第27話

「んっ? そうだなぁ、まずはライブが終わらないとわからないな」


「そっ、そうだよね。楽しみにしてるから頑張ってね」


「おう、まかしときな」


このとき、気がつくべきだった。ユウが寂しそうな顔をしていたのを。


しかし、このときのシンはバンドに夢中のあまり、気がつくことができなかった。


ユウに「カッコいい」と言ってもらいたくて始めたバンド。

でも、そのバンドが2人の大切な時間を崩していた。


ユウのために頑張っている…シンは、一方的な自己満足に浸っていたのだ。

熱中した1カ月はとても早い。


あっという間にライブ当日になった。


L.B.C初ライブの日。

そしてユウの誕生日。


この1カ月、ユウのバースデーソングを必死に練習してきた。


カツヤの兄貴のライブにちょこっと出してもらうだけだったが、シンたちにとってはデビュー戦。気合いは入りまくっていた。


ユウは、客席の真ん中にアヤコと2人で座っていた。


シンたちL.B.Cは前座みたいなもの。出番はすぐにやって来た。


メンバーで円陣を組み、気合いを入れた。演奏する曲は4曲。


緊張が興奮に変わっていく、なんとも言えない気分。

少し薄暗いステージで、ほかのメンバーが先にポジションについた。


演奏が始まった。


曲はもちろん、あのSOPHIAの曲。


シンは深呼吸してステージに突っ込んだ。

歌い出しまで、シンはライブ会場を見渡した。


カツヤの兄貴の友達が半分。シンたちの同級生が残り半分を占めていた。


目の前にはユウがいた。

シンはニッコリ笑うと歌い出した。


相変わらずの音痴。

多分、かなり酷いボーカルだろう。

それでもシンは必死に歌った。

歌詞なんか吹っ飛んでいた。


何を歌っているのかさえ、わからなくなるような疾走(しっそう)感。


メンバー全員が、フルマラソンを走ったあとのような汗をかいていた。


あっという間に3曲が終わった。


「今日は、僕らL.B.Cの初ライブです。これからも頑張って行くのでよろしく」


シンがMCを始めた。次がラストの曲。


「じつは、僕の彼女が今日偶然にも誕生日なんです。彼女のために作った初のオリジナルです」


会場から声援が飛んできた。


ユウはまったく聞かされていなかったから、顔を真っ赤にしていた。


「最後の曲です」


『YOU』

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