第3話

そんな気持ちの中で見た、あの映像は今でも私の中にこびりついています。

私の職場には、テレビが設置されています。

そこに映し出された映像は、今でも現実だと思えないのです。

お昼休みを終え、午後の仕事が回り出した直後でした。

見なれたワイドショーです。

いつもはBGMがわりのテレビに映し出されたのは、あの日の悲惨な事故現場です。

かなりの距離を暴走した車。

そして、その現場は私もよく知る場所でした。

かなりの数の重軽傷者と、親子と思われる意識不明の方がいると。

テレビには、事故の恐ろしさを物語るボロボロの車が映し出されていました。

事故に遭われた方や、他の部分にはモザイクがかかっていました。

私は、凄まじい胸騒ぎに襲われたのです。

そこは、事故が起きた数分前に妻が息子達と居た場所だからです。

酷いと思われるかもしれませんが、その時の私は、どうか私の家族じゃなければ良いと願っていました。

気がつくと、必死に妻の携帯に電話をしていました。

電話は虚しく、留守番電話にしかなりません。

何度も何度も何度もかけました。

数は覚えていません。

同僚に声をかけられた事すら覚えていないのです。

その後、私は自分がどうしていたのかすら思い出す事が出来ないのです。

覚えているのは、私の手は震え続けていた事だけです。

今でも、信じる事が出来ないのです。

妻と子供達の寝顔を。

冷たく、動く事がないのです。

私は、何度も思ってしまいました。

なんで私の家族がと。

恐ろしい考えだと分かっています。

それでも考えてしまうのです。

なんで私の家族なんだと。

他の誰でも良い。

もちろん私でも良い。

私の家族以外であれば。

涙すら流れないのです。

分かっています。

理解しています。

けれど、涙が出ないのです。

私の心が拒否をしているのです。

認めてしまう事を拒んでいるのです。

私の全てだったのです。

私のちっぽけな人生の中で、唯一の誇れる宝物なのです。

私は、自分を恨んでしまうのです。


私のような人間と出会ってしまったからなんじゃないかと。

私のような人間なんかと出会ってしまったせいなんじゃないかと。

私のような人間が、こんな幸せを感じてしまう事が罪なのかと。


後悔しかないのです。

私はいつしか当たり前になってしまっていたんじゃないかと。

私には、出来すぎた人生だったんじゃないかと。


もっと。もっと。もっと。もっと。


私には出来る事があったんじゃないのかと。

私は、そんな自分が許せないのです。


私みたいなちっぽけな人間には、もう生きる意味すら分からないのです。

私はあの日から、静かな部屋でただただ時を過ごしていました。

そんな時でした、あなたがテレビに映し出されたのです。

私の家族を奪ったあなたがです。

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