第41話

お金がないことを理由に好き勝手やっていた。

でも、ユウと出会って1年、そんな簡単なことにようやく気がついた。


しかし、現実はシンに残酷(ざんこく)な暗闇への入り口を用意する。


「シン…明日から働いてくれ」


親が、深々と頭を下げた。親の真剣な顔に、反論することはできなかった。


「わかった」


言い訳をしても抗議をしても変わらない、諦(あきら)めの返事だった。

これでも、少し貧乏なだけなのか…シンの心に迷いが生まれた。


翌日から、親の知り合いの新聞屋で配達をすることになる。


シンは黙々と仕事をした。

この自分が普通なのか…シンは何度も自分に問いかけた。


きっと、1年前なら逃げ出していた。これは成長の証(あかし)なのか?

我慢することも、普通でいるためには必要なのだろうか?


配達をしていると、朝早いにもかかわらず町の人に声をかけられる。


「偉いね」

「頑張るねぇ」

「お疲れさま」


うざかった。

同情されるのが惨めに思えた。


泣きそうな心を必死に抑えて、シンは毎朝新聞配達をした。


学校や仲間には、バイトのことは隠していた。

もちろん、ユウにも。


なんで俺だけ…そんな迷いと怒りをため込みながら。


我慢はシンの心を苦しめていった。

ゆっくりと時間をかけて。


小さい頃からためてきた思いは、心の崩壊を予告していた。


それでも、ユウやバンドに支えられながら、なんとかシンの心は平静を保っていた。

突発的な暴走…それは少なからず、子供の頃のストレスが原因だ。


こんなギリギリの精神状態こそが、シンの中学時代であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る