9
好美は隠れるように、安藤から距離を置いた。
車椅子には、やつれた女性が座っていた。
その女性に優しく話しかける安藤。
その日はいつにも増して優しい笑顔をしていた。
バイトでの笑顔の安藤。
学校での無邪気な表情。
そして女性に向ける優しい笑み。
好美はいつしか、安藤の魅力に引き込まれていた。
自分には無い物を持っている安藤。
怨みの感情からでは無く、純粋に羨ましく見えていた。
「もしかして?相田さん?」
ぼうっと眺めていた好美は、安藤に気づかれた。
視線をそらす好美。
そこに駆け寄ってくる安藤。
「こんにちは。相田さん、どうしてここに?」
「私は……別に……」
好美は、言いよどんだ。
休みの日も、ここに来れば安藤がいるかもしれないと思って来ていた事を言えるはずも無かった。
「相田さん、紹介するね?私のお母さん」
「は…初めまして」
好美は促されるまま、安藤の母親に頭を下げた。
安藤は、車椅子の女性を紹介した。
やつれてはいるが、安藤に似た綺麗な笑顔をする母親だった。
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