第4話 輝く黄金の剣

お待たせしてすみませんでした! 

更新します!!

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「ふ……ふっ……!!」


 全速力で家からダンジョンまでを駆け抜ける。シーカーとしての身体能力をフルに発揮すれば、今の私なら車より早く走ることぐらい訳ない。


 それでも中途半端に遠い目的地のダンジョンまでは、どれだけ急いでも十分近くかかってしまう。


「くそっ、四階あたりで止めておけば……!!」


 今更後悔しても、事は既に起こってしまっている。


 相手もシーカーな以上、ダンジョンでの出来事は自己責任だ。故に自分がこうして必死に助けに行く必要だって無い。


 だがしかし、明らかに初心者である彼女を自分は止めなかった。先輩シーカーとしてほどほどのところで引くことを教えるのも自分の務めのはずだった。


 ……にも拘らず、あの黄金の剣――あれの力を見たいがために、進み続ける彼女を止めることをしなかった。


 ――これは私の失態だ。


 彼女の配信を見たのは本当に偶然だった。


 都内で大規模ダンジョンハザードが起こったその日、私は地方のダンジョン攻略のためにその場にいなかった。普段は都内のダンジョンを中心に活動していたのだが……本当にタイミングが悪かった。


 そんな時に都内でダンジョンハザードが起こったとの急報が入り、現地の様子を映す報道やダンジョン配信者の配信を見ていた。

 その時に見つけたのが彼女の配信だった。ダンジョンハザードという災害が起こっているにも関わらず、呑気にダンジョンの攻略配信なんてしていたので思わず「嘘だろ!?」と思って配信を開いてしまった。


 あの時はその場限りの付き合いになるだろうと思っていたが……偶然にもまた彼女が配信しているのを見つけた結果がこれだ。


 明らかに初心者であろう彼女がゴブリンキングを倒すのは――まず無理だろう。


 偏にゴブリン種といっても、ただのゴブリンとゴブリンキングでは強さの格が違う。普通のゴブリンが百匹集まったとしても、たった一匹のゴブリンキングに及ばない。


 その強さは初心者の壁と言われるオークと比べてもなお格上なのだ。


 街並みを下に見ながら全速力で駆け続け、やはりおよそ十分後にダンジョンに到着した。彼女がいるのはここの最下層である五階。普通に進んで行けば時間がかかることは必至だが……


「身体強化――『加速』」


 シーカーはダンジョンでこそ、

 その力の真価を発揮する。


 次の瞬間、私の身体は風となった。


 地上では使うことが出来なかった力がダンジョンでは制限を受けることなく使うことが出来る。それはスキルしかり魔法しかりである。


 一階、二階、三階、そして四階を一分とかからず突破して五階に繋がる階段の前までやってくる。

 ボス戦の最中は中から脱出することは出来なくても、外からなら入ることが出来る。稀に例外的なダンジョンも存在するが今回は――そちら側ではなかった。


「待ってて……!」


 下からは何の音も聞こえてこない。


 まだ無事に逃げ回っているのか、それとも既に決着が着いているのか……

 

 もし決着が着いているのだとしたらその結果はほぼ見えている。


 そんな不安を抱きながら階段を降りた先で見た光景は――


「……は?」


「皆さん、応援ありがとう〜! 無事に倒せました〜!」


 私の予想を完全に裏切る光景だった。


 五階で、唯一無事に立っているのは自分が死ぬほど心配していた彼女だけ。

 ゴブリンキングはといえば、彼女の足元で既に事切れているではないか。


 何が起こっているのか分からないけど、状況からして彼女がゴブリンキングを討伐したのは間違いないだろうが……そんなことが可能なのか?


「あり得ない……」


「あの……もしかして、あのコメントの人だったりしますか?」


「っ!!」


 頭の中が混乱していた私は、そう彼女に話しかけられて心臓を跳ねさせた。





 唯一の視聴者だった人が謎のコメントを最後に返信が途絶えた直後、ゴブリンキングは呼び出した沢山の手下をけしかけてきた。


「「「「「「グギャギャッ!!!」」」」」」


「こっち来ないで~~~!」


 ゴブリン一匹一匹の強さはここまでに出てきたのとそう違いはない。それに同時に複数体と戦うのもここにくるまでにだいぶ慣れた。


 でも、ゴブリン軍団は倒しても倒しても次から次へと湧いて来る。


 もう正直泣きそうな気分だった。

 というか半分ぐらい泣いていた。目の端からは汗なんだか涙なんだか分からない液体が流れて頬に伝っている。


 先日までの自分だったら、もうとっくに物量に押しつぶされていたと思う。


 ここまで待たせることが出来ているのは、一重にこの黄金の剣のお陰だ。

 軽いから長時間振っていても疲れにくいし、そのくせ攻撃力は信じられないぐらい高いからゴブリンが十把一絡げにまとめてぶっ飛ばされる。


 それでどうにかこうにか凌ぐことが出来ていたんだけど――


「……ゲギャ!」


「え、なに!?」


 沈黙を保っていたゴブリンキングが、いつまでも倒されない私に痺れを切らしたのかゆっくりと動き出す。

 玉座の傍に立てかけてあった、名前は分からないけど菜切り包丁を巨大にしたような剣?(ホラー映画で殺人鬼が持っていそうなやつ?)を手に取って立ち上がった。


「あれはヤバいあれはヤバい……!!」


 見た目の凶悪さから思わず声に出してしまったけど、あれは本当にヤバい。

 前に戦ったオークの棍棒も強そうだったけど、それが刃物に代わるだけで迫力が段違いだ。それだけじゃなくて、あの大きな剣で斬られたら間違いなく真っ二つに……想像するだけでも恐ろしいっ!?


「ゲギャッッ!!」


「っっっ!!!?」


 ゴブリンキングが何故かその場で剣を振り被る。それなりの距離もあって当たるはずもないのに、その姿を見た瞬間背筋が寒くなるのを感じた。何故か分からないけどこのままじゃ不味いと思い、飛ぶように横に転がる。


 それとほぼ同時にゴブリンキングが剣を振り下ろした。


「「「「「「グギャギャ!!?」」」」」」


 振り下ろした剣の先、その延長線上にいたゴブリンたちがまとめてバラバラになる。一瞬後、その直線状の壁にもの凄い音とともに亀裂が入った。


「…………」


 その光景を見て唖然とする。


 どうやったのかは分からないけど、飛ぶ斬撃のようなものを放ったらしい。もしあのまま何もせずにあそこに立っていたら――


「っ……」


 ……考えるのはよそう。足がすくみそうになる。


 馬鹿な話かもしれないけど、私はここ最近で自分が『死ぬ』という感覚を二回も体験していた。


 一度目はダンジョンハザードの日。

 オークの棍棒が目の前に迫ったあの瞬間。


 二度目は今この瞬間。

 戦闘態勢に入ったゴブリンキングの正面に立ったとき。


 ……私はこの場から生きて帰れるのだろうか?


 本当に、ほんと~に!今更なんだけどそんな考えが頭を過った。

 そういえばあの視聴者さんがひょっとすると救助を呼んでくれたかもしれない。確か十分って言ってたっけ? でもあれから何分経ったんだろう……? 

 戦っている間に完全に時間感覚を無くしてしまって、まだ数分しか経ってないのかそれとも一時間以上経っているのかすら分からない。


 ゴブリンキングはもう配下には任せておけないと言いたいのか、新たにゴブリンを召喚してはいない。

 それでも気持ち的にはさっきまでのゴブリンラッシュの方が遥かに気楽だった。

 例えゴブリン百体とゴブリンキング戦う方を選べと言われれば迷いなくゴブリン百体を選択するぐらいには。


 それだけ目の前のゴブリンキングから感じる圧力的な何かが凄かった……


 そんなことを考えた始めたときだった。


「え……?」


 突然、握りしめたままの黄金の剣が光りを放ち始めた。


 その光は一見すれば眩しいようにも感じるけど、でも見続けていると落ち着いた気分になるような不思議な光。


 それを見て、私はあの日の出来事を思い出していた。


「あ……」


 そうだ……オークに止めの一撃をさされそうになったあの瞬間、

 今と同じようにこの剣が強く光ったんだ。そしてオークの上半身を消し飛ばすのと同時にその輝きは無くなったんだった。


 あの瞬間の出来事が衝撃的過ぎたのか、剣に起こった現象がすっかり頭から飛んでいた……


 剣から発せられる黄金色の輝きは、剣だけでなく私の身体までをも包み込んでいく。最初は直接剣を握っている腕から始まって胴体、頭、足――と徐々に全身に広がっていく。

 そしてあっという間に、私は全身に黄金の光を全身に纏っていた。


 ――何これ、凄い……!!


 それと同時に感じたのは、お腹の底から溢れてくる大きなパワーだった。

 まるで今なら何でも出来てしまいそうな、そんな万能感が溢れてくるこれまでに体験したことのない感覚。


 さっきまであんなに怖かったはずのゴブリンキングが今はちっとも怖く感じない。むしろなんであんなのを怖がっていたのか?と、疑問にすら感じてしまっている自分がいた。


:おお、何だコレ!?

:いまきた。これどんな状況!?

:おぉ、何と神々しい……

:こんなスキルあったっけ?魔法か?

:相手ゴブリンキングじゃん!勝てるの!?

:がんばれ~


「……え? ええぇ!!? な、何でこんなに!!?」


 ふと、視界の端で何かが動くのが見えた。そっちにちらりと視線を向けると、さっきまで微動だにしなかったチャット欄に次々とコメントが書き込まれている目に入った。

 ダンジョン配信用に調整された特殊なコンタクトレンズを通して、リアルタイムで私に配信に書き込まれているチャットを見ることが出来る。それが見たことのない勢いで動き始め、視聴者数を確認すると――


「えっ……うそ!? 同接85人!?!? 二桁超えたの初めて!! ありがとうございます!!」


:ここまで喜んでもらえると気分いい

:見に来てよかった

:この子が例の子か

:今はダンジョン配信者なんて吐いて捨てるほどいるからな~

:随分と派手な武器を使ってる。戦闘スタイル変えたのか……?

:というか前!! まずはモンスターに集中して!!

:モンスター来るよ!!


「あ、そうでした! えっと、取り合えずなんかいけそうなので、頑張ります!!」


:がんばれ~!

:がんばれ!!!

:がんば!

:頑張って!!

:がんばれ~~~!!!!


 この光が何なのか正直よく分かんないけど――今はそんなこと考えてる場合じゃないっ!!


 こうして来てくれた視聴者たちに私があのゴブリンキングを華麗に倒す姿を見せて、チャンネル登録をしてもらうチャンスなんだからっっっ!!!


 謎の光による万能感とかつてない程に集まった同接人数……これらは私のテンションをあっという間に頂点まで押し上げた!

 そしてまるでそれに応えるように黄金剣の輝きが強くなる。あの日、オークと戦った時とは比じゃないぐらいの力が湧き上がってくる!!


「いくぞ!!!」


「ゲギャギャッッッ!!!」


 守るだけじゃアイツは倒せない。だから自分からどんどん攻めていく。


 接近しようとする私にゴブリンキングは飛ぶ斬撃を放ってくるも、攻撃の方向は常に直線的だから避けることぐらい出来る!!


 そして私の剣が届く範囲にまで近づけたので剣を振り被り――直後、お互いの武器が激突する。


 圧倒的なまでの体格差がある私とゴブリンキング。 

 鍔迫り合いになれば身体もパワーも小さい私が負けるのは必然――そう思われたが、実際に起こった結果はその必然を覆す。


 競り勝ったのは、私の方だった。


「ゲギャッ!!?」


「このまま押し切りますっ!!!」


 ゴブリンキングの大剣を受け止め、そしてその状態から更に押し込んでいく。

 すると相手の大剣は抵抗もそこそこに、まるでバターを切るみたいに切断された。守るものが無くなったゴブリンキングがしどろもどろな動きをし始めるも、周りにはもう配下のゴブリンはいない。


「これで――どうだっ!!!」


 私はもう一度剣を大きく振りかぶり、そして武器を失い無防備になったゴブリンキングにそれを振り下ろした。


 断末魔を上げる暇もなくゴブリンキングは縦に両断され、ドシンッと重そうな音をたてながら地面に崩れ落ちる。


「か……勝ちました!! 皆さん、私勝ちましたよ~!!」


:おお~、凄いじゃん!

:ゴブリンキングを倒すとか普通に凄いぞ!

:めっちゃカッコよかった!!

:正面から真っ二つとかどんな力してんだよ……

:凄い! 凄い!

:お疲れ~~~

:おつかれさまです!凄かったです!


 カメラに向かって勝ったことを宣言すると、また勢いよくコメント欄が流れていく。確認すると同接数は……なんと新記録である101人を記録していた!!! ついさっきまでは三人すら集めるのに四苦八苦していたのに三桁突入!!!


「皆さん、応援ありがとうございました! 無事に倒すことができました~!」


 同接の新記録達成と超強力なモンスターを倒したことで浮かれていると、いつの間にかもとに戻っていた階段の前に人が立っているのに気が付いた。


 誰だろうと思っていると、その人は私と同じ女性シーカーのようで唖然とした様子でこっちを見ている。

 少し考えて、もしかしてという可能性が思い浮かんだのでおそるおそるその人に話しかけてみる。


「あの……もしかして、あのコメントの人だったりしますか?」


「っ!!」


 突然声を掛けて驚かせてしまったのか、肩をびくりと震わせた。

 そして少ししてからゆっくりと頷いた。


「あっ、すみません配信中で。あの、すぐに切りますね……そんな感じで今日の配信はここまでにしたいと思います! もし今日の配信を見て楽しいと思ってくれれば、また見に来てくれると嬉しいです!! あと、高評価とチャンネル登録もよろしくお願いします!! それじゃあ――」


:おおう、突然終わるな

:なんだ?凸か?

:大丈夫か?ヤバいのが凸に行った?

:いや話しぶりからして知り合いっぽい感じ?

:ん、というかあれって……

:え、マジで?

:何であの人がここに!?

:うそ、あの人って――


 視聴者の人達には申し訳ないけど、配信の許可も取ってない人を映す訳にはいかないので急いで配信を切った。最後に何か気になるコメントが見えた気がしたけど、もし次回も来てくれる人がいたらその時に聞けばいいや。


「あの、配信切りましたからもう大丈夫です!」


「いや、別にそんなに慌てて切らなくてもよかったのに」


「いいんですいいんです! それよりも、あなたがこの前のダンジョンハザードの時から見てくれてた視聴者さん……でいいんですよね?」


「ああ、そうだよ。来るのが遅くなってごめん……といっても、別に私の助けなんて必要なかったみたいだけどね」


「そんなことないです! まさか本当に来てくれるなんて驚きましたけど嬉しいです! それにしてもあなたも探索者だったんですね~……何となくダンジョンに詳しいなあとは思ってたんですけど」


「まあね――と、少し話もしたいしまずは上に戻らない? こんなところで話すのもなんだし」


「あ、そうですね。じゃあ取り合えず外に戻りましょう!」


 思わぬ強敵との戦いも何とか乗り越えてシーカーとしても配信者としても何だか成長したような気がする私。

 そして今度はなんと自分の配信を見てくれていた視聴者さんと初めての邂逅を果たしたのだ。つまりこれって……オフ会ってことだよね!


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いかがでしたでしょうか? 

ここまで読んでくださってありがとうございます!


読んでいて面白い、続きが読みたいという風に感じて下さったらぜひ!★評価と応援(♡のやつ)をしてくれると嬉しいです! あと感想もお待ちしております!

次回は明日の更新になりますので、ぜひともお楽しみに!!

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