第12話 VSトレント
トレントに身動きを封じられながら騒ぐだけ騒いでいた迷惑連中だったけど、その内の1人が駆け付けた私の姿を見つけてその標的をこっちに変えた。
「あ、おいっ!! ぼーっと突っ立ってないで俺達を助けろっ!!?」
「……」
そしてそれに追随するように他の4人も好き勝手に助けろと叫び出す。
そんな五人組の姿を見ていると、そんな場合じゃないはずなのに溜息が漏れた。
……ここまで来てまだ自分勝手な言い分を宣う姿を見ると、元々助けるつもりで来たはずなのにその気が失せてくる。さっきまではシーカーは自己責任だ云々言っていた連中の口から出てきた言葉とは思えない掌返しっぷりだ。
とはいえさすがにここで助けない訳にはいかない。いくらムカつくからって放っておいたら死にそうな状況で見捨てるほど私の心は荒んでいないし、それに何もしなくて死なれたら目覚めが悪すぎる。
「動かないでくださいっ!!――」
気乗りしないと訴える感情を必死に抑え込んで全員に動かないように警告する。
この距離だとあんまり命中精度は良くないけど、的が大きいから何とかなるはず。そう思いながら、習得したばかりの飛ぶ斬撃を迷惑連中が捕まっている蔦に向かって連続で放った。
――バサバサッ!!バキバキッ!!!
そんな音を立てながら次々と五人を拘束していた蔦や根が切断されて、空中に吊るされていた何人かはそのまま地面に落下した。正直、いい気味である。
拘束から解放された五人組は、また捕まっては堪らないとばかりに次のそれが伸びてくる前に慌てて私の方に駆けよって来た。
「はぁ、はぁ、助かった……よし花子ちゃん。俺達が協力してやるから、一緒にあのトレントを倒そうぜっ!」
……コイツ等はこの期に及んで何を言っているんだ?
「そうだよな。俺らでもあと一歩足りなかったんだから花子ちゃん1人じゃ絶対無理無理っ。ここはいっちょ協力しかないでしょ!やっぱ俺達ってばやさし~!」
「ていうかさっきはちょっと油断しただけで実際は俺達だけでも倒せるしな。まあでも折角だから協力させてやるよっ!」
「えぇ~、ここで部外者とか混ぜんのかよ~。俺達のおこぼれ狙うとか本当だったらマナー違反だからな?そこらへん弁えろよ?」
「はーい、それじゃあVSトレント第二ラウンド始めましょう~!」
:こいつら終わり過ぎだろ……
:え、最近のシーカーってこんなのばかりか?
:それは風評被害が過ぎる。あれを基準に考えるのは止めてもらおうか
:ほんの一部の連中が悪目立ちするからシーカーの印象が悪くなるんだよなぁ。マジで勘弁して欲しい。現役シーカーとして恥ずかしい
:どうする花子?このままだとこいつら勝手に手出してきそうだぞ?
:こんなのもう殴り倒しても文句言われんだろう
:やっちゃえ花子!!
これは、理解しようと思ったら負けなのかもしれない……
「いえ、邪魔なのでどっか行ってください」
「「「はっ?」」」
「さっき戦って分からなかったんですか?五人がかりで負けたんですよね? 私は五人も守りながら戦う余裕なんて無いと思うので、正直言ってここにいられると邪魔なんです」
だって、ここにトレントがいるって分かった上で私が駆け付けるまでの数分であの壊滅状態になったってことでしょ? そんなの明らかに実力不足にもほどがあるじゃん。なんでそれが分かってないのかなぁ……
「い、いや花子ちゃん1人じゃ無理でしょ!? 俺達でも勝てなかったのに女の子1人で勝てる訳ないでしょ!!」
「調子乗ったこと言ってねえで、いいから俺達のサポートしろよっ!!」
「配信中だからって無理しなくていいんだよ~?」
「何を言われようと、あなた達と協力する気も共闘する気もありませんっ!」
そう言い切った直後、私の飛ぶ斬撃を受けてから様子見をしていたトレントがついに我慢の限界を迎えて襲い掛かって来た。
しかもその対象は自分の攻撃を喰らわせた私がメインで、ほぼ全ての攻撃が私目掛けて飛んでくる。
トレントと戦う上で怖いのは主に2つ。
一つは素早い回復速度。生半可な攻撃をしたところですぐに回復させてしまい、延々と戦闘が長引いてこっちの体力が先に底をついてしまう。だからトレントと戦う場合は回復すら追い付かないような強力な攻撃手段を用意しておく必要がある。
二つ目は、今私に襲い掛かってきているあの手数の多さだ。
元が植物だから腕二本と足二本とか、四足歩行の噛みつくだけとかそんな動物らしい攻撃方法はしてこない。葉っぱや枝、根っこ、場合によっては木の実など植物らしさ全開で攻撃を仕掛けてくるのだ。
いくら聖剣の力で身体能力が向上しているといっても、そんな攻撃の全てを捌き切る技量は今の私には無い。
そこで――
「ぐぅ~~……!!」
全身を覆うほど大きな盾を前面に持ってきて、トレントからの攻撃を防ぐ。
そう、新装備なのであるっ!!
これで攻撃を防ぐことが出来るんだけど……思った以上に衝撃が凄いっ!? もしこんなのが直撃していたらと想像すると背筋に寒気が走る。盾を貸してくれた権藤局長、本当にありがとうっ!!
でも、このままやられているだけではトレントには勝てない。
だから次の一手を打つ――打とうとしたのだけど、またしても邪魔が入る。
「よっしゃ! 今の内に横から攻撃するぞっ!!」
攻撃を一身に受ける私を囮にして、迷惑連中が再び前に出たのだっ。
「ちょ、ダメっ!!」
確かにトレントの攻撃は私に向いてるけど、だからって私以外が見えてない訳じゃ――
当然、私の言葉であいつらが止まる訳もなく無防備だと勘違いしたトレントに突っ込んで行った。
そして接近したところをトレントに気付かれて根っこで薙ぎ払われてこっちまで戻って来た。
「……」
その瞬間、私の中で何か糸のようなものがプッツンと切れたような気がした。
「花子ちゃん!! もっとしっかりトレントの攻撃を――」
「うるさい」
私の怒りに呼応するように右手に持つ聖剣から光が零れる。聖剣は何かを主張するように明滅を始め、それを見た私は導かれるように切っ先を迷惑連中に向けた。
あいつらは剣を向けられたことに肩をビクリと震わせる。するとそんな奴等を囲むように黄金の光のドームが出現し、連中をその中に閉じ込めた。
自分達が閉じ込められたことに気付きそれを壊そうと叩いたりするも、黄金のドームはビクともしない。
:おおーーー!!!何だコレ!!?
:花子の新能力かっ!?
:あれは……結界かっ?
:お、知ってるのか有識者!?
:恐らくあれは結界の一種だろうと推測される。用途は様々あるが基本的には外部から内部、またその逆への干渉を防ぐ力を持っている
:つまり、アイツ等は結界がある限りもう手出しできないってこと……?
「それは便利ですね~――という訳で、そこで指を加えて待っててください。そこにいれば結界?が攻撃から守ってくれるので安心ですよ……まあホントかどうか知りませんけど」
出せと叫ぶ男達を無視して、トレントに意識を集中させる。
:さて邪魔者がいなくなったのはいいとして……
:さすがにトレント。手数が多いし攻撃が途切れねえなぁ
:まあそこがトレントの厄介な点だしな
:さて花子ちゃんはこれをどう攻略する?
「まずは――」
私は腰に差していた短剣を引き抜きそれに炎を纏わせる。そして盾を攻撃をしている特に蔦と根っこを中心に短剣でちくちくと刺す。そして時折、飛ぶ斬撃を使って迫って来る攻撃をまとめて破壊する。
「えい、おりゃっ!」
:おぉ、器用なことするな~
:斬撃が飛んだぞっ!?
:まあシーカーなら斬撃ぐらい飛ぶか~
:攻撃の隙間にちくちくしてるな
:え、俺がおかしいの?
:慣れろ
:炎による回復阻害が狙いか?
コメント欄でも言われている通り、この短剣による攻撃はトレントの回復を少しでも妨害するためにやっている。
そもそもとして、トレントというモンスターを倒す為にはどうすればいいのか?
動物型と違って脳や心臓にあたる部位がある訳じゃ無い。その上斬っても斬ってもすぐさま再生してくる……ただし、トレントには明確な弱点が一つだけある。
それは身体のどこかにある核を破壊すること。核はかなり分かり易い形をしているらしいけど、体表に露出している訳じゃない。そこもトレントの討伐が難しい理由だ。
「っ……!」
ちくちく攻撃を繰り返すこと暫し、ようやく攻撃が少し緩んだと感じた瞬間――私は盾の後ろから飛び出してトレントに向かって走り出した。
当然私を近づけまいと次々と攻撃が襲い掛かって来るけど、それを避けたり聖剣で切り払ったりしながら突き進んでいく。いくつか避けきれなくて身体を掠るけど、今は前に進むことだけを考える。
「ふっ……ふっ……!!」
そして遂に、トレントの目の前まで辿り着く。
「はぁぁぁっ!!!」
そのまま至近距離で聖剣から飛ぶ斬撃を放ち、幹に大きな傷をつける。そしてすかさずその傷を炎を纏った短剣でなぞるように斬りつけることで、その部分の回復を妨害する。
トレントが斬られた痛みなのかそれとも怒りなのか、自分の真下にいる敵を逃がすまいとさっきよりも密度高めの攻撃を繰り出してくる。
今の私にはさっきまで身を守っていた盾が無い。でもだからと言って無策で飛び込んできた訳じゃ無いっ。ちゃんと対策は考えてきてるっ!
目前まで迫ったトレントの攻撃に対し、聖剣を盾にするように構える。
すると――
――パァァァァァァンッ!!!!!!!!
聖剣に当たった枝や蔦などが、まとめて弾け飛んだ。
その隙に再びトレントの胴体を大きく斬りつけてそれを再び短剣で焼く。
……私はトレントとの再戦を決めてからまず最初にやったこと。それはトレントの情報を調べることではなく、今の自分に出来ることの確認からだった。もっといえばこの聖剣にどんな力があるのかの確認と言ってもいい。
管理局で実践した聖剣を意識的に使うというのもその中で見つけたことの一つだった。
そしてもう一つ、この聖剣にはよく分かっていない謎があった。
それは一番最初にこの剣を使ったオークとの戦い。あのとき私は聖剣をオークの棍棒を防ぐ盾のように使った。するとこっちからは何もしていないのにも関わらず相手のオークは上半身が吹き飛ぶような衝撃を受けた――あの現象は一体どういう訳だったのか?
それを調べていった結果がアレだ。
――攻撃の反射
意識的にこれが出来るようになったのはつい先日のことだった。無意識では出来ていたはずなのにやろうと思って出来ないなんてかなりもどかしい思いをしたけど、何とかモノにすることが出来た。
それはゴブリンキングと倒したときのようなノリと勢いだけじゃない。きちんとした実力でトレントを倒すためにっ!
「まだまだぁ~!!!」
聖剣と炎の短剣によるダブルパンチ。そして攻撃に使っていた枝や蔦がまとめて弾け飛んだことで、トレントにもかなりのダメージが入ったに違いないっ。
そして二回の攻撃でトレントの身体に深く刻まれた切り傷に、もう一度。渾身の一撃を放つべく聖剣を固く握りしめ、管理局でやったあの時の一撃のように聖剣に感情を乗せる。
――核? 知るかそんなもんっ! だって探すの面倒なんだもんっ!! だったら切り倒した方が早いじゃん!!
それが私がトレントを倒す為に考えてきた作戦であるっ!!
ちゃんと核を破壊しなくても切り倒したらそれでも倒すことが出来るって調べてきたから問題無しっ!!
「おりゃーーー!!!」
一際強く輝く聖剣をトレントの幹、聖剣と炎で回復を阻害された傷へ叩き込む。
ぶつかった瞬間強い抵抗を感じたけど、負けるかぁ!と全力で聖剣を押し込むと――途端に感触が無くなり、すっと刃が入っていった。
「おっとっと!?」
急に手応えが無くなったせいでバランスを崩した私は前のめりに倒れる。
その後に続いてドシンッと何かが倒れる音が聞えて来た。起き上がって見てみると、そこには幹の半ばから両断されたトレントの姿があった。
「か、勝ちました~~!!」
:ナイス両断っ!!
:あの分厚い幹を切るってマジか!?
:すげえーーーー!
:さすが聖剣女子高生っ!! 花子の前に斬れぬ物無し!!
:トレントも倒せるんだからこれは初心者卒業じゃないか~?
:てか今ランクいくつなのよ?
:さすがにDぐらいはあるんじゃないの
:とにかくおめでとうーー!!
「皆さんありがとうございます~!!」
一斉に祝福のコメントが流れるコメント欄を見てお礼を言うと、同接人数が100人を超えていることに気が付いたっ。開始したばかりは十数人だったけどまさかこんなに伸びるなんて……!
そんな風に喜んでいると、切り倒したトレントの切り株の方に何かがちょこんと乗っているのが見えた。何だろうと思いつつ近づいてみると、それはここに来る前の洞窟にあったのと同じぐらいのサイズの宝箱だった。
:宝箱ってことは、やっぱりあのトレント中ボス扱いだったのか
:確かにそこらのトレントよりも若干強いように見えたしな
:ほんとに?
:まじまじ。普通のトレントだったらもっと攻撃が温いというか手数が少なかった気がする
:ほーん
「宝箱ですねぇ! 何が入っているのか――」
蓋を開けて中を確認すると中に入っていたのは、
「おぉ!! 木の鞘だぁ!!」
:鞘かいっ!!
:まああの洞窟の繋がりだからおかしくはない、か?
:目的の物が手に入って良かったな!
:花子ちゃんやったね!
:トレントも倒せて鞘も手に入って一石二鳥じゃないか
「むふふ~、当初の目的通り鞘が手に入りましたよ!……また爆散しないといいけど……」
:それがあったかwww
:どうなるか
:期待してるぞww
「変な期待しないでくださいっ!――さて、じゃあそろそろアレをどうするか考えましょうか」
私は未だに結界の中で喚き続けている迷惑五人組に視線を向けた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
思ったよりも長くなってしまった!? 遅れてごめんなさい!
やっぱり戦闘描写って難しいですねぇ~。読み応えがあって矛盾なく戦闘描写を書ける人って本当に尊敬しますっ。(なので戦闘描写は後で修正が入るかも)
そんな感じで今日はここまで。また次回の更新をお楽しみに~!
また読んでいて面白い、続きが読みたいと思ってくださったら★評価やいいね、感想などを送ってくれると嬉しいです! よろしくお願いします!
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