第28話

シンが生まれて初めて書いた詩。

かなり荒削りなスローバラードだ。


歌唱力なんてもちろんないが、それでも目の前のユウのために気持ちを込めて必死に歌った。


正直、練習とライブの緊張で喉はガラガラだった。


客席のユウは、胸の前で手をギュッと握り、じっとシンを見つめていた。


シンも、暗いフロアのなかのユウだけを見て歌った。


曲もメチャクチャ、詩だってまとまりない。


だけど、気持ちだけはギュウギュウに詰まっていた。


曲も終わり、シンはゆっくり深呼吸をした。


初ライブが終わった。


シンは、達成感と安堵(あんど)感に包まれていた。


観客はシーンと静まり返った。

シンたちは、その雰囲気に困惑した。


しばらくすると、観客席からパラパラと拍手が起こった。

いつの間にか拍手は大きくなり、歓声に変わっていた。


なんとも言えない快感だった。

ステージの脇に下がったメンバーは一言も喋らず、不思議な震(ふる)えと、達成感に酔いしれていた。


少し時間がたち、落ち着いた頃にシンが話し始めた。


「みんなぁ、気持ちいいなぁ、ライブ。またやろうな」


全員が頷いた。自然と円陣を組み、がっちり握手した。

清々しい汗、びっくりするぐらいの笑顔。


こんなときには、いつもは恥ずかしくて見ていられないような青春ドラマのようなことを、違和感なく自然にできてしまうのだから不思議だ。

まだ会場では、ライブが続いていた。


すごく上手い演奏、上手い歌。


「まだまだこれからだよな」


誰かがぽつりと言った。


「そうだよな」


「もっとやってやろうぜ」


「夢は東京ドームだしな」


「負けてられねぇよな」


全員に、さらなるやる気が生まれた。次こそはもっと。


バンドはやめられない。

シンは、完全にバンドの虜(とりこ)になっていた。

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