第2話
アキトは、そう話すと、飲み干したグラスをじっと見つめていた。
「それで。お前はどうしたいんだよ」
店主は、優しくアキトに問いかける。
「それがわからないんだよ」
アキトは微かに震えている。
田舎の普通の高校生には、そう簡単に割り切れる問題でもないのだろう。
相手の親の事。
急な引越しの事。
店主は、そんな少年にどんな言葉をかけて良いか考えていた。
純粋に恋をし、現実に苦しんでいる少年にかける言葉は責任重大でもある。
「とりあえずよ。お前はその噂を聞いても、引越しする事を知っても、ユキちゃんの事が好きなんだろ?」
店主は、そんな少年に答えるには、まっすぐに話しをする事を選んだ。
せめて、後悔だけはしないようにと話しをはじめた。
「もちろん」
うつむいていた少年は、まっすぐ純粋な目で店主を見つめた。
店主は内心、そんな少年の姿がとても眩しく尊いものに見えた。
「それなら、お前の答えは決まってるだろ」
店主はカウンターに両手をついて、まっすぐアキトにむけて話した。
「でも。。。」
アキトが話そうとすると、店主はすかさず話しを続けた。
「まあ聞けって。これはあくまで俺の持論だが、恋愛は楽しくあるべきだ。でも、その先にはもう一つの覚悟がいる。お前にわかるか?」
「覚悟?」
アキトは、真剣な眼差しで店主の話しを聞いている。
まいったなと少し思いながら、店主は話しを続ける。
「例えば結婚だったり、その人と最後まで添い遂げる気持ちがあるなら、幸せを願うだけじゃだめだ。共に地獄に落ちる覚悟がいる」
アキトは、そんな店主の話しに、どこか何を言っているんだという顔で聞いている。
「まあすぐにはよく分からないだろうけど、幸せになりたいと願うのは当然。だけど長い人生、それだけじゃ足りないんだよ」
アキトは、少し考えてから、店主に質問を投げかける。
「それが今の自分と、何か関係あるの?」
店主は、そんなアキトの質問を聞いて、にっこりと笑う。
予想していた通りの疑問だったからだ。
「そう思うよな。簡単に言えば、そんな程度で悩んだりするぐらいなら諦めろって事だ」
「諦めたわけじゃない。どうして良いか分からないんだよ」
アキトの反応は、とても素直なものだ。
青春の真っ只中、店主にもどこかそんな思い出と重なる。
高3の時期、多くの選択や葛藤が生まれる。
ほぼ大人でもあり、まだ子供でもある。
そんな少年の真っ直ぐな思いに、どこか力を貸してあげたいと思うのは必然だろう。
店主は、そんな幼く真っ直ぐ悩む少年の思いに真剣に答えていく。
「俺が今から話すことは、多分常識とはかけ離れていると思う。それでも聞くか?」
店主は、そうアキトに伝える。
「もちろん聞くよ」
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