ユウの夢
第37話
11月になり、いつの間にか辺りは寒くなってきていた。
バンドの練習も、ユウの部活もない休日。シンはユウを誘って、紅葉を見に行くことにした。
シンの町にある白い橋。
橋の真ん中には、小さなベンチがある。
心霊スポットと自殺の名所で有名な場所だが、昼間は、綺麗に木々が生い茂る風景が心を癒(いや)してくれる。
橋の上のせいかとても寒かったが、シンはユウの手をしっかりと握り、身を寄せ合ってベンチに向かった。
橋の上では、数組の老夫婦が仲よく散歩していた。
「シン、私たちもあんなふうにいつまでも仲よくしてられるかなぁ?」
ユウは、老夫婦を羨(うらや)ましそうに見ていた。
「まぁな。ユウと付き合う物好きは、世界中に俺しかいないだろうからね」
「まぁねぇ、シンみたいな馬鹿の面倒見るのは、私しかいないもんね」
「言ってくれるねぇ」
シンとユウはクスクス笑いながらベンチに腰掛けた。
かすかに紅葉も始まり、静かに川が流れていた。
こんな景色を毎年ユウと見たいと、シンは心のなかで思っていた。
「ねぇシン」
「んっ?」
ボーッとしていると、ユウがシンにそっと話し始めた。
「ねぇシン、私さぁ、小児科の看護婦さんになりたいんだよね」
「どうした? いきなりそんな話」
いきなりのユウの発言に、シンは少し戸惑った。
「なんかね、シンたちを見てて、私も夢に向かって頑張んなきゃなぁって思ったんだよ」
「そうかぁ」
「私ね、誰かが笑っている顔が一番好きなんだ。子供の笑顔はもっと好きなの」
シンは、キラキラした目で話すユウに何も言葉を返すことができなかった。
正直、シンがやっていることは、夢なんて言えるほどの立派なものではない。
歌手になりたいわけでもない。今はそれしかないから、バンドに没頭しているだけだ。
「やっぱりシンは、バンドマンを目指すの?」
追い討ちをかけるかのように、ユウの言葉がシンの胸に突き刺さった。
「…夢かぁ、俺は歌は上手くないし、目指してるわけじゃないから」
シンはうつむいた。
「そうなの?」
ユウは不思議そうにシンを見ていた。
たしかに、このときのシンにはバンドはすごく大切なものだった。
誰に話しても恥ずかしくないぐらい、誇りに思っていた。
バンドは、シンに音楽の素晴らしさを教えてくれたし、何よりも仲間の大切さを教えてくれた。
でも、それが自分の未来の夢に繋(つな)がっているのかと聞かれても、しっくりこなかった。
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