第5話 名も無き――な聖剣
「え、MさんてA級
「そんなに驚くことじゃないだろう? A級なんて国内だけでも千人以上はいるし、世界的に見ればもっと多いんだから」
「いやいや、滅茶苦茶凄いじゃないですか!? だってA級ですよ!! 上から数えたら二番目に高くて、なれれば超一流探索者って認められるあのA級ですよ!? ま、まさか私が目標にしてた人が目の前にいるなんてっ……!」
「お、落ち着いてね……」
最下層から地上に戻った私と視聴者さん――本名は明かしたくないようで自分のことを『M』と呼ぶように言われた。名前のイニシャルを取ったんだろうか? 例えばみちこさんとかももかさんとか? 色々あり過ぎてさすがに予想も出来ないね。
そんなMさんは、私と同じ女性シーカーでありながらA級シーカーにまで至ったとても凄い人だったらしい。しかも見た目がすっごく美人で、わざわざ私を助けるために駆け付けてくれるぐらい優しい。何というか完璧超人って感じの人だ。
まさかそんな人が私の配信を見てくれてて、その上色々と助けてくれただなんて世の中本当に何が起きるか分からないものである……
ともかくそんなMさんを伴って私はダンジョンから帰還を果たした。
今いるのはダンジョンに入る前にも着替えで立ち寄ったダンジョン管理局が所有する場所。私たちシーカーの間では『ギルド』と呼ばれている建物の中だ。
そこの待合室で、こうしてMさんと話しながら受付から呼ばれるのを待っていた。
どうして待っているのかといえば、ギルドに依頼したアイテム鑑定のため。
ギルドは色々な方面でシーカーのサポートをしてくれて、アイテム鑑定もその一つだ。
ダンジョンで手に入れたアイテムがどんな効果を持ち、どうやって使うのが正解なのか――そうしたことをスキル持ちの人か、それが出来るアイテムを使って調べてくれるサービスである。
今回アイテム鑑定に提出したのは、ゴブリンキングを倒した戦利品。
そしてよく分からない力を持ち、今や私のメインウェポンとなったあの剣だ。
ゴブリンキングの戦利品は、倒し終わって少しするとアイツが座っていた玉座の横に宝箱として出現した。中身は指輪が一つと、短剣が一本。
まあそれだけ見ればしょっぱく思えるよね……でもこうしたダンジョンで見つかる装飾品や武器には特殊な効果が付いていることがある! だからこそ、それを確かめるためにギルドにアイテム鑑定を依頼したのだ。
そのついでに使ってはいるものの、謎の力を持ちその正体も不明な黄金の剣も鑑定に出してしまおうということになったのだ。
……もっと早く鑑定に出せばよかったって?
アイテム鑑定してもらうってことに思い至らなかったんだからしょうがないじゃん!!
ちなみに余談だけど、さっきダンジョンから帰って来るときにも一つ失敗していて、ゴブリンキングの宝箱の存在をすっかり忘れていた。
だってあんな激闘の後だったし、視聴者がぐっと増えたりMさんが来てくれたりと色々あって完全に頭から飛んでたんだよぉ。
それらが合わさって、それを指摘された時のMさんの表情といえば――顔から火が出そうだから記憶の底にそっと封印しておくとしよう…………
「どうかした?」
「あ、いえ、何でもないですっ!――そ、それよりも、あのアイテムの効果ってなんですかね~? 指輪も短剣もそんな豪華そうじゃなかったし、でもゴブリンキングを倒したんだから強い効果が付いてるといいですよね~」
「その手のスキルが無いから推測になるけど、本来のボスモンスターの戦利品をそのまま強化したようなアイテムになるはずだよ。相手がレア湧きのゴブリンキングだったからね。多分、指輪の方が状態異常耐性、短剣の方が身体能力強化か切れ味向上あたりだと思う」
「はぇ~、そういうのって分かるもんなんですか?」
「経験と知識だよ。それにあくまでそんなところなんじゃないかな~って予想だから、外れてる可能性だって全然あるから」
「そうなんですかー」
「それだけダンジョンでは不確定要素が多いってことかな。今回の事然り、ね?」
確かに。ボスとしてゴブリンキングが出てくるのは完全に予想外だった。
Mさんの存在や、何よりあの剣が無かったらこうして無事に外に出ることは出来なかっただろう。
そう考えると本当にギリギリだったんだな、私……
そんな雑談をしながら待っていると暫くして私たちの順番が回って来た。
「――お待たせいたしました。アイテム鑑定が終わりましたので、こちらお返しいたしますね」
あ、そうそう。もちろんMさんにはこの場に同席してもらっている。
わざわざ助けに来てくれたこともあるし、あの剣についてもし私じゃ手に負えないような結果が出てしまったときの為に申し訳ないけど残ってもらったのだ。
まあMさんはMさんで、あの剣の鑑定結果が気になっていたようだったからこれはウィンウィンの取引なのである。
机の上に並べられた鑑定に出したアイテム類を回収していると、何故だか受付のお姉さんの表情が変なことに気が付く。
変というか、そわそわしているというか?
その視線は私が背負い直した黄金の剣に注がれているような気がする。
う~ん、何か嫌な予感が……やっぱりこの剣には何かあったんだろうか。
「それでは、こちらが三点のアイテムの鑑定結果となっております。ご確認ください」
「ありがとうございます! えっと、どれどれ――」
印刷したて特有の若干熱をまとった紙を手渡しされる。
紙にはさそれぞれのアイテムが持つ力の詳細についてが記されていた。上から順番に指輪、短剣、黄金の剣の順に書かれているようである。
ざっと中身に目を通していくと、
まず指輪。これは視聴者Mさんが予想していた通り、状態異常に対する耐性を持った指輪だった。身に着けていると、毒に対する耐性が上昇するらしい。しかもかなり強力な毒まで対応できる効果らしかった。
どのぐらいかというと普通の状態なら即死するような毒でも、死なない程度に苦しむだけで済むぐらい――こう聞くとなんか微妙な効果に聞こえるから不思議。
それから短剣。こっちはなんと!魔法の効果が付いた短剣だった!
いわゆる『魔剣』と呼ばれる種類の武器で、この短剣を使いながら意識するだけで刃が炎を纏って敵を焼き切ることが出来るらしい。短剣だったらこれまで使ってた武器と同じ種類だし、私でも使うことが出来るのでこれは嬉しい!
どちらも駆け出しの私には勿体ないぐらいレアなアイテムだったので満足である!
隣で鑑定結果を覗いていた視聴者Mさんも小声で「凄いじゃん」と褒めてくれた。
最近はダンジョンハザードに巻き込まれたり普段は出ない強力なレアボスにぶち当たったり運が悪いんじゃないかと思ったりもしたけど……うん、悪くないかも!!
と、鑑定結果を楽しく読んでいられたのはここまで。
その下に書かれていた黄金剣の鑑定結果を見て、さっきのお姉さんの妙な態度の理由を知ることになった。以下、書かれていたことである。
――――――――――――――――――――
今は名も無き『聖剣』:
最古にして最新の聖剣。まだそれに相応しき活躍は無くそれゆえに銘すらもつけられていない。持ち主に力を与え、邪悪を祓う力を持つ。この剣がどのような軌跡を歩み、どのような伝説を刻むのか――――それは持ち主次第である。
――――――――――――――――――――
「「……」」
鑑定結果を読んで二人して固まる。
聖剣……? なにが……?
「ねえ。この文章って鑑定で見えた結果そのままであってる?」
「はい、間違いありません。一言一句、鑑定によって得られた結果を正確に記載してあります」
「そう。てことはこれって本当に聖剣なんだ。私も見るの初めてだよ……」
Mさんが受付のお姉さんに確認を取るも、記入の間違いでないという返事が返ってくる。
上二つの文章が分かりやすく簡潔に書かれていたのに対し、剣についての文章だけ急に小難しいことを言い出した感じがする。
――というか聖剣って何!? この鑑定結果ってどういう意味なの!?
混乱する私をよそにMさんが受付さんと何かを話し始める。
なんか聖剣がどうのとか管理局がどうのとか言っていたと思うんだけど、それよりも鑑定結果の方が衝撃的過ぎてほぼ聞けていなかった。
鑑定を終えた後、私達はギルドに併設されている喫茶スペースに移動してちょっと話すことになった。
ここにはギルドが運営する飲食店もあって、ダンジョンで沢山体を動かすシーカーに向けたボリューミーかつ簡単な料理が売られていたりする。私達もその飲食店で飲み物と軽い(と言っても量は多いんだけど)食べ物を買って腰を下ろした。
自分で出すつもりだったんだけど、年上だから自分に奢らせて欲しいというMさんを断ることが出来ずお言葉に甘えてしまった……うう、何か色々されてばっかりだ。
「あ、改めてですけど先日といい今日といい本当にお世話になりました! お陰であのダンジョンから脱出できましたし――」
「別に偶然見かけたから同じシーカーとして力を貸しただけ。お礼を言われるほどのことじゃない。それに……私はあなたに謝罪しなくちゃいけないことがあるんだ」
「謝罪、ですか?」
突然深刻な空気を作って俯いたMさんに思わずぎょっとする。
「今日の配信について……結果的に私が駆け付けなくてもどうにかなった。けどそれは、ただ単に運が良かっただけの話だ。もしその剣が無かったら?剣の力がゴブリンキングに通用しなかったら?――君は間違いなくあの場で死んでいた」
「っ……」
「分かっていると思うけど、今回君が無事だったのはやっぱりあの剣によるところが大きかった。そして私はそれを理解していながら、君を止めなかったんだ……その剣の力をもっと見てみたいという自分本位な考えで君を危険に晒した。先達としては恥ずべき行動だった……だから、本当にすまなかった」
そう言って頭を下げるMさんに――私は反論した。
「そ、それはMさんが謝ることじゃないですよ!! そもそも私だってあの剣のお陰でこれまでは倒せなかったモンスターが簡単に倒せて調子に乗ってました! 最下層でゴブリンキングが出たのだって単に私の運が悪かっただけでしすし! そ、それに結局Mさんは助けに来てくれたじゃないですか!! だからMのせいなんじゃないです!! 絶対に!!」
「それでも――」
「でもも何もありませんっ! 結果良ければ全て良しっ、ですよ! 私も次からは調子に乗らないように気を付けるし、今回のことでMさんに責任を取ってもらおうと考えるほど私は子どもじゃありません!!」
「……そうだね。これは侮辱だったかもしれない。でも謝罪はさせて欲しい。それからありがとう」
今更ながらに自覚したけど、今日の私はかなり調子に乗っていた……
普段なら一度の探索であんなに深いところまでは行かなかったはずだ。
きっとあの剣っていう強力な武器を手に入れてしまったことで、自分が強くなったと勘違いしてしまっていたんだと思う。
それで不相応な領域に踏み込んで危うく命を落としかけた。しかもそれだけじゃなくて、Mさんにまで心配をかけてしまった……配信者としてあるまじき行動だ。
「私、この剣の力を使わなくても今日ぐらいのことなら簡単に乗り越えられるように強くなりますから! だから心配しないでください! もう調子には乗りません!」
「分かったよ。私も視聴者として応援するから頑張って」
「はいっ! ところで話は変わるんですけど、この剣。えっと聖剣でしたっけ。これって一体なんなんですか? Mさんは何か知ってます?」
「いいよ、私が知ってる限りのことは教えてあげる」
謝罪合戦から一転して、Mさんによる聖剣についての講義が始まった――
「まず聖剣っていうのは、そういう武器カテゴリーだと考えて。さっき鑑定してもらった短剣が魔剣っていう種類だったでしょ? あれと同じように、聖剣っていう武器種があるんだ。そして聖剣と呼ばれる武器は全て、モンスターに対する特攻効果を持っているのが特徴だね」
「なるほど……それでいつもだったら勝てないようなモンスターをぽんぽん倒せたんですねぇ」
「そういうこと。で、この聖剣っていう武器はかなり貴重な種類なんだ。例えば三年前にアメリカで見つかったのが、記録されてる限り一番新しい聖剣のはずだね」
「じゃあ、聖剣って他にもあるってことですか?」
「確認されているのは、合計で――10本。日本にもとあるS級シーカーが所持しているのが一振りあったはずだよ」
「そ、そんなに凄いものなんですか……!?!?」
私からすれば雲の上の存在みたいなA級シーカーのMさん、そのさらに上のS級シーカーさんが持っているのと同じ武器だなんて……
そ、そんなの凄すぎて頭がついていかないよぉ!?!?
そんな私の内心の混乱を知ってか知らずか、Mさんはさらに話を続ける。
「そして、聖剣にはそれぞれ固有の『銘』が存在するんだ。要は『聖剣○○』って鑑定すると表示されるってことだね。有名どころでいえばイギリスの『聖剣エクスカリバー』なんてのは聞いたことがあるんじゃないか?」
言われてみれば、そんな話を聞いたことある気がする。
確かイギリスで有名なアーサー王伝説に登場する、あのエクスカリバーがダンジョンから持ち帰られたことであちこちでニュースになっていたはずだ。
「――ただし。ここで一つの例外が生まれてしまった。君が持っているそれのことだよ。現存する中で唯一、銘を持たない聖剣」
「あっ……」
そうだ。この剣の鑑定結果には、名も無き聖剣って書かれてたっけ。
「書かれていることも、悪いけど私には分からないことが多い。古いのに新しいって部分もそうだし、軌跡だとか伝説だとかね。だからその剣そのものについて言えることは正直、あまりないんだ」
「て、てことは……現状だとモンスターに特攻力があって、使っている人を強化する剣って認識でいいですか?」
「そうだね」
「まあでも案外、言葉通りなのかもしれないね。聖剣だけどまだそれに相応しい偉業を成していない。だから今後の使い方次第で、歴史に名が残るようなすごい聖剣になることもあるよって」
「大仰すぎますよぉ……」
「でも、ちょうどいいんじゃない? 配信者をやってるならそれぐらいの気持ちでいた方がもっと上まで行けたりするかもだし。だから頑張ってね――聖剣女子高生『田中花子』」
「な、何か嫌です……!?」
そうして私は聖剣を拾った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
滑り込みギリギリセーフで今日中に投稿することが出来ました……
大変お待たせしてしまって本当にすみませんっ!!
こんな感じで今日はここまでとさせていただきます。
また明日の更新をぜひともお楽しみに!
あと★評価といいね、感想もお待ちしていますのでぜひとも送ってくれると嬉しいです!
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