約束

第29話

シンはライブが終わったあと、会場の外でユウを待っていた。

続々となかから人が出て来たが、ユウの姿はなかった。


いつの間にか、シンは同級生たちに囲まれていた。

学校に行かなくなって離れていった同級生たちも、シンの周りに集まって来た。


悪い気はしなかった。

持ち上げられて有頂天(うちょうてん)で話し込んでいると、ハジメが慌ててシンにかけ寄った。


「シン、なにやってんだよ。ユウちゃん泣きながら帰っちまったぞ」


「なんでだよ」


「知るか。急いで行けや」


シンはみんなを振りほどいて、ユウを追いかけた。


「シン君、お疲れ。少し話さない?」


そこにはアヤコがいた。


「悪い、アヤちゃん。後でゆっくり話そう」


「あっ、はい」


シンの頭のなかには、もうユウのことしかなかった。


なぜ、ユウは泣いていたのか?

なぜ、ユウは帰ってしまったのか?


シンには見当もつかなかった。


やっとユウの家に着いたときには、離れにあるユウの部屋からうっすら明かりが漏(も)れていた。

シンは急いでユウの部屋に入って行った。


「ユウ…」


そこには、うずくまって泣いているユウがいた。


「ユウ…どうしたんだよ?」


シンは、息を切らせながら座り込んだ。


「……」


シンはそんなユウを前に、何も話すことができなかった。

長い長い沈黙が、2人を包んだ。

シンは、そっとユウの肩に手をあてた。

ユウは泣き続けていた。


「ユウ…なにがあったんだよ」


シンは優しく語りかけた。


ユウはゆっくりと口を開いた。


「…シン、ごめんね」


ユウから出た最初の言葉だった。


「なんで謝る? ユウはなにもしてないだろ」


シンには、ユウの涙の理由も「ごめんね」の意味もわからなかった。


「シンがね、バンドを頑張っているのはわかるの。でも、本当は寂しくて。今日はすごく嬉しかったよ、大切に思ってくれてるのが伝わってきたよ」


ユウはゆっくりと話し始めた。

シンはじっと、ユウの話に耳を傾けた。


「だけど…外で女の子や友達に囲まれているシンを見たら、すごく遠い存在な気がして。ごめんなさい、私…自分でもわからない。ごめんなさい」


ユウは「ごめんなさい」を繰り返した。


シンはユウの気持ち、そして涙の意味を少しだけ理解することができた。

突き刺さるような胸の痛みが、シンを襲った。


「ごめん…ユウ」


52ユウのためにと、勝手に自己満足していた自分を、シンは深く反省した。


「俺は、大切なことを忘れてたよ。ユウのためになんてカッコつけて…自己満足だよな。ユウごめんよ」


シンは、黙って首を振るユウを抱きしめた。

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