第30話
「ユウ…俺は頑張るよ。俺にとってはユウがいてこそのバンドだから、ユウがいなきゃ意味がないよ。もっとしっかりして、ユウに寂しいなんて言わせないから」
シンはさらに強く、ユウを抱きしめた。
「ユウのことをもっと大切にするから、また聴いてほしい。上手くはないけど、ユウにカッコいいって思ってほしいから」
ユウは涙も拭(ふ)かず、軽く顔を上げた。
「私はわがままだよ。迷惑じゃない? めんどくさくない?」
「そんなの知ってるよ。わがままでぶさいくで強気で、でもそんなユウが好きなんだから」
「ぶさいくは余分じゃない?」
ユウがほっぺを膨(ふく)らませた。2人して、なぜか吹き出してしまった。
「まぁ、シンの音痴な歌をいつまでも真剣に聴いてあげられるのは、私だけだもんね」
「それでこそいつものユウだな。音痴は余分だけどね」
一瞬の間。2人は、自然と唇を重ねていた。
これが、遅いくらいの2人のファーストキス。
なんだか恥ずかしくなって、2人とも顔が真っ赤になった。
恥ずかしさを紛らわすかのように、シンが切り出した。
「これ、誕生日プレゼント」
そっと袋を差し出した。
「…開けていい?」
シンは黙って頷いた。
「なんだろ? …あっ、リストバンドだ」
3本ラインのリストバンド。
「まだ金もってないし、ペアリングなんて買えないから、これはそれまでの代わりで」
シンはもうひとつの袋からリストバンドを取り出して、自分の腕にはめ、ユウにも着けてあげた。
「ペアリングなんていらないよ。ありがとう、大切にするね」
ユウは満面の笑みだった。
とても長い1日。
付き合って初めて一緒に過ごす、ユウのバースデーだった。
ライブも終わり、メンバーはもちろん、シンも残り少ない夏休みを満喫(まんきつ)していた。
もうすぐ夏休みも終わるという頃、シンはユウにお願いされた。
「ねぇシン、私ディズニーランドに行きたい」
「ええ~やだよ。そんなとこ行きたくない」
シンは遊園地が嫌いだった。人込みは苦手だし、乗り物が大嫌いだった。
しかし、ユウは大のディズニー好き。そこだけはまったく引いてくれなかった。
「いいじゃんよ、彼女をほったらかして、毎日毎日、バンド、バンド、バンドだったくせに」
ユウのあまりの迫力とねちっこさに、シンは完敗した。
「わかった、わかった。行くよ」
こうして、シンは嫌々ながらディズニーランドに行くことになった。
それまでまったくやっていなかった宿題も、鬼コーチ、ユウの監視のもと、ディズニーランドに行く日までに完成させた。
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