくて、もっと粗削りな感じの柱に近い感じ?
大きさは人間と同じぐらいだからかなり大きいと思う。
そんな水晶体の中では、紫色の液体のようなものが流動的に動いていて、ちょっぴり幻想的で暫く眺めていたくなる。
だから未だに疑問なのは、聖剣を手に入れたダンジョンがどうして崩壊したのかってところ。
コアは破壊してないはずなんだよね~。まあ後で調べてこの水晶体っぽいやつ以外の形のコアも稀に存在するってあったから、もしかすると何かの拍子に壊してたのかもしれないけど。真実はもはや分からない。
「これを破壊すればいいんですね」
「よかったら楠木さんが壊してみますか?」
「え、そ、それは悪いですよ! 見つけたのは宮内さんのお陰ですし、ここは宮内さんが壊すべきじゃ」
「でも、私は何度か壊したことがあるので。それにこんな機会もあまり無いと思うので、折角ですし楠木さんが壊しちゃってくださいっ」
「うぅ……そ、それじゃあお言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます、宮内さんっ!」
水晶体の前に立った楠木さんは刀を鞘に納めたまま静かに腰を落とすと、次の瞬間目にも止まらぬ速さで刀を抜き放った。
それに少し遅れて水晶体が横に真っ二つになる。
こ、これってもしかして噂に聞く抜刀とかいうものでは……!?
す、凄いっ。楠木さんってこんなことも出来たんだ……!
コアを破壊した私達は無事にダンジョンを攻略して外に出てくることが出来た。
思わぬダンジョン行だったけど、何とかなってよかったっぁ……
「宮内さん! 今日はありがとうございました!」
「こちらこそ、楠木さんがいてくれて正直助かりました。多分、私一人だったらもっと時間がかかってしまったと思うのでぇ」
外に出てくると、入った時が放課後だったこともあってもう日が暮れていた。
「それじゃあもう遅いので、帰りましょうか。あ、よ、良かったらLIMEの連絡先とか交換しませんか……?」
「ぜひぜひっ! 宮内さんとはまた一緒にダンジョンに行ってみたいです! ああでも、もうすぐ私ランクアップ試験を受けるので暫くはそっちで忙しくなるかも……」
「あれ楠木さんもランクアップ試験を受けるんですか? 実は私も受けるんですよ!」
「本当ですかっ!? じゃあもしかしたら会場で一緒になるかもしれませんね!」
聞けば楠木さんが受ける試験もEランクからDランクへの試験だと言う。
帰り際にお互い見えなくなるまで手を振り合った。思わぬ形で知り合いが出来てしまったんだけど……この場合、楠木さんは友達でいいのかな?それともライバル?
まあでも次に会うことがあれば、その時は同じランクアップ試験を受けるライバルかもしれないね。
連絡先も交換できたし、また今度機会があれば一緒にダンジョン探索するのもいいかな~――
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大変遅くなりました……
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