第20話グレン、ルナ、ゼノ
俺は、子どもたちと話をするために学園の近くに場所を借りた。巻き戻ってから5日目だった。
ルナとゼノは二人そろって、浮かない顔つきで静かに俺の前に座っている。
どうやって話を切り出そうかと思いながら、俺は子どもたちの様子をじっと観察した。
まずは近況からと思って口を開きかけた瞬間、ゼノが話し始めた。
「何度も父さんが刺される現場を見なくてはいけない俺たちの身にもなって欲しい」
単刀直入のゼノの言葉に、強い衝撃が胸の奥に食い込む。
確かにそうであろうとは思っていたが、実際直接本人たちに聞くとショックだった。
「……っ」
前回子どもたちと会ったのは、俺の最期の瞬間だ。
握りしめた手がブルブル震えた。
自業自得だとはいえ、やり場のない気持ちをどう処理すればいいのか分からない。
「すまなかった。お前たちにそんな力があったとは知らなかった。俺を何度も生き返らせてくれたんだな」
「目の前で死んでいく父親を見て、何もしないなんてできないでしょう」
ルナが、悲痛な表情でため息をつく。
「確かに……そうなのかもしれない。残酷な場面を見せることになった」
子どもたちは血に染まっていく俺を見て、時間を巻き戻したんだ。
繰り返し同じ状況を見なくてはいけなかった子どもの気持ちを考えると、深い絶望感に襲われる。
「俺達も、未来が変わることを願って何度も時間を巻き戻した。でも、毎回父さんは死んでしまうんだ」
子どもたちは自分が持っている魔力について話してくれた。
やはり時間を巻き戻していたのはルナだったらしい。
「私は『とき戻し』の魔法が使えるの。だけど、それは誰かの生命が絶たれた瞬間にしか使えない。しかも戻せる時間は長くて1週間が限界」
「俺は、アシスト魔力が使える。他人の魔力を増大させ強化できるんだ。強力な魔力保持者のバディになればかなり有利な魔力だ。だから、ルナのとき戻しの魔力を強化し時間を延長させた」
「ルナが、時間を戻し、それをゼノがアシストして俺の巻き戻し時間を一カ月に延ばしたのか……」
二人で力を合わせて、俺を生き返らせたんだ。
そう思うと胸が熱くなり、目の奥に力が入る。
「それが限界だったわ。それ以上前には戻せなかった」
「そうだったのか……すまなかった。精神的にキツかっただろう」
申し訳ないと子どもたちに深く頭を下げた。
今度、もし殺されることになったら、もう見捨ててくれと言いたかった。
だが、それは子どもたちに対して酷なことだろう。
最低で駄目な父親だったが、子どもたちは俺を生かそうとしてくれた。
ルナとゼノにとってはたった一人の血の繋がった父親だからだ。
贅沢な願いだが、この先も子どもの成長を遠くからでも見守り、応援していきたい。
ゼノは言った。
「父さんが一番守りたいものは何?」
それは、夫婦生活だと思った。
家族でこれからも一緒に生きていきたい。
「一番守りたいものは……」
フレアの夫であり、子どもたちの父親である自分?
自分を守りたいのか?……違う!
違うだろう。
俺は苦しそうに声を絞った。
「俺が一番守りたいものは……フレアだ。そしてお前たちだ」
そうだ。俺が守りたいものはフレア、ゼノ、ルナだ。
自分の地位や名誉や財産、体裁を守りたいんじゃない。
子どもたちは俺の目をまっすぐ見る。
まだ大人になりきれていない、子どもたちに課してしまった大義。
心苦しさで胸が締め付けられる。
「俺は、母さんに幸せになってもらいたい。それに、ルナやゼノ、お前たちにも幸せであってほしいと思っている」
……そうだ。
答えはそこにあったんだと思った。
俺が何度も命を落とした原因はメリンダだ。
だが、メリンダをそうさせてしまったのは俺だ。
メリンダを先に殺せば俺は死なないかもしれない。
だけど、そうじゃない。
俺は騎士だ。自分の犯した罪の償いは自分でしなければいけない。
愛されていると思っていた妻の愛情はとっくに冷めている。
これから再構築していきたいと願ったところで、何度繰り返しても無理だった。
もう、俺はとっくの昔にフレアから捨てられたんだ。
そう、あの日。
10年間浮気してたメリンダと別れた日、妻に捨てられた。
これから俺がすべきことは、ただひとつだ。
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