第2話
私は、何かを偉そうに語れるような、立派な人間ではありません。
とてもダメな人間です。
そんな愛情の中で育っていたのに、それを理解できず、反発をしながら身を滅ぼすような日々を送っていました。
何をしても上手くいかず、自暴自棄になっていた頃もありました。
もうどうでも良いやと、人生に投げやりになっていた時、妻は私の前に現れたのです。
生きる意味も理由も、何も見出せずにいたあの頃の私に、妻は何かをするわけじゃなく、そっと寄り添ってくれていたのです。
あのままの私なら、きっと今もこうして生きている事はなかったかもしれません。
それほど大きな存在です。
暗く、先の見えない日々の中にいた私に、とても暖かい家族を与えてくれたのです。
何気ない日々が、どれほど尊く、大切なものかを教えてくれたのです。
それだけでも、私はとても幸せで、満足な日々でしたが、幸せはさらに続くのです。
あの日、父が最後まで会いたかった息子との日々です。
それはそれは騒がしい日々でした。
私なんかより、妻はもっと大変だったはずです。
私は知りませんでした、赤ちゃんのうんちがあんなに臭い事を。
お風呂に入れる事も、あんなに緊張するとは思ってもいませんでした。
すやすや眠る息子の顔を、何時間でも見ていられる事を。
パパと初めて呼ばれた時、今でも覚えています。
これほどの幸せがあるのかと。
どんどん成長する息子の姿が、私の最大の楽しみになりました。
私の母が、初めて私を保育園に預ける時に、心配で心配で遠くから一日見ていた話をされた事を思い出しました。
そんなバカなと笑っていましたが、初めて保育園に送って行った時、私は離れる息子を見ながら泣いてしまっていました。
家に帰ると、息子が駆け寄ってきて、抱きついてくる瞬間、私の悩みや疲れなんて一瞬で吹き飛ばしてしまうのです。
いつしか息子はもう一人増えました。
そして私は知りました、幸せは二倍ではなく何倍にも膨れ上がると。
もちろん、大変さも何倍にもなります。
それでも、そんな大変さなど吹き飛んでしまうのです。
特別な事なんて必要はありません。
笑って泣いて、時には悲しんだり。
何度でも思います。
何気ない日々が、私にとっての幸せの形なんだと。
私のようなものに、こんな日々が訪れて良いのかと、何度も噛み締める日々でした。
だからこそ思うのです、あの頃の父もこんな気持ちだったのかと。
この幸せのためなら、辛さなんてどうって事はないと。
見返りなんて必要もない。
すでにたくさんもらっているのだから。
私には、そんな父の背中を追うようにこれからの日々を送ろうと決意していました。
これ以上の幸せがあるのだろうか、そう思っていました。
妻から報告を受けたのは、そんな思いで日々を送っていた時でした。
妻の中に新しい命が宿っていたのです。
私は、心の底から感謝をしたのです。
お腹も大きくなり、我が家は三兄弟になる事が決まりました。
お昼休みに送られて来た妻からのLINEには、はっきりと男の子の証が写っていました。
今夜は、名前の相談をしようかなんて思いながら午後の仕事に向かったのです。
あの時の私は、これから来る想像するだけで幸せな日々に包まれていました。
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