第31話

当日、2人きりでの初の遠出になる、ディズニーランドへ向かう始発列車に乗り込んだ。


シンは、いざディズニーランドに到着しても、いまいち楽しめなかった。

それでも、隣で楽しそうにしているユウを見ていると、なんだか幸せな気分になった。


だが…最後には、ユウが呆れるぐらいに「ミッキー」と叫んでいた。


家の事情で、シンは小さい頃にあまり遊園地に連れて行ってもらったことがなかった。

夏休みが終わって、クラスのみんながどこかに行った話をするのを、いつもクラスの隅っこで聞いているだけだった。

話に混ざれず、寂しかった。


そしていつしか、「遊園地は嫌いだから行かない」と嘘をつくようになっていた。


子供会や学校の行事で行くときも、自分の嘘を気にして、いつもはしゃげずにいた。


いつの間にか、嘘で殻(から)を作り自分を抑えていた。


しかし、ユウと2人きりでディズニーランドに行ったことで、シンのなかで眠っていた思いが呼び起こされた。

今までのぶんを遊び尽くすかのように、シンははしゃぎまくった。


遊び疲れ、2人でベンチに座ったときには、もう辺りは暗くなり、綺麗にライトアップされていた。


「ふぅ、疲れた。なんだかんだ言って、結局シンのほうが楽しんだんじゃない?」


「いやぁ楽しかったなぁ、最高」


シンとユウは肩を寄せ合った。

綺麗なシンデレラ城を見つめて、2人はしっかりと手を握っていた。


「ユウ」


「なに?」

「また必ず来ようなぁ、今度は嫌な顔しないからさ」


「もちろん、また見に来ようね、この景色」


人が行き交うシンデレラ城の前で、そっとキスをした。

2人とも恥ずかしくて、真っ赤になっていた。


「よし、行こうか」


シンはユウの手を引き、ゆっくりとディズニーランドを後にした。

クタクタだったけど、最高の気分だった。


また一緒にこの場所に来ようと、何度も誓(ちか)い合った。


もう夏も終わる。そしてまた、新しい季節がやって来る。


中2の夏。

シンは、1年前とは比べ物にならない充実した時間を、ユウと一緒に過ごしていた。

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