第46話

シンが客席に目を向けると、ユウとアヤコとショウタがいた。

さらに、今回のもう1人の主役であるマユミちゃん。

ショートカットでちっちゃい、かわいい子だ。


ユウが声をかけて、最前列に連れて来たのだ。

シンがハジメに合図をした。


ハジメは「マジかよ」って顔をしていたが、目には力が入っていた。


シンはマイクを前に、ニコリと笑った。


「んじゃぁ、クリスマスイブを最高に楽しもう。まぁずは1発目」


カツヤのスティックが響いた。

お決まりのライブ開始の合図。

ステージの上は、何度来ても最高だ。


あっという間に3曲が終わった。


そして今夜の主役、ハジメの出番が迫って来た。


「みんな、次が最後の曲になります」


会場の盛り上がりは最高潮。


「『伝えたい』…聞いてください」


ものすごい汗をかきながら、メンバーはハジメのために全力を振り絞って演奏した。

曲も終盤、ついにハジメのソロパート。

シンはハジメをセンターに招いた。


40秒にも及ぶハジメのソロギター。会場にはギターの音だけが鳴り響いていた。


上手いとか下手とかのレベルではない。

ハジメの気持ちのこもった演奏は、間違いなくカッコよかった。


拍手に包まれながら、長い40秒は終わった。

ここからが、本当のクリスマス・ライブだ。


ライブの空間と興奮は、人を簡単に変えてしまう力をもっている。


覚悟を決めたハジメの背中は、本当にカッコよかった。

マイクを握り締め、ハジメがゆっくりと語り出した。


「みんなが楽しんで最高の気分のときにごめんなさい。少しのあいだ、俺に時間をください」


観客は一斉に静まり返った。


なんとも言えない空気が、ライブハウスを包んだ。


「今…最前列にいるマユミちゃん、あなたに伝えたいことがあります」


会場からは、おぉぉっと歓声が上がった。

マユミちゃんも、ここで初めて自分が前に連れて来られた理由に気がついたみたいだ。

顔は真っ赤になり、恥ずかしそうにしていた。


「僕は初めてあなたを見たときからずっと…」


ハジメが唾(つば)をぐっと飲み込んだ。

会場にいたみんなも同じだった。


「ハジメ、頑張れ」


メンバーが後ろから声をかけた。


ハジメは力強く頷き、顔を上げた。

しっかりと、マユミちゃんを見つめながら。


「好きです…付き合ってください」

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