第6話 広まり始める聖剣女子高生

 色々あったダンジョンアタックから約一週間後――

 まだ学校は復旧作業が長引いてしまっているらしく登校は再開していない。


 実はこの間にちょっとした、めちゃめちゃ嬉しい出来事があったのだ!!


 なんと……私のチャンネルの登録者数が10人を超えて二桁に突入したのだ!


 二ヶ月近く活動していても微動だにしなかったあの登録者の数字が遂に動いたのであるっ。しかもその勢いは止まることなく日に日に増えていき、今では100人を目前に控えるほどに迫っている。


 これは大変な偉業だ!それこそ聖剣の歴史とやらに刻まれてもいいぐらいのトンデモない出来事なのだ!!


 そしてその原因になったのは、やっぱりゴブリンキングとの死闘を記録したあの配信だった。ちなみにアーカイブの再生数は四桁に届きそうで、しかもなんと私のチャンネル初の切り抜きがSNSに上げられたりもしていた。

 結果、それがちょっとだけバズったのだ。そっちから私のチャンネルを見つけてくれた人もきっといるんだと思う。

 

 その中でも特に注目されていたのが、ゴブリンキングにやられそうになっていた私が黄金の光を纏って逆転シーン。

 あのシーンには『まるで少年漫画の覚醒シーンみたいだ』『素晴らしい逆転劇』『なんか神聖さを感じる』『あの剣カッコいい!』などなどといったコメントが寄せられていた。


 沢山の人が見てくれたみたいで、本当に嬉しいっ!!

 気分は上々である!!

 

 この機をを逃さぬうちに早速次のダンジョン配信を、と思ったのだが……


「あんた、配信禁止」


「もがっ!?」


 ご飯を食べているときに、お母さんから無慈悲な宣告が下されたのが数日前のこと。


 理由は休校中の勉強にと出されていた課題に一切手を付けていなかったことが発覚したから……はい、完全に自業自得です。

 後でやるからと自分でも苦しい言い訳をしたものの「絶対放置して直前で泣く羽目になるんだから今やりなさい」という正論パンチを喰らって一発KOされた。


 という訳で、あの日の配信以降一度もダンジョン配信が出来ていないのである。

 今日も今日とて自分の部屋で机にかじりつき、溜めてしまった課題の消化にいそしんでいた。


 ――だがしかし、それも今日までの話。


 ここ数日を全力で費やした結果、遂に課題の終わりが見えた。


「ふっふっふ…………!」


「何でその集中力を普段の勉強に生かせないのかね~……」


 うるさいよっ!!


 ともかく、あと少しだ。お母さんも、何も課題の全てを終わらせろと言った訳ではない。きちんと計画を立てて学校の再開までに終わるように勧めていけと言われただけだ。つまり休校からここまでの遅れを取り戻せればそれでいい!


 そしてようやくその瞬間が訪れた――


「終わったーーーーーー!!!!!」


「はい、お疲れ様。お昼ご飯できてるから食べちゃいなさーい」


「はーい!!!」


 今日はリビングのテーブルで勉強していたのでそのまま食卓に移動する。

 そういえばどうして自分の部屋よりも他の場所の方が集中できたりするんだろうね?気分の問題なのかな?


「あー、身体に染みるぅ……」


「はいはい、残りもちゃんと進めるのよ? 最終日に徹夜してなんてことないようにね」


「分かってるって」


「この後はどうするの? 早速配信に行くつもり?」


「……ううん、今日はもう頭が疲れたから適当に遊びに行ってこようかなって。だから配信は明日だね」


 本当は課題を終わらせたその日に配信する予定だったんだけど、思った以上に頭を使ったみたいで集中力が燃え尽きてしまっていた。

 やっぱりダンジョンには万全の状態で挑まなくちゃいけないから、今日のところは止めておこうと判断した。この前のこともあったし、ちゃんと考えて行動しようと思った成果だ!


「そう。気を付けて行って来なさいよ」


「はーい」


 昼食を食べ終えてから、早速私は街に繰り出した。

 ここのところは家に缶詰状態で勉強してたから外の空気が一段と新鮮に感じる。


 特に目的があった訳じゃなく気分転換がしたかっただけなので、てきとうにぶらぶら歩いて行く。途中で学校の傍を通ったけど、ブルーシートがかかっててトンカンッと音がしていた。

 私は壊れた校舎を見てないけど、もしかしたら想像以上に破壊されてしまったのかもしれないね。本当にダンジョンハザードは怖い。


 歩いてみると、住んでいる場所の近くでもモンスターの被害を受けた場所がちょこちょこと見つかった。普通の住宅や、普段は子どもたちが遊んでる公園、何回か利用したことがあるコンビニとか……

 それでも前に資料で見たダンジョンハザードが起こった街の写真や映像よりはずっとましだった。


 ――もし。もし次があったとしたら、私もシーカーとして街を守れるぐらい強く成りたいなぁ。


 そんな風に思いながら住宅街から繁華街の方に近づいていく。

 徐々に人通りが増えていき、それにつれて雰囲気も賑やかになっていくのを見ると今度は人間て逞しいとも思えてくる。


「さて、出てきたはいいけど何をしようか……」


 見慣れた街並みをキョロキョロと見回していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あれ? 小花じゃん!」


「ん? あっ、さっちゃん!」


「久しぶり~。こんなところで何してんの?」


「ちょっと街をぶらつきに来たところ。さっちゃんは?」


「私も同じだね。やっぱり学校が無いと案外暇なもんで」


 声を掛けてきた子はクラスメイト兼親友のさっちゃんこと、『中川 さち』ちゃんだった。小動物ちっくな雰囲気を感じさせる可愛い系の女の子で、小学校、中学校とも一緒だった幼馴染でもある。


「暇だったらそこら辺で話さない? ちょうど小花に聞きたいこともあったしさ」


「聞きたいこと? うん、どうせ暇だったから全然いいよ」


 さっちゃんに連れられて特に行きつけでもない近くの喫茶店に入る。さっちゃんはお腹が空いていたのか飲み物とサンドイッチのセットを、私はケーキセットを頼んだ。

 ……昼食を食べたばかりだとか、無粋なことは言うもんじゃない。女の子には甘いものは別腹なのだからっ。


「それでさっちゃん、聞きたいことってなに?」


「そうそう、この動画の人ってさ――もしかしなくても小花だよね?」


「おぅ……!?」


 いきなりスマホの画面を見せられて、思わず変な声が出てしまった。

 さっちゃんが見せ付けてきたスマホの画面に映っていたのは、黄金の光に包まれながらゴブリンキングの戦う見慣れた人物――私の姿だった。


「そ、そうだね。確かに私だよ」


「やっぱり!! この前偶然見つけて見覚えのある顔がいるな~って思ったんだよ!! すごいじゃん小花、今じゃ時の人だよ!!」


「時の人って、そんなことないよ~。ちょっとバズっただけだし、どうせすぐに皆飽きるだろうし~」


「それこそ、そんなことないって! 今日だって街歩いていたらこの動画の話してる人けっこういたもん!」


「ほ、ほんとうに~~?」


 こうして誰かから自分の動画の話を聞くと、本当に有名人にでもなったような気分になってくるなあ…………はっ!? いけないいけない。この前調子には乗らないようにするって宣言したばっかりなのに!


「ま、まあ確かにちょっと有名になったかもしれないけどね? でもまだまだチャンネル登録者とか少ないし、もっと頑張らなくちゃだよ!」


「おお~、さすが小花だ。真面目で向上心が強い。ていうかさ、配信のアーカイブ見たけど、結構危ない場面多くなかった? 友達が有名になるのは嬉しいには嬉しいんだけど、ちょっと心配だよ?」


「うん、前回の配信は自分でも良くない場面が多かったなって思ってる。だから次はああならないようにちゃんと注意を払いつつ、しっかり特訓して身の丈にあったダンジョン配信をしてくつもりだよ。まあシーカーやってる以上、絶対に安全とは言い切れないんだけどね」


「ふ~ん、まあ、そうだよねぇ」


 そっか、あの一件でさっちゃんにまで心配をかけてしまっていたのか。

 やっぱり気を引き締めないといけないねっ。


「小花はさ、パーティーとか組まないの?」


「パーティー?」


「シーカーってさ、何人かでパーティーを組んで協力してる人たちもいるんでしょ。小花みたいにソロで挑戦し続けるんじゃなくて、そっちの方が何かあったときに助け合えるからいいと思うんだけど」


「パーティーかー……ほら、私って配信者やってるじゃん。パーティー組むってなると必然的にその人たちも参加することになるでしょ? そうなると色々面倒だなって思ってあまり考えてなかったんだ」


「ああ、それもそうかも。そっかー、いい考えだと思ったんだけどなー」


「心配してくれてありがとう! やっぱりさっちゃんは優しいなー」


「よせやい! 褒めたって一口ぐらいしかあげないぞ!」


 学校が休校になってから久しぶりの友人との再会を楽しんで十分にリラックスすることが出来た。と言ってもLIMEとかでは普通にやり取りしてたんだけど。


 さっちゃんとはそこで分かれて私はもうちょっとだけ街をぶらぶらしてから夕方ぐらいに家に帰った。

 ちなみにさっちゃんは早速チャンネル登録してくれたらしく、誇らしげに登録済みの画面を私に見せてくれた。嬉しかった!


 明けて翌日――


 今日はいよいよゴブリンキング戦以来の初めて配信をする日だ。


 SNSでも配信の告知はしておいたし、反応もこれまでには無いぐらいそこそこあった。登録者が急増して以降初の配信……これまでやってきた配信とは別の緊張感を感じる。

 

 やばい、背中とか掌に変な汗かいてきた……


「ふぅ~……よしっ!」


 配信を開始する。


 するとすぐに同接人数のカウントが上昇するのが見えた。


「みなさんこんにちは~! ダンジョン配信者の『田中花子』です~!」


:こんにちは~~

:本当に田中花子だった

:もう少しましな名前はなかったんかwww

:こんちは~~

:どうもどうも

:お、本当に動画の子だ!


「お、思った以上の反応!? あ、みなさん来てくださってありがとうございます! 初めまして、田中花子です!」


:自己紹介2回目やで〜

:強調される田中花子っ

:花子ちゃんかわいいよ〜〜


「……っ!?」


 これほどの視聴者が集まった経験がなかったから、頭が処理落ちしそうになっている。


 こ、こんなの本当に人気配信者みたいじゃないかっ……!


:お〜い、大丈夫か〜?

:なんか固まってね?

:ものの見事にフリーズしておる

:なるほど、同接が思ったよりも多くて驚いたとみえる

:あー、アーカイブ見た感じ0人がデフォとかだったもんな

:確かにそれがいきなり50人とか集まったら驚くか


「ご、ごじゅうにん!?」


 混乱する頭で同接数を確認すると、確かにコメントで言われた通り50人を超えていた。しかも最初よりも勢いこそ衰えているものの、まだカウンターが動いて少しずつ増えている。


「信じられないっ…………」


:現実を見ろ

:それよりも今日の配信はどこでやってんの?

:見た感じ開けた場所のダンジョンか?

:進めて行こうぜ~~

:おちつけ、おちつけ


「はっ!? す、すみません。あまりの出来事に思考回路がショート寸前でした。えっと、なに話すんだっけ!? そ、そうだ今日のダンジョンの説明だ……!」


 すぐに真っ白になろうとする頭と拍数を上昇させる心臓をなんとか抑えつけて話を進める。


「もう気づている人もいるみたいですけど、今日来ているのは都内にあるフィールド型ダンジョンの一つです。あ、念の為に説明しておくとフィールド型ダンジョンというのは、ここみたいに階層一つが丸々吹き抜けで開けた空間になっているダンジョンのことを言います。その中でもここは、荒野が広がっているタイプですね」


:説明たすかる

:知らんかったから助かった!

:また珍しいタイプのダンジョンに来たもんだ

:確かに荒れ地って感じだな。周りに何にも無い

:こんな辺鄙な場所もダンジョンにはあるのか


 カメラが映しているダンジョンの景色は、赤茶けた剥き出しの地面とゴツゴツとした岩、そして点在する岩山になっているだろう。ここは荒野の言葉通り、植物なんてほとんど生えていない土と岩の世界なのだ。


「それでえっと、何で今日はこんなダンジョンに来たかというとですね。実はこのダンジョンの宝箱から出てくる物の中に前から一つ欲しかったものがありまして。それを探してダンジョンを巡るのが今日の目的です! 途中でギルドで受けた依頼にあるモンスターも何体か討伐していければと思っています!」


:なるほどね

:りょーかいだよ

:欲しい物ってなに?

:宝箱探しか、これは耐久になりそうな予感


「欲しい物とかは歩きながら話していきますね。他のコメントもなるべく見られるように頑張りますっ! それじゃあ行きましょうっ!!」


 ゴブリンキング騒動から明けて初配信。


 想像以上の視聴者が集まった、人生初となる視聴者十人以上を抱えた配信が始まった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今日は遅れずに投稿することが出来ましたっ!!本当に良かった!!

と、今日はこんな感じでした。また明日、続きを更新するのでお楽しみに!


また読んでいて面白いや続きが読みたいと思ってくださったら、ぜひ★評価といいね、感想などを送ってくれる嬉しいです! よろしくお願いします!

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