第33話

「なら話ははえぇよ、そんなんもってるやつは3人しかいねぇし、割り出してやらぁ」


「そんな…危ないからいいよ。シンになにかあったら大変だし、怪我も大したことないから」


ユウは、表情の変わったシンを必死になだめた。


「そうかぁ? ユウが言うならいいけどさ」


シンはいつものニコニコ顔に戻って言った。

面会時間ぎりぎりまで、シンはユウに付き添った。


「じゃあユウ、俺はそろそろ帰るね。ゆっくり寝ろよ」


「気をつけてね」


ユウの笑顔を見て、シンは病室を後にした。


しかし、シンの怒りは消えたわけではなかった。

病室を出た瞬間、シンの表情が一変する。


「あいつら、ただじゃおかねぇ。殺してやる」


シンはさっきまでの笑顔が嘘のように、鬼の形相になっていた。

さっきまでの表情は、ユウを安心させるための偽りの顔だった。


暗くなった町に出たシンは、族のやつらがたまりそうな場所へ向かった。

族のやつらはみんなシンより年上。

シンは数カ月いただけである。


普通なら怖くて近寄りもしないが、ユウの復讐に燃えているシンに、恐怖心はなかった。


シンはまず、病院から一番近いゲーセンに向かった。


外には数台のバイク。

そのなかに黒いバイクが1台あった。


それを確認したシンは、ゆっくりゲーセンに入って行った。


入ってすぐのところにあるレースゲームの周りに、見慣れた顔の先輩たちがたまっていた。


シンはゆっくりと近づき、話しかけることもなくいきなり殴りかかった。


4、5人はいただろうか。

殴られた先輩は、突然のことに縮こまっていた。


「てめぇ、シンじゃねぇか。なんなんだコラ」


先輩の1人がシンの胸ぐらを掴んだ。


「うるせぇなぁ、ユウを轢(ひ)いたボケはどいつだ」


シンは先輩に囲まれながらも、一歩も引かず睨み返した。


「なにを言ってんだ、お前は。わけわかんねぇこと言ってんな」


本当に知らない様子だった。


「黒いバイクに乗ったやつはほかにどこにいる?」


シンは掴まれている手を振りほどき、睨み返した。


「それなら…公園にいるだろうよ」


「わかった、ならお前らに用はねぇ」


シンはそこから去ろうとした。

しかし、いきなり中坊に殴られておいて、黙っている族はいない。


シンは、裏の駐車場に連れて行かれた。


「調子こいてんじゃねぇぞ、中坊が」

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