第19話グレン、ループ
俺は巻き戻った。
なぜかまた同じ時間、あのベッドでメリンダを抱いた最後の夜に。
それから俺は何度も同じ状況を繰り返すことになった。
何度巻き戻っても、どう対応しようとも結果は同じ。
一カ月後、俺はメリンダに殺された。
せめて最後の瞬間を子どもたちのいない状態で迎えたいと思った。
けれど、その考えもむなしく、何故か必ず子どもの前で殺された。
最悪な状態の父親の姿を最後に子どもたちに見せなければならない。その苦しみからは、どうやっても逃れられなかった。
5回目の巻き戻り、どうしてこうなるのかを考えた。何故、誰がこの状況を作り出しているのかを。
神の戯れか、それとも悪魔が俺を苦しめているのか。
俺に同じ状況を何度も体感させ、贖罪の日々を繰り返せということなのか。
俺はメリンダの横で目をさまし、首に巻きついてくる彼女の腕を払った。
「メリンダ、事後薬を飲んでくれ」
「え、なんでそんなにすぐに……?もう少し楽しみましょうよ」
俺は彼女に薬を手渡した。
そして、彼女が飲み干すのを見とどける。
前回も前々回も、メリンダに俺との関係は遊びだったと言い聞かせた。
彼女は必ず『当然よ、そんなこと分かっているわ』と繰り返す。
たとえ妻と離婚しても、メリンダと一緒になることはない。愛していないと告げた。
『私も再婚するのよ、馬鹿なことを今更言わないで』笑ってそう告げられても、結果は変わらなかった。
俺は5度目の今、ひとつだけどうしても確認しなければならないことを考えている。
まずは、フレアが寝ずに待っている家に帰り、繰り返したルーティーンをこなさなければならない。
俺は身支度を整えて、メリンダの離れを出た。
***
俺は今回も同じように、巻き戻ったあの日からフレアとは別居している。
5回の繰り返しで、どうすればフレアの気が紛れるか少しずつ学んでいった。
だけど最後まで彼女は俺を赦しはしなかった。
フレアにはもう愛がない。
5回の人生は、その事実を俺が知るのに必要な時間だったのかもしれない。
フレアはダイニングで椅子に座り、子どもたちの学費と寮費が書いた紙を俺に見せた。
今日は、今後の生活について話し合うため家に呼ばれる日だった。
「この先3年間子どもたちにかかる費用の内訳よ。寮費の中に、食費と雑費その他もろもろも含めているわ。ルナは特待生で学費免除が取れたけれど、来年はどうか分からないから免除分も費用として合計に入っているわ」
「ああ……結構高額だな。2人分だもんな」
これはフレアと今後の子どもの学費について話し合うルーティーンだ。
俺にとっては5回目。
「学費は全て俺の貯えから出してくれ。今後何があるか分からないから、フレアが今まで貯めた分は君が好きに使ってくれ。10年分苦労させて償いにはならないだろうが、せめて今後の君の生活資金に持っていて欲しい」
フレアは納得したように頷いた。
それも、同じだ。
「……わかったわ」
今回はここから本題に入る。
「すまないが、ひとつ、訊きたいことがある。父親として知っていて当たり前のことだったが俺は知らない。いや、話を聞かなかったから、分からなかったんだけど……」
「なに?」
「ルナは特待生として魔法学園に入学したと言ったよな……」
「ええ」
「ルナにはどれくらい魔力があるんだ?」
「ルナは膨大な魔力を持っているわ。そして、ゼノも魔力保持者よ」
やはりそうか……ルナには膨大な魔力があったんだ。
だがゼノも魔力があったなんて初耳だ。
くそっ!……なんで俺は今までそのことを聞かなかったんだ。
話に出なかったから、気にしていなかった。
ルナが魔力保持者であっても、きっと大した能力ではないと思っていた。
魔法のあるなしは、人によっては差別意識を生む。だからこの国ではデリケートな話題として扱われているものだ。
気を遣って話題に出さなかったのだろうか?
いや、家族間でそんな遠慮は必要ないだろう。
「それは、俺達よりも優れた魔力なのか?」
「まだ、勉強してこれから学んでいくからどうなるかは分からないけど。多分私よりは、はるかに高い能力を持っていると思う」
「そうだったんだな……」
俺がどれだけ子どものことを考えていなかったのかが明るみになった。
また反省材料が増えてしまった。
「急に子どものことが気になったのね。今までそんな話は一度もしたことがなかったのに」
「済まなかった」
俺はルナたちに会いに行かなければならない。
俺を殺すメリンダは魔力を持っていない。
今までの巻き戻りで、俺が殺されるとき必ずいた人物は子どもたちだ。
もし『とき戻し』の魔法を誰かが使ったとしたら、それは子どもたち以外には考えられない。
何度目かのループのとき『とき戻し』の魔法について詳しく調べた。
伝説の魔法だと言われているが、過去にはそれを使用した魔法使いがいたと記されていた。
その魔法は、使用した者と使われた人物以外は巻き戻ったことが分からないようになっていて、前回の記憶はその両者だけが持つと記されていた。
5回のループだ。
もし、ルナかゼノがそれを使ったとすれば、5回の記憶を子どもたちは持っているということになる。
「子どもたちと話をしなければならない」
「……そうね。今までしておくべきだったわね。今更だけど、子どもたちとちゃんと向き合ってきて」
フレアは多分、おれがループしていることを知らないだろう。
だが、子どもたちは知っているとすれば……
俺は二人の寮に連絡を入れた。
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