犬と駆ける

冬野 向日葵

お題『あさって』『かばん』『犬』

 それは、ある日の朝の教室のこと。


「え、えぇー!?」

「どうしたのよ?」


 ランドセルの中に入っている教科書、金曜日のものだったんですけど!?


「教科書、間違えちゃった……今日国語ないじゃん……」


 ちゃんと昨日のチェックでは水曜日の用意をしたはずなんだけどなぁ。


「え、今日は国語あるけど?」


 へ!?

 そう思って黒板のほうを見るとなんと不思議、金曜日って書いてあるじゃん!


「あー、ごめんごめん。今日水曜日だと思っちゃった」

「もう、アンタったら……」



 そんなことも忘れて家に帰ってきたら、いつも通り犬のリクがお迎えしてくれる。


「ワン、ワワン!」


 何を言っているかわからないけど、そういうところも好きなんだよね。



「明日は土曜日だし、ちょっとくらい夜更かししても大丈夫だよね!」


 そんなことを言いながら漫画を読んでたら、にーちゃんに冷めた口調で声をかけられた。


「彗、早く寝なよー」

「えー、いいじゃん、明日はお休みだよ……?」

「そうやってとぼけても無駄だ。第一、明日は木曜日だろ」


 はい……?

 そう思ったとき、朝の出来事を思い出したんだ。


「にーちゃん、スマホ見せて!」

「どうした急に……まぁいいけど」


 そこに書いてある日付は、水曜日のものだった。

 今日の学校生活は、ひょっとして夢だったのかな?



 次の日、学校に行ったけど――校門は閉まっていたから、とんぼ返りで家に帰ってきた。


「ワワン、ワワン」


 玄関で慰めてくれるリクも、悲しそうな感じがする。


 ――え? なんで普段はわからないリクの感情が分かったんだろう?


 そんなことを気にしているうちに、空は真っ赤、夕方になっていたんだ。

 おかしいな、そんなに時間はたっていないはずなんだけどなぁ……


 と思ったら今度は真っ黒な空に、暗い夜になっちゃった。

 これ、早送りみたいなんですけど!?


「ワン!」


 リクがそう吠えると、早送りされた空模様はピタッと止まった。


「もしかして、リクのせいなの?」


 曜日がおかしかったのも、全部……


「ワン……」


 本当はこうしたくはなかったんだ。と言いたいように感じた。


「そうなんだ。まぁ、ほどほどにね」


 私は何も考えず適当にそう返した。


「ワワン……」


 わからないの? そう伝えたいようだったけど


「わかるわけないよ、私は被害者なんだよ」


 私があっさりそう返したら、リクはどこかへと駆けていった。


 次の日からは、平穏な生活が戻った。


 ――その代わり、リクが行方不明になった。

 だけど家族みんな「リク? 誰それ?」っていうんだ。


 結局、何だったんだろう……

 そう思ったのも、ほんの数日だった。

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