第26話
思っていたのと全然違う。
グレンは私のことを大事にしないし、何より平民の暮らしって地獄。
自分で服を着替えなきゃいけないし、食べ物も手で掴んで食べている。
すごく汚い。
町はすえた臭いのする浮浪者ばかりだし、魔物の肉が店先で吊るされて売られていて野蛮だ。
なんでこんな場所に異動願を出したの。グレンの気を疑うわ。
グレンは数日家を空けることもあるし、二人でゆっくりする時間もない。
ひと月経って、我慢の限界がきた。
町で商人の男に声をかけられた。
若くてエネルギッシュなその男は、いろんな商品を王都から持って来て売る行商人だった。
金回りも良く、見た目も良かったし、なにより田舎臭くなかった。
話も面白くて気が合った。
この町で一番高いお店で、彼と食事をしてお酒も飲んだ。
少し相手をしてあげたら、王都で流行っている香水を私にくれた。
そして体を許したら簡単にお金が手に入った。
彼は元貴族令嬢の私を、王女様みたいに扱ってくれた。
「この町の娼館で遊ぶつもりだった。メリンダがそこで働けば、いつでも会いに行ける」
彼に娼館を勧められた。どんなところかだけでも見てみると良いと言われて案内された。
彼の知り合いがやっているらしいその店は、客を選べるという。
「気持ちいいことをしてお金をもらえるなんて、最高の仕事よね」
「ああそうだな。メリンダは借金があって働くわけじゃないし嫌ならいつでも辞めればいい」
浮気相手として貴族の既婚者を相手にしていたときは、ただでしてやった。
あのとき、一人ずつお金を取っていたら、どれだけ儲かったのだろう。
今更だけど悔やまれる。
私はグレンに働きに行くと言って、娼館で仕事をすることにした。
もちろん、貴族令嬢だったんだから、そこら辺の汚い男は相手をしない。
私は特別だ。客も選べるし、高額でないと体は売らない。
客たちからは王都の姫と呼ばれた。
男たちからちやほやされて、人気も出て、やり手の職業婦人みたいで楽しかった。
金勘定ができない馬鹿を相手にするときは、彼らを騙して高額を支払わせる。思い通りにお金が手に入る。
娼婦たちは小さな部屋に押し込まれるように寝てるけど、私は娼館の中に自分の部屋をもらった。
特別な娼婦にだけ与えられる部屋だ。だって私は貴族だったし、他の子と一緒になんて寝たくない。
身の回りの世話は娼館の中でも人気のないブスな子たちにやらせる。
娼館に身を売るような女は、みんな学がない。字も読めないし、契約書の内容だって理解していない。
見た目だけで頭空っぽの子を利用して、言うことをきかせるのは最高だった。
***
グレンは王都にいたときみたいに全然かっこよくなかった。
ここへ来てからの彼はただのオジサンだ。
私の客になったルーファスに愚痴を言う。
ルーファスは貸金業を営む中年の男だ。
「私に洗濯をしろっていうのよ、信じられないわ」
彼はむき出しになった私の腰を撫でながら話を聞いている。
「そりゃひでぇな。俺んとこに来たら下働きが何人もいるから洗濯なんてしなくてすむぜ」
ストレスが溜まっていたから、どんどんグレンの悪口が出てきた。
「使用人を雇っているの?」
「ああ。人には身分に合った仕事ってのがある。メリンダはベッドで俺を喜ばせてくれりゃあそれだけで十分だ」
この人の家で暮らしてもいいわね。話を聞いていると、かなり大きな屋敷に住んでいるようだ。
自分の馬車だってある。メイドや執事もいるのかもしれない。
「私は貴族だったから、普通平民とは寝たりしないのよ」
「そうだろうな。気品があるし、やっぱり貴族様は違うな」
ハハハと声をあげて笑う。
その姿は下品だけど、見ようによっては豪快で男らしい。
ルーファスはここに来る度、私に宝石をプレゼントしてくれる。
多分、金が返せなかった人たちから取り上げた宝石だろうけど、そんなことはどうでもいい。
石だけでも価値があるんだから、売ればお金になる。
「素敵な宝石よね、ルビーかしら」
「そうだよ。流石元貴族令嬢だな、物の価値が分かっているんだな」
「ええ。ジュエリーはたくさん持ってたから」
「俺んとこに来たらもっとたくさん宝石が見られるぞ」
ふふっ、と笑って私は彼の首に抱きついた。
「さすがルーファスね。誰よりも賢く稼いでるわよね」
「まぁ、男ってのは稼ぎがあってなんぼだからな」
賢いと言うワードは、この男が喜ぶ最高の褒め言葉だ。
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