2話 不可出の森

「能力者か。」

「あ、はい…あの…どう説明すれば良いのか…」

「焦らなくていい。まずは『こんなことが出来る能力だ』と簡単に言うのが良いよ。」

そう聞き、リエラは深呼吸をした。

息を吸い言葉を吐き出す。

「本を操ることができます。操ると言っても中の物を取り出したり特別な力を使うことができるってことなんですが…」

「ふむ…」

「強力だったりデメリットのあるものは魔力消費も大きくなります。」

「となるとダメージもだが魔力切れもあって息も絶え絶えだったわけだ。しばらく休んでいくといい。魔力切れになるとなかなか回復しないからね。」

「でも私には時間が無くて…!」

立ち上がり震える声を張るリエラ。静かに張り詰めていた空気が切り裂かれる。

「はいそうですか、って店から放り出せと?そんなに急いでいるなら 医者を紹介するよ。」

棚をするりと開け髪と鉛筆を取り出し、症状と名前、自分の名前をカリカリと書き封筒に詰める。もちろん本人証明の印も押して。

「出来た。辺鄙な所に住んでいるが一緒なら迷うことも無い。」

鍵を閉めるよ、と続け2人で外に出る。

〔営業中〕の札を〔閉業中〕に立て替え、冬鷺が先導して歩みを始める。

「あの」

「ん?」

「何故時間が無いのかとか聞かないんです…?」

「特に知らなくてもいいことだからね。香琴堂への依頼となれば話は別だが。」

「そうですか。」

「それとも聞いて欲しいのか?」

「いえ…」

そんな事を話していると2人を迎えるかのように森林が目の前に迫ってきた。

鬱蒼としていて霧が出ている。枝が落ちれば鳥が羽ばたき小動物が駆け巡る。

「さあ着いた。ここは竹林と森林が合わさっている珍しい場所だ。目印など役目を果たさず、迷えば潜む何かに餌食になるだけの地。」

「あぇ…平気なんですか?」

「大丈夫。茸や筍を採りに良く来るから歩き方は覚えている。行けるかい?」

リエラはこくりと頷き冬鷺の袖を握った。落葉を踏み締め、しゃくしゃくと2つの足跡が刻まれていく。

「この森はいったい…」

「魔法の森、迷いの竹林、賢者の霧林きりばやし、暴食の地…人によって名前が違う。正しい名前なんて今や誰も覚えちゃいない。」

「そんな場所にお医者様が?」

「医者と言うより…奇人。勝手に医者と呼んでいるだけだ。彼女以外に僕を治療できる人が存在しないから。」

「…貴方、何者?」

「ただのしがない何でも屋さ。ほらもう見えてくるよ。」

森の中に確かに建っている屋敷。そこだけはこの世ではないかのように鮮やかに翠が映えている。

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