第25話25~おまけ~メリンダ
~メリンダside~
ただの浮気相手だった。
グレンは体の相性が抜群に良いただの騎士だった。
私は若くて美しい貴族令嬢。
髪の毛を振り乱しながら毎日掃除洗濯食事の準備、必死に子育てして。使用人がすることを無給でやるだけの妻の肩書なんて私はいらない。
おいしいところだけ貰える、愛人という立ち位置は私にぴったりだった。
最初の結婚は何の面白みもない夫で、自分の家より爵位が高い伯爵家の子息だったから結婚した。
つまらなかった。
夫は夜の営みは下手くそだし、ワンパターンで刺激が足りない。
すぐに飽きた。
執事と関係を持ち、出入り業者の商人、庭師に手を出した。
お金を渡して口止めしたのに屋敷の使用人たちは皆知っていたようだ。
秘密だと言ったのに誰かに話したんだわ、馬鹿じゃないの?と思った。
夫とは私の不貞が原因で離婚になったが、噂になるのを恐れ浮気の事実は内々で処理された。
妻を下男に寝取られるなんて伯爵家としては恥でしかないもの。
一応形ばかりの慰謝料請求は男爵家の実家にあったけど、大した額ではなかった。
自分に魅力がないのが問題なんだし、夫側はそんなに事を荒立てたくなかったんだと思う。
それから、自由にいろんな男たちに抱かれた。
まだ若いし美人だ。私はどんな男からも求められ、人気があった。
ただ、グレンは私の魅力になかなか屈しなかった。
最初こそ『初めてだ』と言ったら、執拗に私を求めてきた。だけど、私が離婚し実家に戻ってからは、距離を置かれていた。
でも、他にたくさん男はいたし、火遊びを楽しみたい既婚者は後を絶たなかった。
そろそろ落ち着こうと思って久しぶりにグレンに声をかけた。
他の男たちと関係を切ったと言ったら、自分だけにするならと言われたから縒りを戻した。
グレンとはやっぱり体の相性が抜群に良かった。
懐かしい肌の感覚に夢中になった。
グレンの妻は、常に彼を独り占めしている。なんかムカついた。
たまにグレンの家に立ち寄ることがあると、わざと自分の持ち物を置いてきた。
それを発見した妻はどう思うんだろう。
そう考えると面白くて、なんだかスッキリした気分になった。
グレンは何年か離れていた間に、落ち着いた大人の騎士副団長になっていた。
日頃から鍛錬を重ねているからか、筋肉質でがっしりとしている。
何もせずに執務ばかりしている貴族たちの薄い胸板と比べると、グレンのそれは断然魅力的だった。
長く付き合っているから、彼の好みも知り尽くしていた。
グレンはあっさりした関係を好んでいたから、愛を求めるような発言はタブーだ。
たまにプレゼントをくれたり、旅行に連れて行ってくれるから、奥さんよりは愛されているのは間違いないだろう。
再婚が決まり、最後の逢瀬だからといってグレンと楽しんだ。
グレンの妻であるフレアから浮気に対する慰謝料請求がきた。
その請求は、ラングレー伯爵夫人が間に入っている。
うちは男爵家で、爵位が上の夫人から支払うように言われれば文句は言えない。
お父さんにはかなり怒られたけど、辺境伯との結婚も決まっていたから大人しく支払った。
けど、考えてみたら……
グレンがフリーになったってことよね?
私はハッとした。
辺境伯は私より20も年上の爺さんだ。正直、夜の生活なんてないに等しいだろう。
この先、辺境の地で爺さんと一緒に暮らし、相手が死ぬのを待つだけの生活なんて何の楽しみもないじゃない。
お金なんて腐るほどあったって田舎じゃ意味がない。
贅沢しても、誰にも自慢できないんじゃ面白くない。
それに、10年一緒にいたグレンと離れるのが悔しい。
また王都に帰ってきたら関係を再開できるだろうけど、爺さんがいつ死ぬのか分からない。
そう思うと、グレンが独身に戻った今がチャンスだ。
よくよく考えたら、今まで誰とも長続きしなかったのに、グレンとは10年も続いている。
私の一番になる相手はグレンしかいない。
お互いに好きだからこんなに長く関係を続けていたんだ。彼も気持ちは同じだろう。
何より、体が合うんだから言うことなしだ。
お金なんて今からいくらだって稼げるし、少しくらい貧乏しても構わない。
もしかしたら婚約破棄になるから辺境伯から慰謝料請求がくるかもしれない。
今度こそお父様は私を家から追い出すだろう。
だけど、貴族社会の付き合いは面倒だし、平民になったほうが楽かもしれない。
グレンは平民だから、身分差もなくなるし、噂とか体裁を気にせず自由に恋愛できる。
そう考えると、いてもたってもいられなかった。
お金になりそうなものを鞄に詰めて、私はグレンの元へ向かうことにした。
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