第43話

シンは面倒くさそうに答えた。


「いいから行くよ」


いつものように、結局ユウに引っ張られて階段を登ることになった。

結構な高さがあるので、上に着く頃にはシンは息が切れていた。


「だらしないなぁ、ほら見てみなよ」


「わかったよ」


シンは肩で息をしながら、ユウの指差すほうを振り向いた。


そこには一面、街の夜景が広がっていた。


まだこの頃の2人には自転車か原付ぐらいしか移動手段はなく、徒歩で行けるこの場所から見る夜景が最上級のものだった。


「綺麗だなぁ」


シンの素直な感想だった。


「なにが? 私?」


シンはユウの顔を真顔で見た。


「んなわけねぇだろ」


きっとこんなとき、イケてるやつなら気の利いたセリフでも言うのだろうが、田舎の中学生には無理な話だ。


「もう」って顔をしながらも、ユウは話し始めた。


「ここはね、前にアヤコと来たの。いつかシンと来たいなぁって思ってたんだ」


「近くなんだし、いつでも来れるだろ?」


「なんかね、タイミングだよ」


「そうなのか?」


シンは不思議そうな顔をしていた。


「シンはさぁ、多分すごく我慢強いんだよ。でもねぇ、私にはシンが『助けてぇ』って叫んでいるのが聞こえるの」


ユウは真剣にシンを見つめていた。


「そっ、そうかなぁ」


「うん、シンはいつも明るくて馬鹿ばっかやってて、悩みなんてなさそうなのにね。でもそんな人が、あんな悲しい顔しないよ」


座り込んでいたシンの頭を、ユウはそっとなでた。


「…そんなことねぇよ」


ユウは何も言わず、シンを包み込むように抱きしめた。

シンも自然にユウに身を任せた。


「シン、無理矢理なにかを聞こうとは思わないよ。それでも、シンのそばにはいつでも私がいるんだからね」


シンはユウの優しさに包まれながら、うっすら涙を浮かべていた。


「ここにはね、毎年1週間だけクリスマスツリーができるの。ライブなんかで忙しいけど、これだけは約束してほしいな。ここに毎年、クリスマスに来よう」


シンは顔を上げられなかったが、ユウの腕のなかで頷いた。


「シン、たまには休んでいいんだからね。無理しなくていいんだからね」


ユウの優しい言葉の数々が、シンをさらに包んでくれた。

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