クリスマス

第42話

「シン、どうしたの?」


急にユウに肩を叩かれた。

シンはハッとした。


「おっ? なんでもねぇよ」


シンは、最近疲れのせいか、ボーッとしている時間が増えた。


「シン、なんか疲れてる? 風邪でもひいた?」


ユウが心配そうに覗き込んできた。


「大丈夫だよ、わりぃわりぃ」


シンは作り笑いをして立ち上がった。


この日も、クリスマスイブのライブに向けての練習日だった。


疲れていないと言えば嘘になる。

毎朝寒いなか、チャリをこぎ新聞配達をしているのだから。


だがこの頃、シンは身体的によりも精神的に疲れきっていた。

ふと、スイッチが切れてしまうような感覚。

起きているのかさえ、わからなくなるぐらいだった。


そんなシンを、いつも近くにいるユウは心配そうに見ていた。


「よぉし、やるかぁ」


いつものように、シンの掛け声で練習が始まる。

少なくとも、こういうときのシンはいつもと変わらぬ明るいシンだった。


バンドもユウとの付き合いも順調で、シンはまさしく青春ど真ん中だった。

誰もシンの変化には気がつかなかった。


たった1人、ユウを除いては。


『お疲れぇ』


2時間の練習も終わり、みんな解散した。


「シン、少し出かけない?」


ユウからの突然の誘いだった。


「時間、大丈夫か?」


「少しならね。行こう」


ユウに引きずられるまま、近くの公園まで向かった。


「ユウ、12月だぞ。寒いよ」


「なに言ってんの、男でしょ。優しく『寒い?』とか聞いて抱きしめてくれるもんでしょ」


「ユウから弱さは伝わってこねぇよ」


シンは大声で笑った。


「なによそれ」


口を尖(とが)らせながらも、ユウはシンの腕をしっかり掴んだ。

ユウの温もりが伝わってくる。

すごく寒かったけど、ユウの温もりが寒さを忘れさせてくれた。


「あそこまで登らない?」


ユウが指差した先には階段があり、少し高いグラウンドに行けるのだ。


「えぇぇぇぇ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る