第11話 リベンジのその前に……
管理局に呼び出されて思わぬ人たちと知り合いになったりした出来事から少し経って――
今日はいよいよ、トレントにリベンジする日がやってきた!!
実はあれ以来一度も配信はしていない。何故かといえば、次に配信をするときはあのトレントにリベンジする時だっ!と決めていたから。
そのせいで配信頻度はかなり減ってしまったけど、SNSでそれをつぶやいたら楽しみにしてるという反応が驚くほど多かったからむしろ気合いが入った! ただ前回の配信から少し間が空いてしまったので、やっぱり少し緊張気味ではあるんだけど……
前回はあれだけ集まってくれた視聴者だけど、配信者業界は流れる水のように流行り廃りが凄い勢いで過ぎていく。だからまた同じように視聴者が集まるとは限らない。そんな心配もありつつ、いよいよ配信を始めていく……
「み、皆さんこんにちは~! ダンジョン配信者の田中花子です~!」
:マッテタ!!
:お、始まったな
:今日はいよいよVSトレントか~
:なんか喋りが固くないか?
:準備はしっかりして来たんだろうな??
:こんにちはー! 間に合ったー!
;今日も可愛いぞ花子っ!
「サムネイルにもしましたが、その通りですっ! 今日は、前回は準備不足で撤退せざるを得なかったあのトレントに再挑戦していこうと思います! そのためにきちんと準備はしてきましたので!」
:よし、早速行ってみよう!
:ていうかあのトレントまだ残ってんの?誰かに討伐されてない?
:そこそこ間が空いたからな~。復活しないタイプだったら企画倒れの可能性アリ?
:それなら問題無さそうだぞ
:そうそう。悔しがってる連中があちこちで呟いてたからな~
「あ、そうなんですよ! 私も少し心配だったんですけど、まだあのトレントは誰も討伐出来ていないみたいです。だから今日は私がその初討伐者になるべく頑張っていこうと思います! 応援よろしくお願いします!――」
視聴者の中にも知っている人がいたみたいだけど、本当にあのトレントは未だに誰も討伐していないらしい。
実は私が返って少しすると、洞窟の中からあのトレントがいた森に繋がる通路が閉じてしまったそうなのだ。それは私の配信の話を聞いた他のシーカーが実際に行って確認したらしい。
そして何人ものシーカーが私と同じように壁を壊して通路に入ろうとしたらしいのだけど……なんと誰も壁を壊すことが出来なかったというのだ。
もちろん中には私よりもランクが上で実力も高いシーカーもいたはず。
だというのに他の誰も壊せなかったなんて実に変な話だと思った。でも同時に、あれも聖剣があったから出来たことなんだろうか?とも思ったけど。
もしそうだとしたら、あの壁を破壊して先に進めるのは現状では私を含めて11人だけということになる。
……さすがにそれは条件が厳しすぎるよねぇ。
だから壁を破壊することが出来なかったシーカー達は何かが足らなかったんだろう。
それにここはあくまで初心者向けの難易度が低めのダンジョンだ。いくら新しい通路が見つかったからといっても、トレントなんてさほど珍しいモンスターでもないし上位のシーカーはそんなに集まらなかったんだろう。
皮の鞘があった洞窟の前に到着すると、そこには前は見かけなかった数人のシーカーがたむろしていた。
「あれって……もしかして私と同じで皮の鞘狙いのシーカーですかね?」
:いや、どっちかと言えばトレントの方だろ
:まあ皮の鞘も便利アイテムだから無くはないけど
:ていうか誰も壁壊せなかったのに、アイツ等は何であそこにいるんだ?
:そりゃあ……壁破壊の方法でも探してんじゃねえの?
:いや待て。あの連中の顔、どっかで見たことある気がするんだが……
:ん?
:あー……もしかしてだけど分かったかも
:どうした?
「あれ? どうかしましたか?」
:花子ちゃん悪いこと言わないから今日は諦めて引き返した方がいいかも
:あそこにいるの迷惑系のダンジョン配信者っぽい
「迷惑系? それって人の邪魔とかめんどくさい絡み方をして相手を困らせてその反応を楽しむような?」
:そうそう、それそれ
:間違っちゃいないけど言い方で草
:配信歴で言えば花子ちゃんよりも新人。某迷惑系に影響されて自分達もやってみようとか考えたアホな連中だから相手にしない方がいい
「うわぁ、なるほど…………じゃあ、行きますっ!!」
:花子ちゃん!?
:ちょ、話聞いてたか!?
:面白くなってきたぞ~~!!
:どうするんだ花子?
何人か彼らのことを知っている様子の視聴者からのコメントを無視して、私は真っすぐに洞窟に向かった。
すると洞窟の周りでたむろしていた迷惑系配信者らしき人達は、私の方を見てニヤニヤと笑いこそするものの話しかけてくるような気配は無かった。
取り合えずあんな連中を気にしている場合じゃないと努めて無視して洞窟に入る。
すると前回出て行ったときの状態から壁に空いた穴だけが綺麗に修復された状態の光景が広がっていた。
「おお~、ほんとに壁が塞がってますね~」
:ダンジョンの自己修復機能ってやつだな
:高ランクシーカーが地形とか変えるレベルの攻撃をしても数日後には何事も無かったかのように直ってるらしいからな
:そういえば少し前にもダンジョン内の森が全部吹き飛ばされた事件があったよなぁ
:あれは、悲しい事件だった……
:いや、ただ調子に乗ったバカがS級にちょっかいかけたせいだろ
:あのダンジョン一時的に立ち入り禁止になったもんな~
「……」
何か最近どっかで聞いたような話がコメント欄を流れていくのが見えた。
ちょっと気になったけど今は目の前のことに集中する。
聖剣を引き抜いて顔の前で構えると、これまでよりもスムーズに自分の身体に黄金の光が広がっていった。
これもトレントとの再戦に向けた準備、特訓の成果っ!
前までよりもいくらかではあるけど、聖剣による身体強化をスムーズに出来るようになったのだ!
そしてあの時と同じ場所に向かって聖剣を振り下ろす。
すると腕が痺れるほどの衝撃を感じた前回とは異なり、今回は掌がジーンとなるぐらいの衝撃で壁を破壊することが出来た。使っている内の熟練度的なものが上がったのか、それとも単に私が聖剣の使い方に慣れてきただけなのか。
思わぬところで自分の成長が感じられて嬉しくなる。
:おお~!!
:さすが聖剣女子高生っ!!
:やっぱりどうやって壊してんのか分かんねぇ……
:攻撃力の差とかじゃないの?
:そんな単純なことだったら花子以外の誰かが先に行ってるわっ!
:いいぞ花子!! そのままトレントもぶっ倒してやれっ!!
そんなコメント欄を一瞥して先に進もうとした。
その瞬間だった――
「うぐっ!?」
突然身体が痺れたように動かなくなってその場で聖剣を杖代わりに膝をついてしまう。
「な、なに……?」
「――ご苦労さま、田中花子ちゃん。俺達の為に道を作ってくれてありがとう~」
そう言いながら姿を見せたのは外でたむろしていた例の配信者連中だった。
「これ……違反……!」
「シーカー同士の争いは禁止だって? いやいやそんなの知ってるって! でも俺らは別に花子ちゃんを攻撃しちゃいないぜ? 偶然洞窟の入り口にグレーウルフがいたからそれを攻撃したら、外れたそれがたまたま偶然その先にいた花子ちゃんに当たっちゃったんだよ。だからこれ事故ね。ああ心配しなくてもここら辺のグレーウルフは俺達が倒しといたから! 感謝してくれてもいいんだぜ?」
「っ……!」
「暫くすれば麻痺も取れると思うけど――ごめんなぁ~。俺らこの先に用があるからさ~。付き添って見ててやることも出来ないんだわ~。心細いかもしれないけど、ほらダンジョンって自己責任だからさ。避けられなかった花子ちゃんも悪いからお相子ってことで」
そんな明らかに筋の通っていない無茶苦茶なことを言いたい放題言って、連中は私が作った道を我が物顔で進んで行ってしまった。
何を使われたのか知らないけど身体が麻痺して動かない私にはそれを止めることも出来ず、ただ見ていることしか出来なかった。
:大丈夫か花子ちゃんっ!!?
:アイツ等ぁ……明らかにグレーどころか真っ黒だろうが!!!
:ダンジョン内で起こったことは法律もザルだからなぁ……
:ザルも何もこうやって配信に記録が残ってるんだぞ!?
:花子ちゃん無事か!? 生きてる!?
:ほぼ黒だけど……連中が事故とか言い張ったら厳重注意で済まされるだろうな。故意にやったシーンは残ってないし、麻痺以外に実害が無ければ猶更
:はぁ!? くそ過ぎるぞ!?
:だから迷惑系とか厄介系がのさばるんだよ……
「だい、じょうぶ……です。少し痺れる、だけ、なので……」
少しずつ、正座から立ち上がった直後みたいな状態から痺れが引いていく。
この調子ならあと数分もすれば動けるようになりそうだ……だけど――
「あん、にゃろう共~~……!!!」
いくら私よりも先んじて行きたいからってここまでするか!?!?!?
犯罪じゃないなら何をしてもいいって訳じゃないんだぞこの野郎ーー!!!
でもだからといって私から殴りかかったら、それはそれで今度は私もそっち側になっちゃうし。次連中に遭遇したら一体どうやって仕返ししてやろうか……?
そんなことを考えながら暫く、ようやく身体の痺れが完全に取れて歩けるようになった。
「ふぅ~……それじゃあ皆さん、行きますっ!!!!!」
:いけーーー!! 花子ぉーーー!!!!
:あんな連中に横取りなんてさせんなぁ! こっちが奪い返してやれ!!
:うちの聖剣女子高生舐めんなよ!!
:取り合えずさっきのやり取りは管理局に通報しといたぞ
:お、有能
:まあどこまで対応してくれるかは分からんけど
:いやぁ、今の管理局なら結構厳しい罰与えてくれるんじゃね? 前までの管理局ならともかく
:何でもいいから、いけいけ花子ぉ!!
「よっしゃーー!!!」
洞窟に空いた抜け道を通り抜け、その先にある森に辿り着く。
確かトレントがいた方向はあっちだったはず――そう思って、前回と同じ方向に進もうとしたのだが。
『『『ぎゃあぁぁぁぁ』』』
「っ!?」
:今のって……
:悲鳴か?
:誰の――って、あの連中しかいないか
:まさかトレントに負けたのか?
:いやいやあんなに自信満々で行ったのにか!?
:アーカイブチェックしてきたけど……あいつら、トレントの相手できるほど強くない
:はぁ!?!?じゃあなんで!?
:おそらく、調子に乗ってとしか
「~~~――ああ、もう……!!」
いずれにせよ向こうにトレントがいるなら、私の目的地も向こうなのだ。
だから私は進路を変更して、男達の悲鳴が聞こえてきた方向に向かって走った。
するとその先に広がっていたのは、
「た、助けてぇぇ!!?」
「やめろ~~」
「何でっ!? トレントなんて雑魚じゃ無かったのかよ!?!?」
「お前らふざけんなよっ!適当なことばっかり言いやがって!!」
トレントが伸ばした根っこなんだか蔦なんだかに絡まれて、半壊状態に陥っている迷惑連中の姿だった。
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昨日も遅くなりましたが、今日もめっちゃ遅くなりました。滑り込みセーフ!
でも遅くなってすみません……(´;ω;`)
急いで編集したので、もしかしたら後で修正が入るかもしれませんがその時はきちんとお知らせしますね!
という訳で、また次回の更新をお楽しみに~!
読んでみて面白かった、続きが読みたいと思ってくださったら★評価やいいね、感想を送ってくれると嬉しいです! よろしくお願いします!
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