第40話

日に日に堕(お)ちていく生活。

食事の差。

着る物の変化。

親の喧嘩の頻度(ひんど)。


少しずつ、シンの家庭は崩壊していった。

明るい笑顔が絶えない家庭は、遠い記憶になった。


親が喧嘩をすれば、弟と公園に逃げる。

食事はできるだけ弟に与える。

徐々に堕ちていく生活に、恐怖は募(つの)るばかりだった。


しかし弟の存在は、少なからずシンの心の支えになっていた。

生活が苦しくなる原因かもしれないが、孤独なんかよりは数倍よかった。


そんな家庭環境でも、シンは親を恨(うら)むことはなかった。


貧乏でも損得なしで知り合いの息子を引き取って、必死に働いている姿は尊敬に値するからだ。


家族がいれば、それなりに幸せだった。

それでも、中学1年生になったばかりのシンは普通に遊ぶ金がほしかった。

お小遣いなんてもちろん貰(もら)っていなかった。


友達と普通にジュースやお菓子を食べたかった。

一緒にゲーセンで遊びたかった。


そのために、シンはかつあげや万引きを繰り返した。

友達と同じことがしたい、普通に遊びたい…その思いからの行動だった。


間違っているとは思うが、ユウにもバンドにも出会っていなかったシンは、それしか選択肢を見つけられなかった。


次第に仲間から嫌われ、孤立するようになる。


上手いやり方を見つけられず、仲間から見捨てられたシンは、堕ちていくことを選択した。


居場所を見つけられないまま、シンはヤンキーへと変貌していく。


タバコを吸い、次第にハッパを覚え、金がなくなれば奪う。

普通を求めたシンは、もうそこにはいなかった。


そうなってしまったのは自分のせいではないと言い聞かせ、世界で一番不幸なのは自分だと信じていた。


そんなシンが完成した頃に、ユウと出会うことになる。

ユウの真っ直ぐな目が、シンの生き方をすべて否定してるように見えた。


今や、ユウはシンにとってかけがえのない存在になっていた。

ユウがいれば楽しいし、ユウがいてくれたから真面目になれた。ユウの存在が、バンドを作るきっかけをくれた。


何が変わったかシンにはわからなかったが、きっと今の自分が正解であるという気がしていた。


金なんてなくたって、中学生にはなんの問題もなかった。

楽しいことなんて、いくらでもあったのだ。

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