第21話グレン、フレア
【グレンside】
俺は王都を出立する朝、家で一人、メリンダを待っていた。
俺がメリンダに殺された理由は、あのときメリンダを選ばなかったからだ。
彼女の家に慰謝料請求がされたことにより、俺の妻に浮気がバレたのを彼女が知った。
不倫が妻の知るところとなったのだから、自分たちが別れる必要はないと思ったのだろう。
フレアが俺と離婚する。
メリンダは俺が離婚すれば、フレアの代わりに自分を選んでくれるだろうと思ったんだ。
遊びの関係が本気の関係になるはずだと信じて俺に会いに来たんだ。
彼女は俺を愛している。そして、俺からも愛されていると感じていた。
家族を蔑ろにし、メリンダを選んでいた自分の行動は、そう思われても仕方がないものだった。
あの後、ルナとゼノには、赴任地へメリンダを連れて行くと話をした。
だから、今回彼女に刺されるという事件は発生しない。
そして、子どもたちに、もう家には来ないでくれと頼んだ。
10年だ。
彼女と付き合って10年。妻を裏切り、ずっと関係を続けてきた。
その責任を俺は取らなければならない。
フレアを愛している。
メリンダに対して、そういった愛情はない。だけど、彼女の気持ちをもて遊んだのは事実だ。
メリンダには妻と離婚して、魔物討伐に激戦地へ向かうと説明する。
それでもいいなら付いて来てほしいと告げる。
彼女は貴族令嬢だ。
そんな生活は望んでいないだろう。
だけど、俺を殺してしまうほど好きなら、一緒に来るだろうと考えた。
討伐に向かう駐屯地には村や町がある。騎士団の本部もそこにあり、宿舎もある。
俺は宿舎に住むつもりだったが、彼女の為にアパートを借りようと思っている。
俺はメリンダとそこで暮らすつもりだ。
王都で副団長まで上り詰めた自分は、駐屯地でもある程度の融通はきく。
メイドは雇えないかもしれないし、贅沢はできない場所だろう。
それでも彼女が耐えられるのなら俺は彼女と暮らす。
「一緒に来るか?」
俺はメリンダに訊いた。
「ええ!そう言ってくれるのをずっと待っていたわ!」
彼女は勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべた。
嬉しそうにメリンダは俺に抱きついてきた。
「金はないから、贅沢はできない。だが、食うものには困らないようにする。家事は自分でしなくてはならないが、それでもいいか?」
「ええ。私も自分のお金も持って来ているから大丈夫よ。家事はしたことがないけど、これから覚えるわ。グレンと一緒に暮らせるのなら我慢する」
魔物討伐隊がいる為、町はある意味活気づいている。
ギルドもあり、外国からやって来た傭兵たちや、単独のパーティーもあり人が集まっている。
軍事景気とでもいうのか、娼館や飲み屋が軒を連ね、商店もある。
治安は良くないが賑わっているから、祭り好きのメリンダなら、暮らしていけるだろう。
「メリンダが俺と一緒にいたいと思っている間は、ずっと一緒だ」
「ええ!どんなに苦労したって大丈夫よ。愛があるもの。爺さんの辺境伯と結婚するよりよっぽど幸せだわ!」
そう言って彼女は俺の腕に縋りついた。
もう何度もメリンダに殺された過去が蘇り、触られると嫌悪感がわいてくる。
愛なんてものは微塵もなく、ただ、苦しい。
顔に無理やり笑顔を貼り付けて、俺はメリンダを連れて家を出た。
【フレアside】
最後まで最低な夫だった。
グレンは子どもたちと話をした数日後、気が変わったと言って、家を売りに出した。
私は以前から、離婚することを考え自分の住むアパートを借りていた。
だから問題はなかったが、まさにダブルバインド。
子どもたちが成人するまで待ってほしいという言葉はあっけなく反転し、すぐに離婚届を出すように言われた。
彼は身勝手過ぎだと思った。
グレンは10年間浮気を続けていたことに対し、反省し謝罪し床に手をついて私に謝った。
そして、家や貯金、彼の持っている物全てを私に渡すと言った。
自ら魔物最前線の地に赴任し、その給与を子どもたちの養育費として私の口座に振り込むという約束をした。
もし、職務中命を落とすことになったとしても、遺族年金の受取人は子どもたちにするという書類を騎士団に提出していた。それ以外に償う方法は思いつかないと言われた。
グレンの言う通りで、私もそうしてもらうつもりだった。
だけど、15年の夫婦生活に終止符を打つのがあまりにも迅速過ぎる。
彼にとってはこんなに軽く、簡単なものだったのかと思うと腹立たしかった。
そして私は、メリンダ様の男爵家から慰謝料の500万ゴールドを受け取った。
全てお金で解決したように思えた。
夫を身ぐるみ剥がして追い出すという、私の長年の計画は思い通りにことが進んだ。
なのに、なのに……
グレンは王都を出発するとき、メリンダ様を連れて戦地へ向かった。
彼女と別れられなかったのだ。
彼女との関係は終わったと言ったくせに、それも嘘だった。
結局、グレンは私たち家族よりメリンダ様を選んだ。
グレンに対する愛情はもうなくなっていたが、最後まで私を裏切ったという事実はしっかりと私の心の中に残った。
彼は最低の夫だった。
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